第50話 親睦会 (1)
青空の下、ふかふかの砂浜、どこまでも続く海。
楽しそうに砂浜を駆け回るログとシリル。
「海だー!!」
ゼインは波打ち際にしゃがみ、海の水を少し舐める。
「凄い!この水、しょっぱいぞ!何でだ!」
興奮気味のゼインは水中に浮く半透明の魔物を掴み上げる。プニプニとした弾力のある感触だ。
「あ、なんだこの魔物は!」
触手に刺されたゼインは全身に軽い痺れが走る。
やっぱりこいつはクラゲリーだ!
研究に使いたかったが、痺れて動けない隙に逃げられてしまった。
「ここはロムレス家の私有地だ。好きに使ってくれて構わない」
水着姿のレイムは楽しそうに話す。
今ゼイン達はロムレスの郊外にひっそりと佇む場所を訪れていた。
ビーチパラソルの下で休むハクトとホムラは慣れた様子だ。
ロムレス家は定期的にここを訪れているのだろう。
戦争の後処理が落ち着いたので、明日までロムレス家の別邸を借り、関係者を呼んで親睦会を開かれることになった。もちろんレイムの発案だ。
これだけ良い場所を所有してるなんて、改めて彼らがお貴族様だと感じさせられる。
「あ、あの…、何故我々まで…」
メイランが気まずそうにレイムに尋ねる。
戦争を仕掛けた側の人間なのだ。当然、居心地が悪いのだろう。
「ああ、せっかくだから二人とも話す機会を設けたくてな。街の復興にもタオウの兵士に助力をしてもらったし、その礼も兼ねてだ。今日はゆっくりしていってくれ」
メイランは丁寧に頭を下げる。
「レイム殿、此度の争いに関して、改めて大変申し訳ありませんでした。こちらに非があるにも関わらず、タオウに慈悲をかけていただいたこと本当に感謝致します」
ロムレス側は今回の戦争の賠償金を街への損害等の最低限に留めた。
これ以上、負の連鎖を起こしてはならない。今回は勘違いが発端だった。更に連携を強め、共に前に進むべきだと国王に進言したらしい。
反対する者も多かったそうだが、最終的にはレイムの意見が通されたようだ。
「いや、そういう気遣いの場にするつもりはないんだ。あの時の俺達にはあれが最善だった。謝る必要はない。それに貴殿らを唆したのも、争いを増長させたのも恐らくハクエイの連中だろう」
「しかし、私は我を失い、レイム殿の足に癒えない傷を与えてしまった…」
「もし、メイラン殿が自らの行為を悔やめば、周りの者もずっと悔やみ続けることになる。上に立つ者は下を向いてはいけない。だから、メイラン殿も自国のために前を向いてくれ」
「レイム殿は立派ですね。私が敵うはずありませんでした」
「いや、俺も毎日学びばかりだ。いつも周りに助けられている。一人だけではここまで辿り着けられなかった。メイラン殿には貴殿を助けてくれた者はいないか?」
メイランは後ろに控えていたリューズを見た。
そうか、私はずっと一人で…。
周りの者達がどんな顔をしているかも見ていなかった。いや、見ようとしていなかった。
ユノイを失って、私は復讐だけに囚われていた。
「私は未熟だけど、それでもこの過ちを正し、前へと進んでみせよう。リューズ、頼りない私だが、これからもよろしくお願いします」
「もちろんです、姫様」
メイランは再びレイムに向き直る。
「レイム殿、助けが必要な時は我が国が必ず助力致します」
「ああ、共に頑張っていこう!」
それからボール遊びをしたり、砂浜で寛いだりと、それぞれ自由な時間を過ごした。
太陽が真上に近づく頃、レイムは皆に届くように大きく声を上げる。
「さて、そろそろ昼飯の時間だな。キーソン!」
呼び掛けに応えるように、キーソンは手早く調理器具や食材を並べる。
ハクトは面倒くさそうな声を漏らす。
「うわあ、これ自分達で作るやつ?」
「もちろんだ!皆で汗水を流し、作り上げた食事ほど美味しいものはない!」
「汗水が流れたやつなんて食べたくないんだけど」
ゼインとホムラが野菜の皮剥き、スオナとログが肉と魚の下準備、メイランとリューズが米の準備、キーソンとチェイズは食事場所の準備、ハクトとレイムがサラダを担当することになった。
「ホムラはこのイモジャガの皮剥きを頼む。包丁は危ないから、このピーラーでな」
ゼインから皮剥きを頼まれるが、自分で調理なんてしたことがない。
これはどうやって使う物なのかしら。
チェイズに聞いてみたいけど忙しそうだし…。
とりあえずやってみれば分かるわよね!
