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ゼインは調合したい  作者: トウカ


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おまけ ご機嫌なスオナ

城の東に位置する官舎には後方支援部隊の隊員達が日々過ごしている。

その中にはスオナが属する医療部隊も含まれていた。

新たな治療薬の開発だけでなく、争いに巻き込まれた市民や兵士が負傷した場合に治療をするのも医療部隊の仕事だ。

その中でスオナは戦いの最前線に(おもむ)き、治療する部隊の隊長を任されている。


レイムから命を受け、ゼイン達と共に意識不明の村人を救い、城へ戻ってきた翌日の事。


「スオナ隊長、お疲れ様です!書類の確認をお願いします!」


隊長室にやってきた隊員が持ってきた資料に目を通していると、隊員が雑談を持ち掛けてきた。


「そういえばゼイン殿は城に滞在しているらしいですね」

「ええ、建国祭が終わるまで滞在するって聞いてる」

「最近はレイム様やハクト様と稽古している姿を見た者もいたらしいですよ」


レイム様の稽古好きは城中で有名な話だ。

よく彼の稽古に参加したいと志願した兵士が、疲弊した状態で医務室に来ることも少なくない。

ゼインもそのうちここを訪れることになるだろうな。


その日の業務を終えたスオナは、勉強用の本を借りに書庫を訪れた。

この本は…。

手に取った本には『治癒の基礎』と書かれていた。懐かしい。

医療部隊に派遣された頃、勉強のために読んだ本だ。

図解がついていて、とても分かりやすかったのを思い出す。

そういえばゼインが治癒術に興味がありそうな感じだった。

今度ゼインに会ったときに渡そうか。



それから数日。

廊下を歩いていると、反対側からゼインが歩いてきた。


「ゼイン、久しぶりですね」

「ああ、スオナさん、お久しぶりです」


やけに疲れているようにみえる。訓練終わりだろうか。


「訓練帰りですか?」

「そうなんです。レイムさんの稽古が鬼みたいに辛くて」

「そうでしょうね。レイム様のスパルタは有名ですから。訓練に耐えきれない人もいるくらいです。その点、ゼインは優秀ですよ」

「そうなのかな」

「そうだ、この本、書庫から借りたんです。治癒術に興味があれば、勉強にいいかと思ったんですが…」

「あ、それ読みましたよ」

「え?あそこは外部の人間は出入りできないはずですけど」

「あー、実は今レイムさんからホムラの警護を依頼されてて、その報酬として書庫の出入りを許可してもらったんです。そのときに借りた一冊がそれでした」


レイム様はまたゼインに無茶なお願いをしているのか。

いや、あの方の考えることだ。

ゼインを指名したということは相応の理由があるのだろう。


「もう読了済みだったとは。驚きました」

「治癒術も気になってたので、初日に借りて読みました。そうだ、他にスオナさんのオススメあります?」

「そうですね…。『薬の作成法』『薬学の方程式』とかは凄く勉強になりました」

「へえ!今度借りてみます」

「ゼインはどんな本を読むんですか?」

「俺は魔物とか薬草、木の実とかの調合に使えそうな本を色々読んでます」


ゼインの貪欲なまでの好奇心は私自身も刺激する。

彼に負けないように私も精進せねば。


「そうだ、『魔物の雑学』とか面白いですよ!普通では知れないようなことが書いてあるんで!」

「ありがとう。今度借りてみます」


それから城で行なった実験や今までの研究の話を聞いて、仮説に基づいた議論を交えた。

十七時を知らせる鐘が鳴る。


「もうこんな時間か。私は戻らないといけないので、これで失礼します」

「色々話せて凄い楽しかったです。また時間合ったら話しましょう」

「ええ、是非」


有意義な時間だった。

ここまで深い話をできる人物はそうそういない。

隊長室に戻り、残りの仕事を片付けるスオナ。


「なんか隊長の機嫌良いよな」

「本当だな。何か良いことでもあったのかな?」


口元を緩めているスオナの姿に隊員達は首を(かし)げるばかりだった。

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