第54話 シリルの初恋 (1)
「ゼイン〜、いつまでこんな森の中を歩くの?」
ロムレスの王都を離れてから二日。
僕達は朝から山道をずっと歩いていた。
傾斜もきついし整備されてないから、進むのもひと苦労だった。
先を行くゼインは何かを探しながら歩いているようだった。
しかも、僕の話聞いてくれないし。
「スオナさんからもらった手記だと、この辺に…あ、あった!」
目当ての物が見つかったようだ。
ゼインはその葉を数枚採集する。
見た目は普通の葉だ。何か珍しい物なのかな。
「そんな葉っぱどうするニャ」
「フッフッフ。これはなグリートリーフと言って、こうして木の枝なんかで文字を書いて…」
葉の表面に何か文字を書いているようだが、何を書いているか分からなかった。
「でも、こうして砂の中に埋めると…」
「あ、『ゼイン』って書いてある!」
「な、面白いだろ?」
ゼインは子どもみたいに無邪気に笑った。
「この葉は厚みがあるから、表面を木の枝で削っても見た目じゃ分からない。でも、こうして土の中に入れれば、その窪みに砂が埋まって文字が浮かび上がるってわけだ」
「へえ!」
「昔の人はこれを手紙代わりに使ってたらしいぜ」
ゼインはふと僕の後ろに生えていた植物に目を向ける。
「あ、キハタだ!こっちにはナツツユクサもある!」
「採集したかったから、森の中を通ってるのか…」
「絶対そうニャ」
時間も忘れ、森を楽しそうに探索するゼイン。
こうなってしまっては落ち着くまで待つしかない。
昼になり、ゼインはようやく調査を切り上げてくれた。
整備された道に降りて暫く進むと、山の麓に街が見えてきた。
王都ほどではないが、大きな街だった。それに色んな服装の人が歩いている。冒険者や旅行者が多いみたいだ。
宿屋も多いようだし、王都までの小休憩の地として利用している人が多いのかもしれない。
それにしても夜になる前に街まで来れて良かった。昨日は野宿だったから、今日は布団でゆっくり寝れそうだ。
「今日はこの街で休んでくか」
「そうだね」
「シリル、もう疲れたニャー」
「お前は途中からログの頭の上にずっと乗ってただけだろ」
宿屋に行くと、ちょうど一部屋空きがあった。
室内はベッド二つと小さな机が置いてあった。よくある造りだ。
ゼインは早速採集した葉や木の実を使って実験を始める。
僕は街でも散策しようかな。
そのとき、窓辺を白いキャトリアが目の前を通り過ぎて行った。
「シリル、今のキャトリアじゃない?」
しかし、シリルは窓を見つめたまま反応しなかった。
どうしたんだろう?
そんな心配をする間もなく、シリルは突然窓から飛び出す。
「あ、シリル!」
慌てて窓から外を覗くが、屋根伝いに走って行ってしまった。
ログはシリルを追いかけようとすると、ゼインが引き止める。
「ほっとけ、そのうち戻ってくるだろ」
「でも、心配だよ」
「ったく。この宿、食事付いてないからテキトーに夜ご飯買ってこい」
何だ、自分も心配なんじゃん。
そのまま慌ただしく宿屋を出ると、シリルの向かった方へと走る。
ゼインは軽く溜め息をつく。
忙しい奴らだ。
森で得た戦利品に向き直ると、そのまま実験を再開した。
◆
「待って!」
※人間には鳴き声に聞こえてます。
シリルの声に足を止める白いキャトリア。
近くで見ると、より可愛らしい。その姿に目を奪われる。
だが、その毛並みは乱れ、あちこち汚れていることにも気がついた。
「どこ行くの?」
「分かんない…」
「もしかして、迷子?」
彼女は静かに頷いた。
「僕と一緒に来る?ゼインはイジワルだけど、ご飯くれるし、ログは一緒に遊んでくれる!二人とも凄く優しいよ!」
彼女は俯いたまま首を横に振った。
「ううん、エリーの所に帰りたい…」
落ち込んでる彼女を見て、シリルは励ますように明るく話す。
「分かった!僕も一緒にエリーを探すよ!」
「え?でも…」
「君の名前は?」
「リリー」
「僕、シリル!よろしく!」
建物を飛び渡り、高い場所から街を見渡す。
人間からしても大きな街だが、キャトリアからすれば更に広大な土地だ。
その中からリリーの飼い主を探し出すのは容易じゃない。
でも、何としてもエリーを見つけるニャ!
そしたらリリーに愛の告白をするニャ!
『リリー、エリーを見つけたよ!』
『まあ、シリル!何てカッコいいのかしら!何かお礼をさせて!』
『僕の瞳にはもうリリーしか映らない。ずっと一緒にいてくれないか?』
『嬉しい!シリル大好き!』
妄想を膨らませ、ウフフと口を緩ませるシリル。
「見つかりそう?」
リリーの言葉にハッと我に返るシリル。
そうだったニャ。
告白するためにもエリーを早く探さないとニャ。




