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ゼインは調合したい  作者: トウカ


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おまけ ハクトの逃亡劇

ゼインと出会う少し前の頃。

ハクトは窓から差し込む日差しに目を覚ます。

う〜ん、まだ眠い。

強力な眠気が二度寝へと誘惑してくる。再び深い眠りへとつこうとしたとき、


「ハクト様!朝ですよ!」

「…ミンス、もう少し寝させて」

「いけません!朝食に遅れてしまいます!」


ミンスに叩き起こされたハクトは、彼女に着替えを手伝ってもらう。

顔を洗った頃に、ようやく頭が冴えてきた。

食堂には既に兄さんが食卓につき、朝食を食べていた。


「ハクト、相変わらず寝坊か?」

「レイム様、遅れてしまい申し訳ございません」

「ミンスが悪いわけじゃない。ハクトの寝坊癖は子どもの頃からだからな。もう慣れている」


ハクトは定位置であるレイムの正面に座る。

朝食を食べ進めていると、レイムが声を掛ける。


「今日の稽古は馬術から剣術に変更だ」

「え…どうして…」


剣術稽古は訓練の中でも一番しんどい。

昨日も兄さんの鬼稽古に付き合わされて筋肉痛なのに。


「馬の状態があまり良くないらしくてな。だから変更だ」

「いや、でも…」

「ではな、ハクト待ってるぞ」


レイムは先に朝食を終え、食堂を出て行った。

嫌だなあ。

たまには休む日があってもいいと思うんだけど。

ハクトも朝食を食べ終える。

廊下を進んでいると、ミンスが咳払いをする。


「ハクト様、執務室は右にございます」


やっぱりバレたか。

まだ執務室に行きたくなくて、遠回りをしようと思ったのに。


「ちょっと散歩したいんだけど」

「いけません。今日は執務が溜まっておりますので、消化していただかないといけません」


ハクトは重たい溜め息をつく。

渋々、執務室に行き業務をこなす。少しでもペースを緩めると、ミンスの小言が飛んできた。

夕方になった頃、どうにか今日の業務を終える。

時計を見ると、稽古の開始時間を少し過ぎたところだった。

今から行きたくないなあ。今日は疲れたし。

ミンスには稽古に行くと告げ、城の庭に向かった。ここは茂みに囲まれているので、知る人ぞ知る俺の隠れ場所の一つだ。

芝生の上に寝転ぶと、日光浴に(いそ)しんだ。

うたた寝していたとき、遠くで兄さんの声がした気がした。

ガバっと身体を起こして、耳を澄ます。


「ハクトーッ!どこだー!」


間違いない。

兄さんが俺を探してる。でも、せっかくここまできたんだ。今日は絶対にサボらせてもらう。

ハクトは周囲を警戒しながら、厩舎(きゅうしゃ)に場所を移した。

今朝、兄さんが馬の調子が悪いと言っていたから、ここには来ないだろう。

しかし、暫くすると再びレイムの声が遠くで聞こえてきた。

ここもダメなのか!?

次は書庫だ。

さすがに俺がここに来るとは思わないでしょ。

すると、受付の子が俺に話し掛けてきた。


「ハクト様、先程レイム様がいらっしゃってましたよ。自分の所に来るようにと」


ここもバレてるのか!?

ハクトは書庫を出て、各所を転々とするが、行く先々でレイムの声が聞こえてきた。

何で分かるんだ!?

仕方がない。ここはとっておきの隠れ場所、城の中でも俺しか知らない場所に行こう。

物置部屋の天井板を外すと、屋根裏に出れるようになっている。

そこの窓から城の最頂部の屋根に出れる。

ここから眺める街の景色や人の動き、なびく風を浴びるのが好きだ。

入口が特殊なので、なかなか来れないのが難点だ。


「ハクト!ここにいたのか!」

「ゲッ!兄さん!」

「待て待て待て!」


逃げようとするハクトをレイムが慌てて引き止める。


「稽古に呼びに来たんじゃないんだ」

「え?そうなの?」

「ミンスから今日は業務が立て込んでいて、稽古に来れないと聞いていたからな」

「じゃあ、どうして…」


レイムが小包を差し出す。

中にはマカロンが入っていた。しかも、ロムレスで人気の店、ラシュルのやつだ。

これ、俺の好きなやつ。

ハクトが顔を上げると、レイムが満面の笑みを浮かべる。


「たまには二人で食べたいと思ってな」

「…うん」


屋根の上に座りながらマカロンを食べる。


「ここは良い景色だな」

「俺だけの秘密の場所だったのにな。兄さん、なんで分かったの?」

「兄弟だからな」

「それじゃあ答えになってないよ」

「まあ、俺もたまにここに来てたからな」

「え、そうなの?」

「ああ、いつだったか物置部屋の天井板がずれているのに気づいてな。そのとき、この場所を知った。来るのは久々だけどな」

「そうだったんだ」


兄さんもこの場所知ってたんだ。

こんなにのんびり兄さんと過ごすなんていつぶりだろうか。

たまにはいいかもしれないな。


「しかし、業務で忙しいと聞いていたが、こんなに動ける元気があるなら、稽古もできるんじゃないか?」


兄さんは相変わらずだ。

ハクトはフッと笑った。


「勘弁してくれ」

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