第45話 守るための戦い (2)
ゼインはルルフの周囲を走り回る。
近寄れる隙を伺うが、なかなか見当たらない。
「ちょこまかと動きやがって。氷射疾霜!」
ルルフは空中に氷の棘をいくつも作り出すと、ゼインに向かって一斉に放つ。
どうにか剣で対処しながら避けるが、ルルフはさらに技を続ける。
「凍絶氷槍!」
氷の連なりがゼインに向かって地表を一直線に走る。
しまった、足が!
反応が遅れた分、左足が氷に捕まってしまう。
身動きのとれないゼインに追撃の氷の棘が目前に迫る。
激しい衝突音の後、周囲を覆うように白霧が舞う。
「やったか」
しかし、霧が晴れた後、ゼインは平然と立っていた。
「ちっ、今のも避けるか」
…危なかった。
技を食らう寸前で足先の氷を雷魔剣で切り離せたから、どうにか避けれた。
ルルフが遠距離攻撃に変えてから、一気に不利になった。
俺には遠距離で戦える術がない。
横目でチェイズがいる方向に目を向ける。まだ結界は無事そうだ。
「おいおい、他人の心配してる余裕なんてあんのかよ!」
ルルフは腕に巨大な氷を纏い、ゼインをぶん殴る。
その威力に耐えきれず、背に受けた木が何本も折れる。
…くっそ、近距離攻撃はもうないかと油断した。
あいつら二人ともぶっ倒すとか息巻いてたのにカッコ悪いな、俺。
でも、このまま倒れてたら、ルルフがチェイズさんの結界を壊しにかかるはずだ。
動け、身体。まだ終われねえぞ。
ルルフのもとへ向かう途中、視界の左側に茂みに隠れていたログとシリルがいることに気がついた。
来ていたのか。
そういえば後から追いかけるって言われたまま忘れてた。
「なんだよ、まだ生きてたのか」
ルルフにはまだ余裕がある。明らかに戦闘慣れしているし、技の威力も高い。
ハクトから学んだ呼吸も間合いも関係ない。圧倒的な力の差を感じる。
今の俺では勝ち目がない。でも、俺の戦い方は他にもある…!
「何ニャ?」
「シリル、どうしたの?」
「なんかゼインがちっちゃい声でナナノクサ、コシイタケ、ワームって言ってるニャ」
「行こう、シリル!」
「ニャ!?」
森の中へと静かに走り出すログとシリル。
よし、二人には伝わったみたいだ。
あとはあいつらが戻って来るまで耐え抜くだけだ。
◆
「ルルフ!いつまで遊んでるの!」
「分ぁってるよ!」
「ハァハァハァ…」
「さっさとくたばれよ!」
まだか…。まだ気配はない。
逃げ回るだけで精一杯だ。
でも、まだ動けるのはレイムの走り込みのおかげかもな。
傍の茂みが微かに動いた。
来た!
ゼインはルルフに気づかれないように茂みの前にしゃがむ。
「ようやく足が止まったか。これで終わりだ!凍絶氷槍!」
ゼインは向かってくる氷を避けながら、その表面に稲妻を走らせる。蒸発した水蒸気が白い霧を作り出し、周囲を覆い尽くす。
目眩ましのつもりか?
雲隠れしたところで、あいつ程度の速さならどこからでも反応できる。
視界の端で稲妻が走る。
そこか!
氷の飛礫を飛ばすも手応えがない。
…いない!?
そこには稲妻を纏った剣が宙に浮いているだけだった。
そのとき、背後から現れたゼインがルルフに手を伸ばす。
氷の剣で反撃する前に、ゼインの手がルルフの顔に触れた。
「ぐああぁぁあぁあ」
左眼が焼けるように痛い。
何だ。何しやがった!
左眼の視界が塞がり、まともに立てない。
「ルルフ!?」
異変に気づいたミルルが駆けつけると、よろめくルルフを支える。
「急ごしらえだったから威力はそこまでないけど、早く解毒しないとそいつ死ぬよ」
「て、てめえ…」
「お前、絶対に許さないから」
睨むミルルはルルフを連れて、飛び去って行く。
ゼインは地面にどさっと座ると、ログとシリルが駆け寄ってくる。その姿は土や葉がついて汚れていた。
「ゼイン!」
「ログ、シリル、来てくれて助かった」
「ゼイン、その手…」
その右手は皮膚が溶けて痛々しかった。
「ああ、掌で毒を作ったからな。俺も多少はな」
ゼインはポーチから包帯を取り出すと、ログが代わりに包帯を巻いた。
「ログに俺の調合記録を覚えといてもらって良かったよ」
「僕もまさかこんな形で役立つとは思わなかったよ」
「シリルも探すの手伝ったニャ!」
「ああ、シリルもありがとな」
チェイズもこちらに歩み寄る。
その手に抱えるホムラはまだ眠っているが、その表情は穏やかだった。
「チェイズさんもありがとうございました」
「いえ、礼を言うのは私の方です。ホムラ様を救っていただきありがとうございました」
「まあ、レイムさんからの依頼でもあったんで」
シリルは耳をピクピクと動かす。
「どうしたの、シリル?」
「なんか凄い速さでこっちに来るニャ」
「レイム様でしょうか?」
「レイムじゃないニャ。何かもっとヤバいのが来るニャ」




