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ゼインは調合したい  作者: トウカ


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第34話 探る (3)

「何が気になるんだよ」

「オドールさんのことなんだけど」

「その話なら場所を移した方がよくニャい?」

「確かに、そうだね」


人通りの多い兵舎から離れ、人気(ひとけ)のない場所に移動する。


「それで?」

「ホムラを襲ったのはオドールさんだけだよね」

「ああ」

「たった一人に王女誘拐を依頼するなんて変じゃない?一人だけで襲撃しても成功する確率低いし」


警戒態勢の厳しい城に忍び込むのは一人の方が都合はいい気もする。

だが、オドールはどこかの組織に属するでもなく、やってきたこともそこまで大きくない。どちらかというと小物(こもの)だ。

一人でこなすには荷が重いだろう。

そう思うと、他の適任者にも依頼をしていた可能性はあるか。


「他にも誘拐犯がいるって言いたいのか?」

「いや、それなら襲撃のとき協力してないのは変だよ。そうじゃなくて、オドールさんの襲撃の裏に何か狙いがあるんじゃないかなって」

「狙いってなんだよ」

「…それはまだ分かんないけど」

「分かんないのかよ」

「そこまではさすがに分かんないよ。ゼインだって分かんないでしょ」

「そうだけどさ…。でもログが引っかかってるのは分かった。例えば、オドールの襲撃を囮にして、警戒が緩んだ隙に別の奴がホムラを襲いに来る可能性もあるってことだな」

「うん…」

「まあ、ここで話しててもしょうがないし、ひとまずホムラの様子を見に行ってみるか」


そのとき、シリルの腹から大きな音が鳴る。

ちょうど十三時を過ぎたところだった。

そういえば昼を食べ損ねていた。


「ゼイン、ご飯食べたいニャ」

「ホムラが先だ。ご飯はチェイズさんにお願いしてみるか」


ホムラの私室に入ると、部屋の隅にある書籍スペースで何かの本を熱心に読んでいるようだった。

こちらに気づくと、本を閉じて慌てて歩み寄ってくる。


「ゼ、ゼイン様!どうしてこちらに?」

「いや、何か変わったことはなかったか?」

「え、いえ…。私はずっとここにいましたが、特に何もありませんでした」

「そうか」

「何かあったのですか?」

「いや、オドールは囮で、本命の襲撃者が来るんじゃないかと思っただけ」

「そう、ですか…。まだ安心できないってことですね」


ゼインのストレートな物言いにホムラの表情が曇る。

自分がまだ狙われる可能性があるのだから当然だろう。

もう少しゼインもホムラを気遣った言い方をしてくれればよかったのに。

重たい雰囲気を感じ取ったのか、チェイズがホムラに提案する。


「ホムラ様、皆様にお茶をご用意しましょうか?」

「え、ええ、お願いするわ」

「あ、チェイズさん、俺達昼ご飯を食べてなくて。残り物でもいいので、何か食べ物とかありますか?」

「分かりました、用意します」

「いっぱい欲しいニャ!」

「夜ご飯食べれなくなるから、たくさんはダメだよ」


チェイズが用意したサンドイッチをつまみながら、ホムラに今日兵士の訓練に参加したことを話した。

シリルはご飯を食べた後、ホムラの膝に乗り、おやつまでもらっていた。

今は満足そうに毛繕いをしている。


「そういえばさっきは何の本を読んでたんですか?」

「そ、その、ゼイン様と話をするために魔物の本を…」


ホムラは指遊びしながら恥ずかしそうに言った。

ゼインと話を合わせるために本を読むなんて、ホムラは真面目な性格のようだ。

ゼインから素材や研究結果を覚えるために無理矢理読まされたが、特に面白くはない内容だった。


「魔物に興味があるのか?魔物はいいよな。魔物自体もそうだし、その生態系とかも知ると面白いし」


ホムラが魔物に興味があると分かると、ゼインは前のめりになる。

ゼインが近寄ると、ホムラの頬が赤く染まる。


「魔物…というか、その、私は…」

「あ、もしかして木の実とか薬草の方に興味あるのか?木の実ならこの城でも採れるのがあるぞ。庭にある木に色んなベリーの実が成ってたし、これがスライムと合わせると美味いんだよ」


また始まった。

ログは聞き流しながら紅茶をひと口飲む。

そのとき、ふと視界に入ってきたチェイズに思わず身体が(すく)んだ。

チェイズがホムラを見下ろすように睨んでいたのだ。その目には敵意のようなものが宿っているように感じた。

ホムラの周りを警戒するなら分かるが、何故ホムラ自身を睨む?

そういえばホムラが襲撃されたとき、彼女が部屋を離れたから、ホムラはあの教会に僕を連れ出した。

でも、もしホムラが教会に行っていることをチェイズさんが知っていたとしたら?

わざと席を外したってことはないだろうか。いや、そんなことあるわけない。

オドールさんを捕らえたのもチェイズさんだ。

そんな彼女がホムラの襲撃を(くわだ)てるはずがない。

それもわざと?

考えが(まと)まらないまま、疑念だけが膨れ上がっていく。


「皆様」


チェイズの声にログは身体をびくつかせる。


「そろそろ夕飯の時間かと」

「なんだ、これからってときだったのに。しょうがないな。じゃあ、今度続きを聞かせてやるよ」

「え、ええ!楽しみにしています!」


不満げなゼインにホムラは苦笑いしながら答えた。

ログはチェイズと目を合わさないように俯いたまま部屋を出た。

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