第55話 シリルの初恋 (2)
「そうだ、どこから来たか分かる?」
「ずっと歩いてたから、どこから来たか分からなくなっちゃった…」
「ちょっと待ってて」
シリルは建物の柵や看板を伝って道に降り立ち、店の前で椅子に腰掛けている老人に声を掛ける。
「すみませんニャ」
「なんだい?」
「エリーって人、知らないかニャ?」
「うーん、知らないねえ」
「ありがとニャ」
同じように降りてきたリリーが感嘆の声を漏らす。
「凄い、人の言葉が話せるの?」
「そうだよ!」
「カッコいいね!」
リリーの言葉に顔を赤らめる。
やる気を出したシリルは更に他の人にも聞いてまわる。
しかし、誰からも有力な話は聞けなかった。
バレないように遠目から見守っていたログ。
仲良く話してるみたいだから声掛けなかったけど、あの子の飼い主を探してるみたいだ。
ログも道行く人にエリーという人を知らないか尋ねるが、誰も知っている人はいなかった。
あ、シリルがいない!どこ行ったんだ?
ログは左右を見渡し、当てずっぽうに歩き始める。
◆
ログがシリルを再び探し始めた頃、シリルは路地裏にいた魔犬と対峙していた。
シリルと魔犬はお互い威嚇し合う。痩せ細ってはいるが、体格は向こうの方が何倍も大きい。
リリーは怯えて身体を震わせている。
こいつに特別な力はないけど肉食ニャ。
腹減ってるんだろうけど、ご飯になってあげるわけにはいかないニャ!
シリルが魔犬の首元に飛びかかる。
これで噛みつかれないニャ!
しかし、魔犬は首を素早く左右に振る。その勢いで吹き飛ばされてしまう。
さらに噛みつこうとする魔犬が迫る。
どうにか寸前で避けると、シリルは壁に向かって飛び跳ねる。そのまま反対側の壁に飛び移り、高さを確保する。
食らえニャ!
両足を揃えて魔犬へと飛び蹴りを食らわせる。
まともに攻撃を受けた魔犬は、その場に倒れた。
「シリル!凄く強いのね!」
「こ、これくらい余裕だよ!」
危なかったニャ。倒れてくれて良かったニャ…。
ホッと息をつくシリル。
リリーは目をまわす魔犬に近寄る。そのとき、何か気になる匂いがした。
「あ、この匂い、嗅いだことある!エリーが好きなお菓子の匂いだ!」
◆
ホスブラが引く馬車の中。
「お嬢様、リリーは他の執事達が探しています。どうか気を落とさないでください」
「でも、でも、もしリリーとこのまま会えなくなったらって思うと…」
まだ幼いお嬢様はまた悲しそうに目を潤ませる。
リリーがいなくなってから二日。
不安は募る一方なのだろう。
何か手がかりの一つでも見つかればいいのだが。
「リリーが戻ってきたとき、お嬢様が元気じゃないとリリーも悲しみますよ」
「でも…」
「今日はお嬢様のお気に入りのお菓子でも買って帰りましょうか。あそこにはリリーが好きなおやつも置いてましたね。もしかしたら匂いにつられて帰ってくるかもしれませんよ」
「うん…」
店に着くと色とりどりの菓子が出迎えてくれた。
しかし、その菓子でさえもお嬢様を笑顔にするには足りないようだ。
しかし、たとえ気休めでもないよりはいい。
「さあ、お嬢様。どれにしましょうか?」
「やっぱり今日はいい…」
少女は小さく首を振った。
そんな気分ではないか。仕方ない。
「そうですか…。ではお屋敷に戻りましょうか」
馬車に戻ろうとしたとき、背後から大きな鳴き声が聞こえてきた。
「ニャア!(エリー!)」
振り返ると、リリーが飛びかかってきた。
少女は泣きながら強く抱きしめる。
二人は幸せそうな笑顔を浮かべていた。
「リリー!!リリー!!良かった、本当に良かった…!」
「ニャアッ!(ありがとう!)」
リリーがシリルに目を向けたとき、彼の姿はどこにもなかった。
「リリー!早くお家に帰ろう!」
「ニャア!(うん!)」
執事は店主に声を掛ける。
「店主殿。店の前で騒がしくして申し訳ない。このお得意様セットを一つもらいたい」
「いえいえ、毎度ありがとうございます。エリザベスお嬢様の嬉しそうなお顔が見れて、私も嬉しくなりますよ」
◆
もう夜になっちゃったニャ。
ゼインとログ寂しがってないかニャ。
トボトボと道を歩いていると、曲がり角からログが現れる。
「あ、シリルいた!」
「ログ!」
シリルはログに駆け寄ると、そのまま抱きつく。
その身体には至る所に擦り傷や汚れがついていた。
「用事は済んだの?」
「…うん、終わったニャ」
シリルは満足そうに笑った。
「そっか。じゃあ帰ろう。今日の夜ご飯はシリルの食べたい物にしようか!」
「やったニャ!魚がいいニャ!」
「よし、じゃあ市場行こっか!」
その頃、ゼインは部屋のベッドで大の字になって、手足をジタバタさせていた。
「あー、腹減ったー」




