第42話 魔物使い
住宅の屋上で一人空を見上げ、フードを被った男を見つける。
この状況で逃げる素振りなく、上空を眺めているのは自分に攻撃が当たらないと確信しているからだろう。
「やっと見つけた。もっと高い場所にいると思ってたよ。お前が竜達を操ってるんだろ?」
「ヒッ。よく分かったな」
男はフードを取る。
見覚えがない顔だった。
もじゃもじゃ頭に目が落ち窪んでいる。健康的には見えない男だ。
何が面白いのかニヤけた顔を浮かべている。
この男、タオウの兵士がつける国の紋章をどこにもつけていない。
「お前、タオウの人間じゃないな?」
「ヒッ。そうさ、俺はハクエイの人間、第九の使者マニ。お前のような王子様を殺れるなんて光栄だな。ハクト・ロムレス」
ハクエイの使者?まさかハクエイがタオウに加勢してるのか。
マニを援護するように竜が三体飛んでくる。
ハクトは剣を抜く。
「さっさと終わらせるから」
「ヒッ。やってみな。やれ!」
マニの指示のもと、竜が火球を絶え間なく飛ばしてくる。
避けた先に鉤爪が眼前に迫るが、上に飛び上がり、竜の手首を斬る。
次々迫る攻撃を既のところで避ける。
連携をとった攻撃をしてくるのか。これもマニって奴の能力だろうな。面倒だ。
ハクトは竜の背中に飛び移る。そのまま駆け上がると、すぐさま頭を落とした。
あと二体。
挟み撃ちを狙ってきたので、火球を撃とうとする竜の頭を蹴り飛ばし、軌道をずらす。火球の先にいたもう一体の竜に命中する。
あと一体。
再び火球を放とうとしたタイミングで竜の口を剣で突き刺す。
口を開けられずに喉元で火球が爆発する。気を失った竜の首にすかさず一太刀。
ハクトはフーっと息を吐く。
「終わったよ。あとはあんただけだ」
「ヒッ。思ったよりやるな。だが、まだ竜はいるぞ!いつまでもつかな?」
今度は五体か。さすがにこのままだとキツいな。
でも、俺が竜を惹きつけている間は街への被害は抑えられる。
「これ疲れるから、あんまり使いたくなかったんだけど。そうも言ってられないみたいだ」
ハクトはスキルを解放する。
放出された白い炎が身体から溢れる。手に持つ剣にもその炎は広がっていた。
これがハクト・ロムレスの能力…!
距離はかなり離れているはずなのに、身体にヒリヒリと熱を感じる。
ハクトは建物の壁を走り登ると、大きく剣を振りかぶる。
「灼熱斬!」
炎を帯びた斬撃が竜を襲い、まともに食らった二体の竜が白い炎に包まれ、地に墜ちる。
「ヒッ!お前達早くあいつを倒せ!」
群がる竜に二発連続で灼熱斬を放ち、三体の竜も倒れた。
「ヒッ。おい、どうした!どんどん行け!」
振り返るとそこに竜はいなかった。
もう街のどこにもいないのか?二十は呼び寄せたはずだぞ。
まさか他の竜も全部こいつが…?
ちっ、潜伏していたのが裏目に出た。こんなに速く竜が倒されるとは思わなかった。
追加で呼んだ竜はここに来るまで時間がかかるか。
「さっきので最後だよ。あとはあんただけ」
「ヒッ…!」
こちらに一歩ずつ近寄ってくる。その姿はまるで炎人のようだ。
こうなったら奥の手を出すしかない。
「ハクエイの使者の割に弱いんだね。竜を操れるのは凄いと思うけど」
「ヒッ。もう勝ったと思ってるなら大間違いだ」
マントを捲ると、マニの身体に岩の魔物ゴーレムの顔がついていた。
何だ?あれも魔物なのか?
「従魔統制!」
魔物はマニの身体全体を岩で覆い尽くし、ゴーレムと同じくらいの大きさにまで巨大化した。
「ヒッ。俺もお前と同じ身体強化をする魔物を使えるんだよ。しかも、この寄生型ゴーレムはデザレス高山にしかない魔物で、普通のゴーレムの十倍以上の頑丈さと力を持っている!」
「知識をただひけらかすのは、弱く見えるから止めたほうがいいよ」
「ヒッ!黙れ黙れっ!!こいつは一人で相手できる魔物じゃないぞ?今さら助けを呼んでも遅い。その前にお前の四肢を捥いでやる!」
勢いよく殴りかかってくるマニ。
大きさに似合わず俊敏だ。剣で受け止めるが凄まじいパワーだ。
白炎の刃に触れても燃えないのか。岩だと相性が悪いな。
さらに拳の追撃を浴び、後退させられる。
正面からぶつかるのは厄介だ。
ハクトは相手に的を絞らせないようにマニの周囲を走り回る。
死角から斬りつけるが、その身体には全く傷がつかなかった。
思ったより硬いな。
それにリーチが長い腕を振り回すだけで、かなりの威力だ。まともに受けるのはしんどいだろうな。
仕方ない。
「出力上げるよ」
ハクトから滲み出る白炎の量が増える。
マニがハクトに向かって拳を掲げる。
「ハッタリだろ!これで終わりだ!」
「灼熱斬!」
「ヒッ…」
マニの右腕が溶け落ちていた。
「え…?」
ハクトはそのまま残りの手足を斬り落とすと、魔物の武装が解除され、マニは元の姿に戻る。
マニの身体を巻いていたゴーレムの顔が砕け散った。
「これで終わりだね」
「くそっ!」
降参したマニを近くにあった縄で縛り付ける。
王都に向かっていた竜達も我に返ったのか、街から離れていった。
よし、ひとまず兄さんの所に戻ろう。
ハクエイのことも知らせないと。
むしろ兄さんの所にもハクエイの連中が押しかけているかもしれない。
周囲ではロムレスの兵士とタオウの兵士が争いをしていた。
この状況でこいつの監視は頼めそうにない。
やむを得ず、マニを建物内に置いていく。
急いで大広間に戻ると、そこには血だらけで倒れているレイムの姿があった。
「兄さん!」




