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ゼインは調合したい  作者: トウカ


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第39話 想い (1)

レイムは両拳に炎をまとわせ、ファイティングポーズをとる。


「この(スタイル)で貴殿らと戦うのは初めてだな」

「戦い方を変えたからって何だっていうの?リューズ!行くわよ!」

「はっ!」


メイラン達は再び連携攻撃を繰り出す。

今度は十二発か。

左側に飛び跳ね、水像を盾にして水弾を防ぐと、右ストレートで水像を殴り倒す。

そのままリューズ本体に向かって走りながら、残りの水弾を拳で吹き飛ばす。リューズの槍を見切ると、その腹部を殴り飛ばした。


「カハッ…」


リューズはメイランのいる位置まで押し戻される。

レイムの強さに驚くメイラン。

化け物め。まだ本気じゃなかったのか。

だが、ここまで来て引き下がるわけにはいかない。

ユノイがいなくなった世界で、ユノイを殺した奴らが生きてるなんて許されていいはずがない。


リューズは腹部を押さえる。なんてパワーだ。それに焼けるように熱い。

でも、負けるわけにはいかない。姫様のためにも。

ここで負ければ、また彼女は生きる目的を失ってしまう。



俺は代々、王族の傍を任される一族に産まれた。

戦闘向きのスキルも発現し、武術としての技量も評価され、十六歳のときメイラン様の側近として認められた。

初めて会ったとき、彼女はまだ十二歳だったが、既に凛々りりしくたくましい御方おかただった。

かなり異例だが、その年齢にも関わらず国王に付き従い、政務に携わる機会も与えられていた。時には国同士の会談にも参加することもあった。

現状維持を望む消極的な現国王に対し、メイラン様は積極的な外交を志す御方だった。さらに彼女は交渉術に長け、タオウ国に優位に働く条約を結ぶに至ることもあった。

そのためメイラン様を快く思わない勢力から命を狙われることも少なくなかった。無論、俺が問題なく対処してきたが、その後メイラン様自身にもスキルが発現した。


「リューズ!私に戦い方を教えて!」

「いえ、それは私の役目ですので、メイラン様まで武術を覚える必要はないかと」

「守られてばかりは嫌なの!リューズと一緒に戦いたい!」


さらに国王からの後押しもあり、メイラン様の鍛錬が始まった。

しかし、彼女に武術の才があるとは言えなかった。一振りに対して、どうしても反応が遅れてしまい、メイラン様が相手の隙を突けることはなかった。


「私、才能無いのかな…」

「確かに人には得手不得手はあります。私が数字が苦手なようにメイラン様も剣術が苦手なのかもしれません。得意分野に専念するという選択もあります。メイラン様はどうしたいですか?」


メイランは少し考えたあと、真っ直ぐな眼差しで俺を見た。


「このまま諦めたくない」

「では一緒に頑張りましょう。メイラン様に合った戦い方があるはずです」


それから試行錯誤した後、メイラン様のスキルをメインにした戦い方であれば、他者にも引けを取らない強さを手にできた。それに近接戦闘メインの俺と連携すれば、どんな相手にも通用する。

俺はメイラン様の努力が実を結んだことが、ただただ嬉しかった。

それから暫く経った頃、メイラン様が一部の執務を一人で任せてもらうようになると、一日のスケジュールはさらに多忙を極めるようになった。


「メイラン様、少しお休みになられた方がいいかと。簡単な軽食をお持ちいたしました」


トレーに載せた数種類のパンとクッキーを机の上に置いた。


「ありがとう」


淹れ立てのコーヒーとクッキーを食べながら書類に目を通されていた。

視線を感じると思ったら、メイラン様がこちらをじっと見たまま動きを止めていた。


「メイラン様?」


すると、メイラン様は何も言わず俺の口にパンを突っ込んできた。


「リューズ、今日全然ご飯食べてないでしょ?」

「あ、ありがとうございます。ですが、今後お気遣い不要です。私は一日程度食事を取らなくてもいいように訓練を受けています。メイラン様の方こそ、お身体に気をつけていただかないと…」


リューズの言葉を遮るようにメイラン様は叫んだ。


「もうっ!リューズは真面目すぎ!もうちょっと肩の力を抜いてよ」

「しかし、メイラン様のお身体の方が大事ですので…」


メイラン様は呆れるように息を吐いた。


「そのメイラン様って言うのやめてよ。他人行儀な感じがして好きじゃないの」

「も、申し訳ありません。では、なんとお呼びすれば?」

「メイランでいいわ!」

「それはできかねます。私はあなた様にお仕えする身ですから」

「うーん、じゃあ、メイランさん?これはこれで距離感あるか。いっそメイちゃんとか?」

「それも難しいですね…」

「うーん、何がいいかなぁ」


メイラン様は腕を組みながら頭をひねるが、なかなか妙案は思いつかないご様子だった。

そのとき俺は頭の中にある言葉を思いついた。


「あの、姫様、というのはいかがでしょうか?」

「…うん、それいいわね!姫様!それにしましょう!」


姫様の笑顔はあまりに神々こうごうしく、俺には眩しすぎるくらいだった。


そんな姫様にも唯一心通わせる人がいた。

許嫁いいなずけであるユノイ様だ。

彼はタオウの中でも由緒正しき貴族の跡取りだったが、傲慢ごうまんな振る舞いもなく、人望の厚い御方だった。

彼は幼少期から身体が少し弱く、病気がちだったので、会える日は限られてはいたが、お二人で過ごしている様子は微笑ましく、姫様は普段とはまた違った表情をみせていた。

ユノイ様と婚姻を結べば、きっと姫様はさぞ幸せになるだろうと確信していた。

だが、天は姫様の幸福を無情にも奪い去った。

タオウで原因不明の感染症が流行ったのだ。

最初は他愛ない病気と考えられていたが、瞬く間に感染者が増えていった。

感染症に身分や年齢の隔たりはなく、不幸にも感染者の中にユノイ様も含まれていた。

治療薬は分からず、輸液を与え、延命措置をする以外対処法がなかった。

もちろん彼にも延命措置が施されたが、徐々にその身体は衰弱していった。

そして、彼は意識が戻らないまま静かに息を引き取った。

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