第48話 終戦 (2)
レイムに呼ばれたゼイン達は目的地へと向かう。今回は彼の執務室ではなく、教会が集合場所だった。
出迎えに待っていたのはキーソンだった。
入口の扉は破壊され、中も散々荒れていた。
教会の奥にある隠し扉も破壊され、その姿を顕にされていた。
教会にこんな場所が隠されていたのか。
地下への階段を降りるとレイムが立っていた。
彼も瀕死だったと聞いていたが、元気そうで安心した。
だが、その手には杖が握られていた。
「レイムさん、その足…」
「ああ、足に少し後遺症が残ってな。痺れがあって、上手く力が入らないんだ。訓練をしても今まで通り戦うのは難しいと言われた」
言葉が出なかった。
そうだ、ついこの前まで戦争をしていたんだ。
皆、無事だったなんて都合の良いことはないのだ。
どれだけ訓練をしていようが関係ない。それはレイムも例外ではなかった。
それでも生き延びれただけマシだったかもしれない。
「そんな悲しい顔をするな。この足一本でこの街を守れたなら安いものだ」
レイムは重たい空気を切り替えるように杖で軽く地面を小突いた。
「そうそう、わざわざここに来てもらったのは話したいことがあってな」
「何ですか?」
「まず今回の戦争において君達を巻き込んでしまって申し訳なかった」
レイムが深々と頭を下げる。
ログが慌てて止めようと駆け寄る。
「ええ!レイムさん、頭を上げてください!」
「いや、戦争が起こることは知っておきながら、ホムラの警護という体で、君達をロムレスの戦争に巻き込んだんだ」
「…何のために」
「俺のスキルが使えると思ったんでしょ?」
ゼインは平然と言い放った。
「…そうだ。君の能力は汎用性があり、ホムラを守ってもらうのに利用できると考えたのは事実だ。妹かわいさに君を利用した。軽蔑してもらっても構わない。でも、ホムラは何も知らない。あの子とはこれからも友達でいてやってほしい」
「レイムさんが何を勘違いしてるのかは知らないけど、ホムラの警護を引き受けるって決めたのも俺だし、今回の戦いに首を突っ込んだのも俺の意志だ。というよりヤタガラスのためだ!だからそんなこと気にすんな!」
「…ありがとう」
レイムは再び頭を下げた。
顔を上げたとき、レイムは心のつかえが取れたように清々しい表情をしていた。
そして、背後に陣取っていた厳重そうな扉に鍵を差す。
分厚い扉を開けると、埃の臭いが舞う部屋が広がっていた。
中にはいくつもの棚が置かれ、そこに書物、皿、刀、壺といった様々な物が飾られていた。
地上から僅かに太陽の光が地下に届いている。それ以外の光源はこの場所にはないようだ。
「それともう一つ。我々が対峙したハクエイの目的が分かった」
「目的はホムラを攫うことじゃないの?」
「その他に、ここの保管庫も目的だったようだ」
「保管庫?」
「ああ、この保管庫の場所自体、城にいる一部の人間しか知らない。そうしないと、ここを狙う者が現れるからな。それと、俺が持つ鍵でしか開かない強固な造りとなっていた。ラッシュの目的は俺を倒し、保管庫に行くことだったんだろう」
そうか、ルルフが一年も前から潜入していたのは保管庫の場所を調べるためだったのか。
レイムが立ち止った場所には、何か小さな物が置かれていたであろう台座だけが残されていた。
「調べたら保管庫の中にあるテオスの欠片が盗まれていた。それ以外のものは無事だった」
「ここにもテオスの欠片があったのか?」
「ここにも?」
ゼインはポーチの中からテオスの欠片を取り出す。
「これは村にいたとき、ユーリって女が俺に渡してきた物だ。何で俺に預けたのか、これが何なのか俺は知らない」
「ふむ…元々ここにあったテオスの欠片とは微妙に形が違うような気がするな」
「レイムさん、テオスの欠片って何なんだ?ハクエイの奴らが盗んだ目的は?」
「テオスの欠片については俺も詳しく知らないんだ。伝書にも記載がほとんどない。ただ、まだ七大国が建国される前からある古代の遺物ということだけが記されている。だから、奴らが何の目的で盗んだのか分からない。だが、盗むに値する何かであることは確かだ」
「古代の遺物か…」
「そうそう、ゼインにこれを渡そうと思っていたんだった」
「あ、あ、これは…」
レイムが指した場所には骸となり、朽ちた生物があった。
気味が悪いと感じたその遺骸にゼインは目を輝かせた。
「ヤタガラスだー!!」
「無事俺からの任務を遂行してくれたからな」
やった、やったと円を描きながら踊り狂うゼイン。その目にはヤタガラスしか映していないようだ。
「聞いてる?」
「すみません…」
話を聞いていないゼインの代わりにログが謝罪する。
「俺はまだここでやることが残っているから、ゼイン達は先に戻っていてくれ」
ゼイン達を送り出し、キーソンと二人になるレイム。
いつも彼の傍にいたからこそ感じる、普段とは違う雰囲気。
言葉を出すのも憚られた。
キーソンはレイムからの言葉をただ待った。
「キーソン、俺の側近としての任を解く。これからはハクトを支えてやってほしい」
想像はしていた。
いつか彼がそう言うだろうと。
「…お断り致します。私はレイム様にお仕えしています。それはこれからも変わりません」
「俺がそれを願っていると言ってもか?」
「はい、これは私の信念です」
レイムはフッと笑う。
「お前は頑固者だな」
「誰かの背中をずっと見てきましたから」
「ハクトにはロムレスの重荷を背負わせてしまうな…」
「レイム様、戦うだけが全てではありません。あなたにはまだたくさんの成すべきことがあるはずです。できることをやっていきましょう」
「そうだな、まだやることは残っている」
◆
ハクエイの隠れ家の一つ。
左眼に包帯を巻いたルルフが目を覚ます。
医師の処方により解毒はできたが、左眼は失明を免れなかった。
ミルルから事情を聞いたルルフは怒りで気が狂いそうだった。
強く握りしめた拳から血が流れる。
「ゼイン、絶対ぶっ殺す!」




