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ゼインは調合したい  作者: トウカ


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第4話 裏切り者

「やっぱりてめえか、シュナイダー!!」


ミナリの殺気を浴びても、シュナイダーは平然としていた。

口振りからして元々の知り合いのようだが、良好な関係ではなさそうだ。


「何しに、この森に…まさかお前が女を!」


確かにそうだ。

敬遠されているはずの土地にいるということは、それ相応の理由があるはずだ。


「いや、迷子になって…」

「は?」

「だから、迷子」


迷子?

この場にいる全員、言葉を失った。


「お前ら、森の出口知ってる?」


本気だ。

この人は本気で言っているんだ。


「あれ、もしかしてお前、俺のこと知ってるのか?」 

「なん…だと…。てめえ、俺を知らねえとは言わせねえぞ!俺の名前はミナリだ!」

「ミナリ?ああ、ミナ坊か。ってことは、お前はコブか。久しぶりだな」


満面の笑みを浮かべるシュナイダーとは反対に、ミナリとコブは殺気立っていた。


「何を呑気に…俺はてめえを絶対許さねえ!」

「なんだ。どうかしたのか?」


あっけらかんとするシュナイダーの態度は、彼らの怒りをさらに煽ったようだ。


「どうかしたかだと?お前こそなんで俺達を裏切った!」


シュナイダーは瞳を閉じ、穏やかに吹く風を感じる。それは彼に組織にいた頃の懐かしい記憶を呼び起こした。

だが、その記憶を心の奥底に仕舞い込むと、神妙な顔つきに変わる。


「お前達とは道は(たが)えた。それだけだ」

「俺はあんたのことを本当に…尊敬してたんだ。あんたみたいになりたかった。なのに…」


ミナリは剣を抜くと、稲妻を剣に(まと)わせる。


「許さねえ!お前はここで殺してやる!」

「雷魔剣か。良い物を持ってるな」


コブは地面に足が食い込むほど身体が一回り大きくなる。

あれがアイツのスキルなのか。


「悪いが、お前らに俺は殺せない」


シュナイダーの剣を抜く所作は見惚れてしまうほど美しかった。


「俺がお前達を倒したら、ボスの居場所を教えてもらおうか」

「誰がてめえに教えるかよ!」


切先(きっさき)を向け合う。

ゼインは(つば)を飲み込んだ。

舞い降りた木の葉が地面に落ちた瞬間、ミナリがシュナイダーに突っ込む。

続いてコブも動き出した。

ミナリは下から剣を振り上げる。

雷を纏わせている分、小柄な彼には似つかわないほどの力強さだった。

それでもシュナイダーは淡々とミナリの剣をいなす。

コブが背後から襲いかかる。

だが、後ろに目でもついているのか、シュナイダーは振り向かないままコブの打撃を避ける。

地面にぶつかった拍子にその地が割れる。

とてつもない威力だ。

繰り返される二人の連撃をシュナイダーは避け続ける。

ミナリ達は、まだ彼にかすり傷一つつけれていなかった。

それどころかシュナイダーは反撃する素振りもみせていない。

戦闘経験のないゼインにも分かった。

ミナリとコブはシュナイダーには勝てない。



俺とコブは小さい頃からスキルが発現していた。

孤児だった俺達は、貴重な商品として奴隷商に色んな所を連れ回された。

だが、生意気な視線が気に食わないと、買い手はなかなかつかなかった。

奴隷商からはろくな飯を与えられず、毎日空腹を感じながら過ごしていた。

そんなとき、俺達はあんたに救われた。

奴隷商を打ち倒し、俺達だけでなく、捕らわれた人々を解放してくれた。

俺達にとってはヒーローだった。

そのうえ、行き先がなかった俺達を組織が受け入れてくれて、あんたが父親代わりになってくれた。

身を守るための(すべ)も教えてくれた。

それから五年後のある日、あんたはいなくなった。

組織を裏切って、メンバーを何人も斬って逃げた。

俺達のことを見捨てて、裏切った。

俺達は誰よりもあんたを信じていたのに、なんで何も話してくれなかったんだ。

一緒に組織を裏切ったってよかったのに。

俺はあんたを許さない。

あんただけは許さない。



