第47話 終戦 (1)
ラッシュは途中で拾ったマニの襟を掴みながら、王都の外へと向かう。
「おい、雑に扱うな!」
「負けた奴がほざいてんじゃねえ。助けてもらっただけありがたく思え!」
くそっ。ハクト・ロムレス、この屈辱は必ず晴らしてみせる。
ラッシュは指定された地に降り立つが、そこには誰もいなかった。
「おい、ニケ。誰もいねえぞ」
「おかしいわね。ルルフがやられてから、そこまで時間は経ってないはずなのに。ちゃんと探してるの?」
「あ?じゃあテメーがここに来て探してみろよ」
「仕方ないわね。そろそろ知らせを聞いた天聖騎士団も着くみたい。撤退よ」
「そいつら蹴散らすのも面白そうだなあ。依頼はロムレスの奴らを倒すことだろ?もう少し遊んだってバチは当たらないだろ」
「撤退よ。メイランからの依頼はレイム・ロムレスを倒すこと、タオウの兵士をロムレスの王都にバレないように手引きすること。つまり、依頼は完了している。これ以上関わる必要はないわ」
「知るかよ。俺はまだ暴れたり足りねえんだよ」
「撤退。何度も言わせないで。ボスからの命令よ」
「ちっ、つまんねえな」
ラッシュは再び棍棒を掴むと飛び去っていく。
人の気配が遠のいたかを確かめるため、耳を澄ますゼイン。
「行ったか?」
「もう大丈夫ニャ。かなり遠く離れたニャ」
ゼインは流動的な壁を押すと、壁が剥がれ、木の幹に大きな洞が顔を出す。
身を潜めていたゼイン達は慎重にそこから抜け出した。
「ぷはあー、キツかった」
それにしてもシリルの警告のおかげで助かった。
四人と一匹が隠れられそうな洞と迷彩液の素材が揃えられる時間が確保できた。
この疲弊した状態で戦って勝てる気がしない。
「とりあえず城に戻りましょう」
タオウ側についていたハクエイの使者もロムレスの王都から離れ、ここに完全な終戦を迎えた。
◆
終戦から二日後、街では慌ただしくロムレスの兵士や市民が手を取り、復旧に向けて動き始めていた。
タオウの兵士達もロムレスの兵士らの監視の下、瓦礫の撤去等の肉体労働を手伝っている。
タオウの王女メイラン様が、そう指示したらしい。
彼女達も治療を受け、ロムレスの城で静養しているそうだ。
しかし、竜達が残した爪痕は予想以上に大きく、復興にはまだ時間がかかりそうだった。
それでも後ろ向きな人はあまりおらず、前向きに取り組んでいる人が目立った。
レイム達の明るさが国民性にも影響しているのかもしれない。
ログは門番の立つ部屋の扉を叩くが、返事はなかった。
あれからホムラはまだ目を覚まさない。
ゼインの話だと足の回復に相当体力を持ってかれているから、目覚めるのに時間がかかるはず、とのことだった。
命に別状がない状態と分かっていても、目を覚ましてくれないと、どうしても不安になる。
ゼインは医療部隊を手伝って怪我人の治療にあたっている。
シリルと共にベッドで眠るホムラを見守っていると、チェイズが姿を現す。
水を替えに部屋の給湯室にいたようだ。
チェイズと目が合うと、ログは立ち上がり、頭を下げた。
「チェイズさん、僕チェイズさんの事を疑ってました、すみません」
「いえ、分かっていました。しかし、あの状況では仕方がないかと。無実の証明ほど難しいことはありませんから」
「その、一つ気になっていたんですが、あのときチェイズさんは何でホムラをあんなに睨んでいたんですか?」
「睨む?ホムラ様を?いつのことですか?」
「ゼイン達とホムラの部屋でご飯を食べていた日、おやつとかを食べていたときなんですけど」
「ああ、それは…お恥ずかしながらシリル様を見ていたのです」
「え?」
「ホムラ様の膝の上でくつろぐ姿に魅了されていたのです」
チェイズは至って真面目な様子で答えた。
あのチェイズさんが?
予想外の回答に思わず面を食らうログ。
「チェイズ、シリルのこと好きニャの?触ってみるニャ?」
「…よろしいのですか?」
チェイズは恐る恐るシリルの頭を撫でた後、背中、腹、肉球とシリルを堪能する。
あの常に表情を変えないチェイズの頬が緩みきっている。
意外すぎる一面だ。
「あ、じゃあ、城の廊下で黒服の人と話していたのは…」
「ああ、彼は隠密部隊の者です。私も夜の空いた時間に隠密部隊に加わり、フードの男を探していたので、私の体調を気遣ってくれていたのです」
「何だ、そういうことだったのか…」
「うっ…」
そのとき、ホムラが意識を取り戻す。
「ホムラ!!!」
「ホムラ様!!」
二人の呼び掛けに驚いたが、ホムラは涙を浮かべて口を緩ませた。
「二人とも心配かけてごめんね。ありがとう」
その後、知らせを受けてゼインもやってきた。
ホムラの足の調子を確認する。
「うん、激しい運動は暫く禁止だけど、もう歩くのは問題ないはずだ」
「あ、ありがとうございます」
ゼインは自分と目を合わさないように顔を逸らすホムラに疑問を感じる。
「ん?どうした?何か気になる所があれば言ってくれ」
「い、いえ、その…足が切れた場所はここですよね?」
「ああ、そうだな」
「あの、気にしすぎなのは分かっているのですが、どうしても気になってしまって…」
「何だよ、何かあるなら言ってくれよ」
「…私の下着見てないですよね?」
下着?
思い返してみると、そういえばドレスの中にちらっと白い何かが見えた気がしなくもないが…。
チェイズが殺気の籠もった瞳でゼインを睨む。
いや、待て。これ、見たって言ったら殺されるやつだ。
「いや、見てない!断じて見てない!」
「そ、そうですよね!安心しました!変な事を言ってすみません」
チェイズがにこやかな笑顔に変わっているのを見て、命拾いしたと胸を撫で下ろしたゼインだった。