慎重に、慎重に…。
「ホムラ、そんな気合い入れなくても剥けるぞ」
ゼインはホムラの手に自分の手を添え、手本を見せる。
「こんな感じだ。同じようにやってみ」
ホムラは顔を真っ赤にして微動だにしない。
「ホムラ?どうした?」
というか、頭から煙みたいなものが出てるような…。
そして、目眩でフラフラと座り込むホムラ。
「おい!大丈夫か?」
異変に気がついたチェイズが駆け寄る。
「ホムラ様、あちらで休みましょう」
「あ、手伝いますよ」
「それでは余計悪化して…いえ、私だけで大丈夫です」
なぜ断られたのか疑問に感じながらも、ゼインは食材準備を黙々と進める。
◆
ログとスオナが肉を切っていると、その隙をついて、シリルが机に置いてある魚を盗む。
「あ、シリル!ダメだよ!」
「早い者勝ちニャ!」
捕まえようとするログの手をかいくぐるシリル。
くっ、すばしっこく捕まえられない…!
ドヤ顔されているのも悔しい。
「ニャッ!」
背後から忍び寄るスオナに首をつままれるシリル。
スオナは笑顔を浮かべてるが、目が笑ってない。
「ダメですよ、シリルさん?」
「ご、ごめんニャさい…」
スオナ怖いニャ…。
◆
野菜を千切って皿に盛り付けていると、野菜を持ったレイムが隣に来る。
「ハクト!どっちが早く切るか競争だ!」
「いや、やらないし」
「せっかくだ、楽しくやろうじゃないか!」
「全く兄さんは強引なんだから」
「いくぞ!よーい、どん!」
勢いよく野菜を切っていくレイム。
「うおおおおお!切れたぞ!」
自信満々のレイムだったが、ハクトはその野菜を持ち上げる。
それは切れ目が入っていただけで、繋がったままの野菜を見せる。
「兄さん、これ切れてないよ。俺の勝ちだな」
「くそお!もう一回だ!」
「もうやらない」
◆
米と容器を取り出すメイラン。
「リューズ、これってどうやるの?」
「飯盒炊爨といって、米を水で研いでから、この容器に入れて火にかけます」
「リューズは物知りね。こうで合ってる?」
慣れない手つきで米を研ぐメイラン。
「ええ、合ってます」
「こうしてリューズと一緒に過ごすのは久しぶりね」
「そうですね」
一生懸命作業している姿はどこか楽しそうだ。
こうして笑顔を見るのはいつぶりだろうか。
感極まったリューズの目が潤む。
「どう、リューズ?って、ええ!リューズ、泣いてるの?」
「な、泣いていません!目にゴミが入っただけです!」
「ふふっ!そんな言い訳ある?それは無理があるって!」
「姫様、そんなに笑わないでください…!」
姫様、やはりあなたには笑顔がよくお似合いです。
◆
それぞれが準備を進め、一時間半後、机にはいくつも料理が並ぶ。
「よーし、できたぞ!」
「兄さん、これ作りすぎじゃない?」
「大丈夫だ!すぐになくなるさ!」
食事を終えた後、アカスイカ割りや砂浜にレイムを埋めて砂で身体を作ったりして遊んだ。
あっという間に夕方になり、皆体力を使い果たして寝そべっていた。
喉が渇いたので飲み物を取りに行くログ。
そのとき傍にある茂みが動いた。
何か気配がある。気になって、恐る恐る森の中へと足を踏み入れる。
すると、そこには美しい羽根色の四本足の小さな魔物が横たわっていた。
その目は潤んでいるようにも見えた。
こちらに目を向けるが、体力がないのか身体を起こそうともしなかった。
「魔物の子ども?」




