第46話 命のやりとり
「誰か!誰かいないか!」
医療部隊は避難した招待客らと同じ城の地下へと向かっていたはずだ。
城が襲撃された場合、医療部隊はそう動くように言われている。戦の中でも重要な存在である医療部隊を前線に出すわけにはいかないからだ。
だが、俺が大広間に戻った時、城内は静まり返っていた。
安全と判断した医療部隊が救援に出てきている可能性は高い。
城の中を駆け回っていると、ちょうど外に向かおうとしている医療部隊と遭遇する。
「ハクト様!どうしてここに…」
「スオナ!良かった、早く来てくれ!兄さんが危ない!」
スオナの表情に緊張の色が浮かぶ。
「お前達は周囲を警戒しながら、怪我人の対処を頼む」
「承知しました!」
隊員達は敬礼をした後、足並みを揃えて城外へと走る。
ハクトはスオナを連れて大広間へと急いで向かう。
「スオナ、怪我人はどの程度いた?」
「招待客の方々は軽傷です。使用人達の十数名が重傷ですが、命に別状はありません。戦闘音が暫く止んでいたので、隊員達を連れて様子を見に外へ出たところでした」
「そうか、ちょうど会えて良かった」
大広間に着くと、倒れるレイムのもとへ駆け寄るスオナ。
その血まみれな姿に驚く。
あのレイム様がこんなになるなんて…。
右足にも刺し傷があり、身体中のあちこちに裂傷がみられた。
胸に耳をあてる。心音が弱い。
すぐさま輸血用の器具を取り出す。
あなたは絶対に死なせません。
ハクトはまだ気を失っているメイランとリューズの手首を縛り上げる。
この二人を捕らえておけば、戦争は終わらせられるだろう。
二人とも怪我が酷い。
だが、治療の前にひと仕事手伝ってもらわないとな。
早く声明を出さないと、無駄に争いを続けることになる。
「スオナ、兄さんを頼めるか?」
「はい、レイム様は必ずお助けします」
メイランを抱き上げ、城の中央にあるバルコニーへと向かった。
ハクトはメイランがよく見えるように手すりの部分に飛び上がる。
「タオウの姫、メイラン殿は捕らえた。これ以上、争いを続ける必要はない。もしまだ続ける場合は彼女の命を奪わざるを得なくなる。タオウ国の兵士よ、今すぐ剣を降ろせ。ロムレスの兵士よ、タオウ国の兵士とこれ以上戦う必要はない。怪我人の対応を優先せよ」
ハクトの宣言はタオウ国の敗北を意味していた。
メイランを人質に取られては、タオウの兵士は剣を置く以外に方法はなかった。
街から争いの音が徐々に止み、市民達からは安堵の声が聞こえ始めた。
ハクトはゆっくりと息を吐く。
これで一つの区切りはついた。
ホッとしたのも束の間、遠くから爆発音が聞こえてきた。
まだ戦っている兵士がいるのか。今の言葉を聞いてなかったのか?
メイランを置いて外に出ると再び激しい音がした。教会の方からか。
教会に辿り着くと、銀髪の男がすぐ傍に立っていた。タオウの兵士ではないことはすぐに分かった。
「誰だ、お前は!」
「お、もしかしてお前、第二王子か?」
「…だったらどうした」
教会の入口が破壊されている。
まさか中に入ったのか?
「王子二人とやれるなんてラッキーだな。俺はハクエイ第五の使者ラッシュだ」
「お前が兄さんを!」
「あー、はいはい。そういうのいいから早く来いよ」
ハクトはスキルを発動すると、ラッシュに剣を振りかざす。
「灼熱斬!」
ラッシュは壊した瓦礫を壁にして斬撃を防ぐ。
範囲内の物を操る能力か。
瓦礫を盾にされると、こちらの攻撃が通らない。
ラッシュは鉄球で建物の壁を次々と壊していく。
砕片を自由に動かし、ハクトに追尾するように迫る。
大きな瓦礫を壊したと思えば、その破壊した瓦礫ごと操り、俺に攻撃してくる。
…強い。これが兄さんを倒した力か。
くっ、受けきれない。このまま瓦礫を増やされては逃げるだけで手一杯だ。
複数人で囲めばやりようがあるが、単独で挑むには分が悪い。
でも、あの胸の傷は最近のものだ。きっと兄さんがつけたんだ。
兄さんはどうやってアイツを斬ったんだ。
…斬った?
待てよ、兄さんは本気を出すときは拳で戦う。
でも、あの傷は剣によるものだ。
拳を使わない理由が何かあったのか?
そういえば大広間は明かりが全て壊されていた。
炎による攻撃をしないために、あえて不意をつける剣を使ったとしたら…死角からの攻撃、それが奴を倒すための鍵か!
瓦礫を処理すると、ハクトは左手を前に出す。
「炎獄葬!」
白い炎が渦となり、ラッシュを囲い込む。
俺の動きを封じるためか、いや、これは俺の視界を遮るのが目的か。
どこからくる。
炎で覆ってる以上、あいつが攻撃する瞬間、技が途切れるはずだ。
そのとき反撃に出るしかない。
すると背後から現れたハクトが斬りかかる。
こいつ自身は白炎をすり抜けられるのか!
ラッシュは斬撃をまともに食らい、胸から腹にかけて傷を負う。
「ハッハ!いいな、お前!こんなに楽しいのは久々だぜ!」
「お前の遊びに付き合うつもりはない!」
ラッシュはハクトの剣に鉄球を巻き付ける。
お互いが引っ張り合い、力比べのようにお互いの動きが止まる。
「お貴族様は堅えな。もっと楽しんだ方が人生面白えぞ」
「そうかもね。俺は城や身分に囚われてると感じることも確かにある」
「なら、俺と一緒に来るか?こっち側は自由で楽しいぜ」
「それでも俺はここが好きだ。訓練ばっかの兄さんも、好奇心旺盛なホムラも、街も人も皆好きなんだ。だから、それを壊そうとするお前を許せない」
眼差しが厳しくなるハクト。
「そうか、それは残念だが嬉しいぜ。お前と本気で命のやりとりができそうだ!」
ラッシュは鎖を巧みに操り、ハクトから剣を奪い去ると、その剣を空中に浮遊させる。
まずい。
奴の武器に剣まで加わってしまった。
どうにか奪い返さないと。
「さあ、こっから楽しもうぜ!」
ラッシュがスキルを発動しようとした、そのとき、ピアスから耳慣れた女の声が聞こえてくる。
「ラッシュ、ルルフがやられたわ。あなたが獲物を捕らえて」
「おいおい、こっからが面白えとこなんだぜ。邪魔すんなよ、ニケ」
「ボスからの命令よ。それとマニも途中で拾ってきて。建物の屋上にいるわ。座標はそこから北東に一キロ先よ」
「ちっ、人使いが荒いな」
何だ?
一人で何か呟いている。
何にせよ集中が削がれている今が好機だ。剣を奪い返す。
ラッシュはスキルを止め、宙に浮いていた瓦礫や剣が地に落ちる。
そして棍棒を浮かせると、それを右手で掴む。
「まだ殺り合いたかったが、しゃあねえ。じゃあな、ハクト・ロムレス。またやろうぜ」
「待て!」
空中に浮かぶラッシュはそのまま街の方角へと飛び去った。
ラッシュが立ち去った場所に何かが光っている事に気が付く。
拾い上げると、それは保管庫の鍵だった。
やはり奴の目的は…。




