おまけ 惚れ薬を作って!
「ゼイン殿!惚れ薬を作ってくれませんか!」
「は?」
突然、何なんだ。
ゼインの部屋を突然訪れた見知らぬ男。見た目からして兵士のようだ。
「で、あんた誰なの?」
「はっ!先走ってしまい申し訳ありません。私はエイと言います。…実は私には好きな人がいるのですが、声を掛けれず困っているのです」
「はあ…」
「ゼイン殿のスキルがあれば、どんな薬も作れると伺いました!お願いします!惚れ薬を作ってください!お礼は必ずします!」
「いや、そんな薬作ったことないし」
「そうですか…。そうですよね。そんな薬作れるわけないですよね。突然お邪魔してすみませんでした」
エイは部屋を出ようとドアノブに手を掛ける。
「おい、ちょっと待て。誰が作れないって言った?」
「え…。い、いいのですか!」
「ああ、やるだけやってやる」
「ありがとうございます!」
エイは仕事が残っているとのことで部屋を後にした。
早速ゼインは惚れ薬の調合に取り掛かる。
…惚れ薬ってあんまり想像つかないな。
そういえば人食い植物の中に花粉を撒き散らし、人を魅了して自らに引き寄せた後、食べるのがいたな。
ゼインは借りてきた本の中から該当の魔物を探し当てる。
あ、こいつだ!マタタビキャップか。
でも、こいつは気温の高い熱帯林にだけ植生する。
この城じゃ手に入らないか…。
マタタビキャップについて読み進めると、この花粉は頭痛薬にも使われると記載があった。
もしかすると…!
ゼインは急いで城の東官舎に向かった。
「スオナさん!」
「ゼイン、どうしました?」
「マタタビキャップの花粉って取り扱ってますか?」
「え、ええ、頭痛薬の一種で使うので」
「少しだけ分けてもらうことできますか?」
「いいですが、何故です?」
あれ、惚れ薬作ってるって言って大丈夫なんだっけ。
個人的な依頼みたいだったし、面倒事になっても困るしな。
「あ、えっと、実験に使いたいなと思って」
「なるほど。分かりました。少し待っていてください」
スオナは薬品棚から取り分けた物をゼインに手渡す。
「あまりたくさんはお渡しできないですが…」
「これだけあれば十分です!ありがとうございます!」
部屋に戻ると、スキルを使って分析を始める。
なるほど…この因子が人の脳の部分に働きかけてるのか。
調査した内容をメモに残していく。
あとはどうやって脳に働きかけるか…。手頃なのは鼻からの吸収か。
あと残ってる課題は…。
よし、これなら理論上は惚れ薬を作れるぞ!
他に必要な材料を調達し終えると調合を始める。
この神経に働きかける物質を中心に構造式を組み直していく…。
できた!
三日間の試行錯誤の末、ようやく試薬第一号ができた。
この粉を自分に掛ければ、その匂いを嗅いだ相手に惚れるはずだ。
まず誰かで試してみたいけど。
廊下を歩いていると、前からレイムとスオナが歩いてくる。
「あ、スオナさん」
「ゼイン、実験の調子はどうですか?」
「はい、一応試作品はできたんですけど」
ゼインは試薬の粉が入っている箱を取り出す。
「ほう、これがか。どれ、どんなものだ?」
「あ!」
レイムは躊躇いなく箱を開ける。
粉が僅かに舞っているのか、鼻がムズムズし始めたレイムは思わずくしゃみをする。
レイムの周りに粉が舞い散る。
彼が纏う粉の匂いを嗅ぐと、次第にスオナは顔が火照っていく。そして、うっとりとした眼でレイムを見つめる。
スオナはレイムの胸に手を置き、彼の唇めがけて顔を近づける。
「レイム様…私はずっと貴方様のことが…」
「スオナ、どうした?」
レイムの言葉をきっかけにスオナは正気を取り戻す。
「はっ!し、失礼しました…!」
顔を真っ赤にしたスオナが慌てて立ち去っていく。
レイムは気づいてないのか全く動じていなかった。
なるほど、想定より効果が強いな。それに効果切れも早い。
もう少し調整する必要はあるが、効果自体は想定通りだ!
◆
よし!
効果の強さと持続時間を再調整した試薬第二号だ!
残りの材料を考えると、試作品はこれが最後だな。
これ以上スオナさんに分けてもらうわけにもいかないしな。
誰に試してもらおうか…そうだ!
ホムラとログに試してみよう!
あの二人なら治験に協力してくれそうだし。
ホムラの部屋を訪れると、和気あいあいとした声が廊下まで漏れていた。
「ゼイン、来たニャ!何か今日は良い匂いがするニャ!」
試薬の匂いに気づいたシリルが走り寄ってくる。その勢いのまま飛びかかってくる。
「あ、おい、シリル!」
押し倒された勢いでゼイン自身に粉が振りかかる。
「いてて…」
「ゼイン〜、ご飯欲しいニャ〜」
シリルはゼインの足元を八の字を描くように擦り寄る。
更に床に転がり、お腹まで見せてきた。
「ゼイン〜、撫でて欲しいニャ〜」
おお!効果は良さそうだ!
その日の夜までシリルはゼインの傍から一時も離れなかった。
うんうん、持続時間も問題ないな。
あれ、でもこのシリルっていつも通りじゃね?
◆
ゼインはエイを呼んで薬を渡す。
「とりあえず作ってみたよ。半日くらいは持つと思う。ちょっと治験が足りないから、まだ不安は残るけど」
「ゼイン殿、ありがとう!試してみるよ!」
翌日の出勤前、エイは想い人を探す。
い、いた!
深呼吸をし、惚れ薬を自らに振りかける。
よし、これで大丈夫だ!
「ビーデルさん!初めまして、エイと言います!あなたともっとお話したいです。今日の終業後、お茶しませんか?」
「ええ、喜んで!」
ビーデルは満面の笑みで頷いた。
やったー!ゼイン殿、ありがとう!この恩は一生忘れません!
終業後、たどたどしくもビーデルと仲良く談笑するエイ。
これなら惚れ薬の効果が切れても仲良くなれそうだ!
しかし、彼女から突然笑顔が消える。
「あなた、誰?」
「え、急にどうしたの?僕はエイだよ。そうだ、明日にでも二人で出掛けない?」
「え、私、あなたのこと知らないんだけど。そもそも私、彼氏いるし。それじゃあ」
立ち去るビーデルの背中をただ見つめるエイ。
翌日、エイから涙ながらに報告を受ける。
惚れ薬を嗅いだ人はその間の記憶をなくす、という新たな知見を得て満足するゼインだった。




