おまけ もっと私を敬いたまえ!
戦争終結後、私達タオウの兵士は瓦礫撤去や資材運搬作業を手伝っていた。
王都で我々に突き刺さる視線は痛々しいものだった。彼らの日常を壊したのだから当然のことだ。
蹲る子どもに炊き出しの汁物を渡そうとしても、はたき落とされてしまった。
「お前達さえいなければ、パパとママは…」
そう言って、少年は泣き崩れた。
私は注ぎ直した茶碗をそっと傍に置き、彼から離れた。
周りにいたロムレスの大人達に慰められているのを遠くから見ることしかできなかった。
瓦礫の撤去作業に戻ると、耳馴染みのある声が聞こえてきた。
「ルートさん!」
「ゼイン!無事で良かった」
会うのは戦時中のとき以来だ。
ゼインが無事か気になっていたが、ロムレスの兵士にそんなことを聞ける雰囲気ではなかった。
「はい、おかげさまで。ルートさんも元気そうで良かった」
「ゼイン、私もいるぞ?」
ゼインが来ていると分かると、オズモ隊長も会話に加わる。
「はいはい、あんたはいつも通りだね」
「ルート、ゼインが来ているなら私にも教えてくれてもいいじゃないか!」
「ああ、今日は隊長いたんですね」
「冷たい!ルートもゼインも冷たい!」
オズモはイジけてそっぽを向くが、ゼインは気にせず会話を続けた。
「そうだ、ルートさんのおかげでホムラも助けられました。ありがとうございます」
「良かった、無事見つけられたのですね」
構ってもらえなかったオズモが再び戻ってきた。
「そのまま会話を続けられてしまうなんて、私の扱いがぞんざいで悲しい!」
ルートはオズモを一瞥した後、ゼインに問いかける。
「ゼイン、今日は何か予定は?」
「俺、最近は医療部隊を手伝ってるんです。今は休みを抜け出して、ルートさん達を探しに来たので」
「ルートさん達!私も入っている!嬉しい!」
「オズモ隊長、静かにしてください」
「はい、すみません…」
ルートに怒られて、しょんぼりと落ち込むオズモ。これ見よがしに花びらの枚数を数えている。
「そうですか…。忙しいのに会いに来てくれてありがとう。また時間があれば話しましょう。我々もロムレス城の兵舎に住まわせてもらってますので」
「ぜひ!」
ゼインと別れ、残りの瓦礫撤去を終えた後、兵舎に戻る。
食後、読書をしていると、オズモが突然視界に入り込んでくる。
今日は構って欲しい日か。
「何ですか?」
「ルート!珈琲を飲みたくないか?」
「飲めばいいじゃないですか」
「一緒に飲もうではないか!」
「分かりましたよ、淹れますよ」
「いや、今日は私が淹れよう!ルートは座っていたまえ!」
「では…」
大丈夫だろうか。
あの人が珈琲を淹れているところなんて見たことがない。
案の定、珈琲の粉を溢したうえ、勢いでカップを割るオズモ。
「あ…」
「…私がやります」
ルートは立ち上がり、手早く片付けを済ませた後、オズモの前にカップを置く。
「ルート!これは紅茶だ!珈琲ではない!」
「ああ、すみません。誰かが珈琲の粉を落としてしまったので」
「今日はルートがいつもより冷たい気がする…!どうして…私が何をしたと言うのだ」
「あなたのせいでゼインを殺しかけたのですよ。あとは日頃の行いじゃないですか」
「ぐっ…分かった…。それならルートの信頼を取り戻すべく私も心を入れ替えようではないか!」
「せいぜい尊敬できるところを見せてくださいよ。毎日撤去作業サボってるのも知ってるんですから」
ギクリと肩を震わせるオズモ。
「仕方ないだろう…!私も忙しいのだ!」
全く、この人は…。
呆れてものも言えない。
「おーい、街の北側で人が足りないんだとよ」
「分かりました。オズモ隊長行きますよ」
「ああ」
引き続き撤去作業を続けていると、大きな瓦礫が出てきた。
この大きさは、さすがに人の手だけでは辛い。
「オズモ隊長、木の棒をもらってきてもらえますか?できれば大きく長い物だと助かります」
「そんなもの何に使うのだ?」
「『てこの原理』です。木の棒を使えば重い物も持ち上げられるんですよ」
「よし、分かった!ちょっと待っていろ!」
そう言ってオズモ隊長は走り去って行ったが、待てど暮らせど、彼は戻って来なかった。
全く、あの人は…。言ったそばからサボっているのか。
仕方ないので、ルートは適した木材を調達しに行く。
そのとき、子ども達の楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
何となく気になって、声のする方向へと足を向ける。
「くらえー!」
「待てー!」
「行けー!」
「こら、やめんか!」
そこには子ども達の遊び相手になっているオズモの姿があった。
子ども達の中には、この前虚ろな目をしていた少年もいた。
全く、あの人は…。
忙しいって言っていたのは、こういうことだったのか。
ロムレスへの贖罪は瓦礫を取り除くだけではないか。
オズモ隊長、あなたのそういう誰とでも仲良くなれる素養は本当に尊敬していますよ。
ルートはそっとその場を離れた。
「ルート!すまない!遅くなってしまった!」
「木材は持ってきましたか?」
「あ…」
「いいですよ、こちらは終わらせましたから」
「あ、他に何か手伝えることはないか!」
「大丈夫ですよ。もう充分していたじゃないですか」
「ルート…。いやしかし、私はまだやれるぞ!」
オズモはまだ撤去の終わってない建物に近づく。
「この瓦礫を撤去してしまおう!」
「あ、ちょっと勝手に…」
瓦礫をどかした反動で積まれていた瓦礫が上から落ちてきてしまう。
「ルート、瓦礫に挟まってしまった!助けてくれー!」
ルートは深い溜め息をつく。
やっぱり尊敬できないかもしれない…。




