第49話 火種の後処理
「あー、しんど」
険しい山道を登り始め、はや一時間。
川沿いを歩くが、怪しい所は見つからない。
ゼインはスオナや兵士達と共に、ある山へと来ていた。
◆
一日前のこと。
スオナは深呼吸をして、執務室の扉を軽く叩く。
「失礼致します」
「ああ、よく来てくれた」
ちょうどキーソン殿がレイム様に紅茶を淹れていたところだった。
まだ身体が癒えてないはずなのに、もう仕事をされているのか。
そのお立場が静養することも許さないのだろうか。
「レイム様、お身体は大丈夫ですか?安静にした方がいいのでは…」
「ああ、スオナの治療もあってか調子が良くてな。ありがとう。本当に助かった」
「いえ、これが私の責務ですから…!」
自分が情けない。
もっと気の利いた言葉でも言えたら良いのに。
「それにやることもないのでな、書類整理していた方が落ち着くんだ。スオナが気に病むことはない」
はっ、顔に出ていた!?
い、いけない。レイム様に余計な気遣いをさせては。
淹れてもらった紅茶を飲み、心を落ち着かせる。
「今日、君を呼んだのは今回の戦争の火種となった根源、藻毒の調査及び解消に出向いてもらいたいからだ」
「…私がですか?」
「ああ、藻毒の知識を持つ君に参加してもらった方がいいと思ってな」
「それなら彼にも手伝ってもらった方がいいのではないですか?」
「ああ、もちろん。彼にも声を掛けている」
そのとき扉がノックされる。
噂をすればだ。
「失礼します。あ、スオナさん」
「久しぶりですね、ゼイン」
「ゼイン、またお願いがあるのだが」
満面の笑顔で話すレイム。
この表情を見るのは何度目だ。
俺に厄介事をさせようって魂胆が見え見えだ。
「レイムさん、この前のことで吹っ切れてません?俺、そこまで軽くないよ」
「今回の依頼の報酬はロムレスでしか手に入らない特産品の数々だ」
「やります!」
ゼイン、ちょろいな。
スオナは呆れ顔で彼を見た。
◆
やっと山頂に辿り着く。
そこは一面、湖となっていた。火山活動でできた窪みとなった地に雨水が溜まってできたのだろう。
周囲を調査するが、藻毒を作り出すような生き物や植物は見当たらなかった。
この場所ではなかったのだろうか。
いや、ケルトとメイザードに通じる川の行き着く先はこの山だ。
必ずここに原因となる物があるはずだ。
「スオナ隊長!ここに洞穴があります!」
そこには人一人がギリギリ通れるくらい小さな洞穴があった。
「火山活動の中でできた洞穴でしょうか」
「そうかもしれないですね。俺が下を見てきます」
「いや、私が行きます」
「俺の方がどっちかっていうと小柄だし。入れそうなら合図します」
洞穴から縄を下ろし、それをつたってゼインが降りていく。
地面に降り立つと、蝋燭に火を点ける。思ったより広い。
中は洞窟のようになっていた。天井から水がポツポツと落ちる音が聞こえた。
「大丈夫です!降りれまーす!」
それからスオナと兵士二人が追加で降りてきた。
残りの兵士は万が一に備え、地上に残してきたようだ。
ゼインを先頭にそのまま進むと、行き止まりの場所に水が溜まっていた。
そこには壁一面に根を張った大きな花が咲いていた。しかし、その花には見るからに違和感があった。
「これはスイセンカですね」
「スイセンカ?」
「花の形が特徴的で高山にしか咲かない花です。でも、この花の花弁は黄色のはず。こんなに黒く濁らないんですが…」
水面を覗くと、その根から毒素が染み出ていた。この毒素が染みた水が川へと流れ、その水を飲んだ人達が意識障害を起こしたのだろう。
「この花は鉄によって染まっていますね。これが藻毒の原因です。早速駆除しましょう」
「待ってください!この花の根には水を浄化する作用があります。これを取ってしまえば生態系に影響がでるかもしれません。無毒化できないかやってみます」
「そんなことができるのですか?」
「やるだけやってみます」
「分かりました。もし難しいようなら駆除します」
ケルトの村のときは原因が藻毒かどうかも特定できなかった。
でも、書庫にあった本で藻毒の特性について知れた。藻毒は鉄分を含んだ根と清潔な水が組み合わせることで生まれる毒だ。
今回はスイセンカの根とその作用で浄化された水でそれが起きている。
つまり、この二つを切り離せれば藻毒は無効化できる。
鉄分は他の成分より分かりやすい。
だが、植物全体を蝕む鉄を全て取り除くとなるとかなり面倒だ。
でも、やるしかない。
集中しろ。
頭の中で創造した鉄の成分を探し出し、迅速かつ的確に潰していく。
よし、スイセンカから鉄分は大体取り除けた。
だが、細かい根を壁に張っている。あそこまで全て取り除くのはかなり難しい。
あれは諦めるしかない。
次は水だ。
いずれはスイセンカの作用で浄化されるだろうが、応急処置は必要だ。
藻毒の構成因子は覚えている。
後は水中からそれを見つけ出して、その中の因子を一つ壊せばいい。そうするだけで毒は無効化できる。
「よし!あとは細かい根を切除すれば大丈夫です。もう川に流れた藻毒は仕方ありませんが、二週間もすれば生活用水として使えると思います」
まさか本当にやり遂げるとは。
あのときとはスキルの精度が格段に上がっている。
彼の成長は凄まじい。
細かい根を削ぎ終えると、スオナは持っていた液体をスイセンカが根を張る水面に注ぐ。
「持ってきた養液です。根を切り落とした分の栄養もこれで補えるでしょう」
「ありがとうございます」
ここに鉄を生成する生物は存在していない。
恐らく人為的に鉄の成分を注入されたんだ。
ハクエイの奴らの仕業だと考えるのが妥当か。
それにしてもこんな遠回しなやり方でよく戦争まで引き起こしたものだ。
感染病として話が終わってもおかしくはなかったはずだ。
誰かがそうなるように仕組んでいたのか?
「ゼイン、お疲れ様でした。城に戻りましょう」
「そうですね」
これ以上は考えても答えが出ないな。
褒美をもらってまた実験しよう。




