おまけ ホムラの奮闘記
私はロムレスの姫、ホムラ。
つい最近、初めて恋をした。
初めて会ったときに怪我した傷を治してくれたうえ、腕の痕を見ても平然と接してくれた王子様みたいな人。
建国祭が終わるまでロムレス城にいるとレイム兄様から聞いているけど、稽古をしたり研究をしたりでいつも忙しそう。
それでも、時折私のもとを訪ねてきてくれる優しいお方、ゼイン様。
そんなゼイン様は研究や調合の話をしているとき、とても楽しそうで素敵な笑顔をしているの。
でも、私には難しい話が多くて、聞いているばかりになってしまってる。
ゼイン様は気にしてなさそうだけど、やっぱり私は気がかりで…。
好いている男性の話についていけなくてはロムレスの姫としての名が廃るもの。
だから今日は木の実の図鑑を読んでみたの。
木の実それぞれに色んな効能があると知れて、とても勉強になったわ。
そうだ、チェイズに部屋の本の入れ替えも頼まなくちゃ。
昨日からログとシリルが私の部屋に泊まってくれることになったの。
ログが私と一緒にいたいって言ってくれて嬉しかった。
私が読書したいと言っても、快く受け入れてくれてる優しいお友達。
ログは何か物語が書かれた本を夢中になって読んでるみたいだった。明日どんな内容だったのか聞いてみようかな。
シリルは膝に乗ってきて構ってほしいと言うこともあれば、ベッドの上で眠ってることもある。
キャトリアという種族だけに自由に過ごしているみたい。
こんな部屋で窮屈な思いをしていないか心配だったけど、二人ともそんな様子はなくて少し安心した。
十五時を過ぎた頃、ゼイン様が来てくれて、とても嬉しかった。
「チェイズ、お茶を用意してくれる?」
「かしこまりました」
ゼイン様は普段本を持っていることが多いのに、今日は珍しく袋を持っていることに気づいたの。
「今日は俺の自信作を食べてもらおうと思ってさ」
そう言ってゼイン様が取り出したのは、赤色のゼリーと焼き菓子、クッキーだった。
ゼイン様はお菓子作りに目覚めたのかしら?
ログは何故か呆れた顔をしてゼイン様を見ていた気がする。
「これさ、魔物も人も食べれるように作ったやつなんだ。ゼリーはこの前言ったベリーの実とスライムを合わせたやつで、焼き菓子は薬草のゲンノシを混ぜてる。クッキーはリンゴットと幻樹スライムを混ぜたんだ。幻樹スライムってとこが重要だな。スライムだと水っぽくなって美味しくないんだ」
「これ全部魔物も食べれるのですか?」
「ああ、シリルで実験済みだ」
「美味しかったニャ」
「ホムラにも食べて欲しくて持ってきたんだ」
「凄い嬉しいです!」
私のために持ってきてくれたなんて、こんな嬉しいことはないわ。
それで早速ゼイン様のおやつをいただいたの。
どれも不思議な味がしたけど、お菓子の甘みとマッチして美味しかった。
「あと、これも作ってみたんだけどさ。スコーンにチョウドリのもも肉とヤコウダケとゲンノシを混ぜてみたんだ」
ゼイン様は紫色のスコーンを取り出されたの。
不思議な色だなと思ったけど、手に取ってみたわ。
「これはどんな味なのかしら」
口に運んだ瞬間、見た目と相反した柔らかい食感に加え、独特の生臭さが鼻に抜け、苦味と酸味が混じり合った味がした。
大きな声では言えないけど、あまり美味しくなかったの。
「あ、それ、失敗作なんだけど…」
何故かゼイン様のその言葉を聞いて以降の記憶がないの。
気がついた頃にはベッドで寝かされていたわ。
どうやら私は誤って失敗作を食べてしまったらしいの。
人体に害はないらしいのだけど、あの後、ゼイン様がログとお兄様達にひどく叱られたと聞いたわ。
ログには弁明したけれど、明日お兄様達にもゼイン様は悪くないって話をしなくちゃ。
ホムラはここまで書き記すし、日記を閉じる。
「ホムラ、まだ寝ニャいの?」
「ごめんなさい、もう寝るわ」
ベッドに入ると、ログもシリルも目を閉じて、眠そうな顔をしていた。
私が眠るまで待ってくれていたみたい。
ホムラは嬉しくて笑みが溢れる。
「ログ、シリル、ありがとう。おやすみ」