上から剣を振り下ろす。横から斬り裂く。

何度でも剣を振り上げる。

俺の予備動作のタイミングでコブは拳を振るう。

俺達のコンビネーションは完璧だ。

だが、その度にシュナイダーは(かわ)す。いなす。

まだシュナイダーは力の片鱗すら出していない。


「てめえ、どういうつもりだ。なんで反撃しねえ。舐めてんのか!」

「舐めてなんかないさ。ただ俺が剣を振ると、ミナ坊は死ぬからな」


まだ子ども扱いなのか。

スキルの出力を上げると、剣から稲妻が(ほとばし)る。

ミナリは勢いのままシュナイダーを滅多打ちにする。


「おお!やるなミナ坊」


しかし、それさえもシュナイダーにとっては赤子を(ひね)るようなものだった。

ミナリの剣撃を振り払うと、二人と距離を取る。


「そろそろ居場所を教える気になったか?」

「誰がてめえに…!」


ミナリもコブも息が荒い。相当消耗していた。

息も乱れていないシュナイダーとの差は痛いほど感じた。

それでもこの闘いは負けられない。

あいつだって人間だ。

必ず限界は来る。

年齢的にも戦いから身を引いてもいいくらいのはずだ。

まず一発食らわせる。そこから攻撃をし続ければ勝機は必ずある。


「ミナリ、もう諦めろ。お前では俺には勝てない」

「だから何だってんだあ!!」


ここからは本気でやってやる。出し惜しみなんかしてられない。

ミナリは全身に稲妻を巡らせる。

地面を蹴った瞬間、シュナイダーの目の前に迫る。


「速いな」


シュナイダーはそう呟きながらも軽々と避ける。

ミナリは円を描くように走りながら剣撃を繰り出す。

ゼインにはミナリの動きが目では追えなかった。

コブは地面を蹴り上げると、シュナイダーの頭上に踵を振り落とす。

シュナイダーは両手で剣を支えて受け止める。

その空いた脇腹にミナリが剣を突き刺した。

決まった。

舞い上がる土煙が地に落ちる。

立っていたのはシュナイダーだった。

何が起こった?

よく見ると、コブは足から血を流し倒れている。ミナリも地面に伏していた。

何をしたかは分からないが、シュナイダーがスキルを使ったのは間違いない。


「二人とも強くなったな」


シュナイダーはそう言って、ミナリに笑いかけた。


「くっそおおお!!」


どこまでも遠い。

まだ俺達の遠く彼方にあんたはいる。

ミナリは一人でシュナイダーに攻撃を仕掛け続ける。

しかし、その威力は落ちているようにみえた。

シュナイダーが避けた先に、起き上がったコブが殴りかかる。


「俺も、いる!」

「忘れてないよ」


コブの鋭い蹴りをさらりと躱すと、コブの巨体を軽く投げ飛ばす。

さらに、向かってくるミナリの腹を蹴ると、その勢いで何本もの木が折れた。


「ガハッ」


背中に激痛が走り、吐血する。

だが、痛みを堪え、すぐさま立ち上がる。

剣を拾い上げ、さらに突進する。

負けるわけにはいかない。

家族だとそう思っていた俺達を置き去りにした。

俺達の気持ちを踏みにじったお前に、俺達は負けない。


「シュナイダァー!!」

「残念だよ、ミナ坊」


シュナイダーはミナリの攻撃を避けると、鋭い剣撃で彼の腹部を斬りつけた。


「ミナリ!」


斬られたミナリを見て、コブは拳の連撃を繰り出す。

しかし、シュナイダーは全て避けきると、コブの(ふところ)に入り、その身体を斬り裂いた。

刀を振り払うと、付いた血を地面に吹きつける。

哀れみの視線を二人に送る。


「昔のよしみでトドメは刺さないでおいてやる」

「てめ…待て…」


シュナイダーはミナリを既に見ていない。

頭を搔きながら、ゼインが潜む茂みに視線を飛ばす。

ゼインはギクリと身体を震わせる。

まさか自分もやられるのか。


「はぁー、俺、森から出れるかなあ」


そう言いながら、シュナイダーはその場を後にした。

緊張を紐解くように静かに息を吐くゼイン。

死ぬかと思った。

ゼインはあの一瞬で大量の汗をかいていた。

いや、今はそれよりーーー


「おい…いるんだろ。早く…治せ!」


ミナリの呼び掛けに応えるように、ゼインは茂みから顔を出す。

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