第37話 消失
爆発の煙に紛れて、ゼインの頭に何かが直撃する。
不意打ちの攻撃に思わず倒れ込んだ。
「いっつ…」
触れると頭から血が少し出ていた。それに濡れている。
何だ?何が当たったんだ?
傍にいたホムラにも当たったかもしれない。
「ホムラ?大丈夫か?」
返事がない。
打ちどころが悪く、気を失っているのかもしれない。
次第に爆煙が流れ、視界が晴れる。
しかし、そこにホムラの姿がなかった。
「は?」
どこに行った?
さっきまで隣にいたんだぞ。
瞬時に嫌な予感が頭を横切った。
さらに城外から悲鳴の合間に何度も爆音が響き渡る。
外に目を向けると、割れた窓から竜の瞳がこちらを覗き込む。
今の竜か?竜がなんでここに?
竜は高山に生息している。こんな人里に降りてくるはずがない。
それも一匹や二匹じゃない。
割れた窓から外を見ると、王都の空を何匹もの竜が飛び回っており、至る所から煙が上がっていた。
ここを攻撃してきたのもさっきの竜か。
天井からパラパラと石が落ちる。竜がまだこの城のどこかを攻撃しているんだ。
レイムは周囲を確認する。大きな怪我人を負っている人はいなさそうだ。
竜が襲ってきた理由を考えるのは後だ。早く竜を倒さないと街が壊滅してしまう。
「ハクトと俺は竜を叩くぞ」
「分かった」
「キーソン!皆を避難させる役目は任せた!」
「はっ!」
キーソンは兵士に指示を出しながら、貴族らに急いで部屋を出るように促す。
レイムはゼインを真っ直ぐに見据えて叫んだ。
「ゼイン!ホムラを探してくれ!頼んだぞ!」
その言葉にハッとするゼイン。
そうだ。立ち止まってる場合じゃない。早くホムラを探さないと。
ゼインはレイムに応えるように力強く頷いた。
ログとシリルが心配そうにこちらに走り寄ってきていた。見た感じ、二人は怪我していないようだ。
「ゼイン!」
「ホムラが攫われた。俺はホムラを探しに行く」
ゼインは足に稲妻を纏わせる。
「僕達も後から追いかけるよ!」
「ああ!」
ゼインはバルコニーから外に飛び立つ。
入れ替わりに割れた窓から飛び込んでくる人影が二つ。
「貴殿らは…」
ログの記憶にはない男女だった。
女性の方は水色の長髪をなびかせ、レイムのことを厳しい表情で睨んでいた。動きやすい服装を身に着けながらも胸には防具をつけている。
男の方は黒髪短髪で、防具は付けていない軽装だが、槍を背負っていた。
「まさかこんなときに仕掛けてくるとは…メイラン殿。これはどういうおつもりだ?」
二人に向かってレイムが呟いた。
その声にはこれまで聞いたことのない怒気が籠もっていた。
それとメイランという名前は聞き覚えがあった。
…そうだ、確かタオウの王女の名前だ。
まさか本当に戦争を仕掛けてきたのか。
「どういうつもり?タオウを貶めておいて、よくそんなことが言えるわね!警備が手薄になる、この日を狙うのは当然よ!」
メイランは怒りの形相で両手を前に出す。彼女の背後に十数個の小さな水球が空中に浮かぶと、すぐさまレイムに向かって襲いかかる。
レイムもすぐさま両手を前に出す。
「伏せろ!」
ドンッ!ドンッ!ドンッ!
レイムが放った火球とメイランの飛ばした水球が激しくぶつかる。
ログが顔を上げると、周囲に水霧が漂っていた。レイムが全て相殺してくれたようだ。
「…ハクト、竜の方を任せられるか?」
「大丈夫。兄さんも気をつけて」
「ああ」
ハクトが大広間を出ようとしたとき、ログの手を引っ張る。そのとき、シリルもログの肩に飛び乗った。
「早く逃げるよ!」
「は、はい!」
よし、全員大広間から避難できたな。
これで心置きなく戦える。
剣を抜き、切っ先をメイランに向ける。
「舐められたものね。あなた一人で私達を止められると思ってるなんて」
「悪いが、ハクトの手伝いに行かなきゃならないからな。手加減はしないぞ」
「リューズ!」
メイランの傍に立つ男がレイムに向かって走り出す。
走りながら水の分身を二つ作り上げた。リューズとそっくりな水像は、水で作り上げた槍も持ち合わせていた。
リューズはメイランの側近だ。以前、タオウを訪れたときに一度手合わせしたが、なかなかの腕前だった。
だが、彼のスキルを見るのは初めてだ。
一度に操れるのは二体までなのか。
リューズの動きに合わせ、メイランが水弾を撃ち込む。
レイムはリューズの三方向からの攻撃を躱す。メイランの水弾も剣で捌きながら、左手で炎球を放出し、水像を破壊する。
リューズは即座にもう一つ水像を作り上げ、再び攻撃を仕掛ける。
避けきれず、水槍がレイムの頬を掠る。
思ったより鋭利だな。
水でできた槍だからといって侮れない。避けきれないと致命傷になるな。
「リューズ殿。以前手合わせしたときより腕を上げたな」
「いつまでもご自分が格上だと思わないことだ。私も姫様も日々鍛錬を重ねてきた」
二人の攻撃を避けつつ、距離を取る。
近距離でリューズが攻めながら、メイランが遠距離からそれを援護する。連係の取れた良い動きだ。
「タオウを貶めたと言ったが、何のことだ?我々はそんなことをした覚えはないぞ」
「身に覚えがないなんて言わせない。お前達のせいでユノイが…」
メイランは拳を震わせる。
ユノイは彼女の婚約者だ。
幼少期から病気がちで身体は弱かったが、頭の切れる男だ。誰の目から見ても分かるほどメイランのことを大切に想っていた。
「ユノイ殿に何かあったのか?」
メイランは涙を浮かべる。
「ユノイは死んだわ!」
「死んだ?ユノイ殿が?」
「そうよ!お前達がティル山の水に毒を仕込んだせいで!タオウの民も倒れ、今やタオウでは病魔だけでなく、清潔な水不足に陥っている!絶対に許さない!」
ティル山はタオウが水源としてる山の一つだ。
水が原因で人が倒れる?
つい最近、ロムレス郊外の村でも同じことが起きたばかりだ。
そうだ、あそこの村もティル山から流れる水を生活水として使用していた。
「待ってくれ!それをロムレスがやったとお思いなのか?それは誤解だ!ロムレスでも同じことが起きている!」
「嘘よ!もし同じ目に遭っているなら、呑気にパーティーなんて開いてるわけないじゃない!」
「それは原因が分かったから対処しただけだ!」
「どんな医者に聞いても原因は分からなかった!ロムレスにだけ分かるはずがない!」
「ある少年のスキルで突き止めたんだ!治療法も分かっている。貴殿らにも伝えよう。だから、こんな争いは止めにしないか!」
「そんなその場しのぎの嘘で私は騙されない。もし本当に治療法があるなら、お前達を倒した後で聞いてあげるわ」
対話で解決したかったが、聞く耳を持たないか。
仕方がない。
それなら話を聞いてもらえるようにするしかないか。
レイムは剣を鞘にしまう。
「何のつもり?」
「貴殿と話すために俺も本気でお相手しよう」




