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ゼインは調合したい  作者: トウカ


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第53話 さよならじゃない

拝啓、ゼイン殿


突然のご連絡失礼致します。


貴殿のスキル『調合』、望む薬や物質を生成する能力と伺い、大変興味を惹かれております。

この度、魔物の研究家や収集家等、著名な方々をお招きし、交流会を開きます。

その際、私が所有する貴重な貯蔵品の数々を披露する時間も設ける予定です。

ご都合があえば是非お越しください。

貴殿にお会いできるのを楽しみにしております。


シーケム・ノール


「だってさ。日程は一ヶ月後か」


ゼインが手紙を読み上げる。

聞き覚えのある名前にレイムが言及する。


「ノール家といえば、確かディンゴに屋敷を構えてたはずだ」

「知ってるの?」

「他国だから詳しくは知らないが、シーケム氏は貴族には珍しく魔物研究に興味がある人で、変わり者として有名だ」


魔物の研究をしている人がいるのか。

それに貴重な貯蔵品の数々ってのも気になるし、他にも招待客がいるなら色んな話を聞けるかもしれない。


「ディンゴってどこにあるんだ?」


ゼインの疑問にハクトが答える。


「岩の国、ガンドンだよ。ロムレスからだと結構距離あるし、治安もあまり良くないって噂だけど。行くの?」

「当然!もう今からでも出発したいくらいだ!」


ゼインの言葉を聞いてホムラはそっと顔を伏せた。

ヒロトはゼインの様子を見届けると、満足そうに頷く。


「じゃあ、ゼインくんに手紙を無事届けたことだし、僕はこの辺でバイバーイ☆」


ヒロトは空間を閉じ、跡形もなく姿を消した。

相変わらずせわしない奴だな。

…それにしても、俺の能力を誰から聞いたんだ?


親睦会を終え、ロムレス城に戻ると、ゼインとログは旅路の支度をし始めた。

出発は明日とレイム達に伝えているが、荷物も少ないから今日にでも出発できるくらいだ。


「もうこの城ともお別れか。長かった気もするけど、あっという間だったなあ」

「ここのご飯美味しかったニャ」


そのとき、扉がノックされる。返事をするとスオナが入ってきた。


「ゼイン、今少しよろしいですか?」

「はい、どうかしました?」

「いえ。明日、私は仕事で都合がつかないので、先に挨拶をと思いまして」

「わざわざありがとうございます」

「ゼインと話す時間は有意義で楽しかった。私も君に負けないように精進していきます」


スオナは本を取り出す。しかし、表紙には題名が記されていなかった。

中身を見ると、植物の観察記録や作用等が几帳面にまとめられている手記だった。


「これは私が任務で赴いた土地で散策した時にまとめた採集記録です」

「え、これもらっていいんですか?」

「はい、いつか役立つ日が来るかもしれません」

「ありがとうございます」


スオナはゼインに手を差し出す。

何で手を?

あ、握手ってことか。

ゼインはぎこちなくもスオナの手を握る。

一人で実験するのも楽しいけど、他の誰かと議論したり、知見を深める大切さを学べた。

スオナさんと出会えたのは幸運だったな。

後は…。

ゼインは足元に座るシリルに目をやる。


「ゼイン、どうしたニャ?」

「いや、何でもない」


あのとき背中を押してくれた存在がいてくれたから、こう思えるようになった。


「シリル、おやつ食べるか?」

「食べるニャー!」



翌日。

今日はロムレスでの手伝いを終えたタオウ国の人達も出発するらしい。

兵をひきいるメイランが代表して挨拶をする。


「レイム殿、大変お世話になりました。あなたに繋いでいただいた恩を忘れず、私も民達と向き合っていきます」

「ああ、貴殿なら大丈夫だ!また会おう」


レイムとメイランは握手を交わす。

そして、メイランはゼインにも目を向ける。


「ゼイン殿もタオウを訪れる機会があれば、城までお立ち寄りください。歓迎致します」

「ありがとうございます」

「では」


メイランは胸に拳を置き、敬礼の意を示す。

リューズを含め、兵士達も彼女にならう。

先に旅立つ彼らを見送ると、ゼインはレイムに向き直る。


「じゃあ、レイムさん…」


そのとき、後ろに控えていたホムラが前に飛び出し、ゼインの手を握る。


「ゼイン様!もうここには戻ってこないのですか?これからも一緒にいていただけないですか?ゼイン様の望む材料なら用意できます!ここならきっと実験も捗ります!だから…だから…」


ホムラは目に涙をためていた。彼女の必死の思いが伝わってくる。

それでも、ここでその手を掴むことはできなかった。

ゼインは優しくホムラの手を離す。


「ホムラ、俺は色んな場所に行って実際の魔物を見たり、採取したりするのが好きなんだ。だから、ごめん。ここには残れない」

「…そう、ですよね。すみません、困らせるようなことを言ってしまって。じゃあ、ここでさよならですね」


ホムラは悲しそうに笑ってみせた。


「さよならじゃないさ。近くを通ったらまた寄るよ」


そのとき、ログがホムラの手を取る。


「ホムラ!僕、城にいる間、本当に楽しかった!初めて友達と遊んでるような、そんな感じで…。ごめん、上手く言葉がまとまらないんだけど、僕の一番の友達はホムラだから。これだけは覚えておいて欲しいんだ」

「ログ、私もよ。私と仲良くしてくれてありがとう」

「…じゃあ、またね」

「うん、またね」


強く握るログの手が静かに離れていった。

立ち去る二人の背中が見えなくなると、ホムラは泣き崩れる。


「うぅ…う…」

「ホムラ様…」


チェイズが優しく抱きかかえる。

ホムラの目から大粒の涙がこぼれる。


「チェイズ…私、笑って見送れてたかなあ?」

「はい、ご立派でした」

「い゛ってほしく…なかった…うぅ…でも…困らせたく…ないから…」

「ええ、ええ。きっとお二人にも伝わってますよ」

「うぅ……うっ…ぅ…」



平坦な道を真っすぐと歩き続ける。

凄く静かだ。

ログは足を止めると一言ポツリと呟いた。


「ホムラ、無理してたよね」


ゼインは振り返ると、僅かに目を見開いた。


「…そうだな」

「あんな無理して笑ってさ、本当に…」


おかしいな。景色がぼやける。

拭いても拭いても涙が止まらない。


「うっ…ぐ…う…」


僕の涙が止まるまで、ゼインもシリルも何も言わず待っていてくれた。


「二人ともありがとう。もう大丈夫」

「ホムラに土産話たくさん持って帰らないとな」

「…うん!」

「さあ、行くぞ!いざディンゴへ!」

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