第33話 探る (2)
お互い木刀を構えたまま睨み合う。
打ち込むタイミングを見計らいながら、ゼインはハクトの言葉を思い出す。
◆
レイムに付き合わされた稽古が一段落し、ハクトと共に休憩していたときの事。
「ハクトは戦うとき、何考えてる?」
ハクトととの実戦形式を何度しても勝つことができない。それどころか戦えば戦うほど勝ち筋が見えなかった。
ハクトが何を見て、何を感じながら戦っているのかが気になっていた。
「う〜ん、間合いとか呼吸とかかな」
「間合いと呼吸…。もうちょっと具体的に教えてよ」
「えーっと、俺は相手の間合いに入らないように気をつけてるかな。呼吸はずっと見てる。息を吸ってる瞬間は隙が生まれやすいから」
「なるほど」
今まで何も考えず、自分の感覚に頼って戦ってきた。
でも、強者と渡り合うにはそれだけでは勝てない。
呼吸と間合い。
これを見極められるようになれば、もっと強くなれるかもしれない。
◆
イラギの間合いは二メートルくらいか。
俺の間合いより長い。
普通に戦えば俺の方が不利だ。
イラギの呼吸を掴めるかどうかが勝負の鍵ってことだな。
ちょうどいい。実戦で試してみたかったんだ。
自分の呼吸を悟らせない。
凪のように、静かに。
ゆっくりと息を吐く。
周りの雑音が消え、イラギの姿に集中する。
次第に奴の呼吸が見えてくる。
イラギが息を吸いかけたとき、ゼインは走り込む。
相手に息する間も与えず、剣を振るう。
攻撃は最大の防御だ。
呼吸が整わなくなれば、防御も次第に崩れる。
ゼインはイラギの剣を振り払い、その喉元に切っ先を向けた。
「そこまで!ゼインの勝利!」
悔しそうにゼインを睨むイラギ。
思わぬ激しい攻防に周りの兵士がざわめいていた。
「凄い…。本当にゼインが勝った!シリル、何で分かったの?」
「イラギより今のゼインの方が嫌な感じがしただけニャ」
魔物の生存本能だろうか。
もしかしたら危険な相手だと判断する能力が長けているのかもしれない。
◆
訓練を終えたゼイン達は団長室に通された。
手狭な部屋に書類や本が積まれている。
お世辞にも綺麗な部屋とは言えなかった。
ゼイン達は木製の椅子に腰掛ける。
「どうだった?訓練は?」
ヤトムがゼインに尋ねる。
「結構キツかったです」
「君にその気があるなら、私達の仲間にならないか?」
「兵士になったら、ホムラの警護できるの?」
ゼインはさりげなく探りを入れる。
ヤトムはその質問に少し驚いているようにみえた。
「ホムラ様の警護か…。そうだな、信頼と実力が兼ね備えていれば、いずれ守れるかもしれないな」
「じゃあ、すぐには警護にはつけないの?」
「そりゃあ王族の警護だからな。暫くは一般の兵士として働いてもらうことになる。さっきの対人戦で勝ち抜いたり、推薦があったりすれば、希望の配属先につくことだってできる」
「推薦か…」
「そういえばホムラ様の警護についているオドールは推薦だったな」
向こうからオドールのことを話題に出してきた。好都合だ。
ヤトムにはオドールの正体を知らせていない。
今もまだホムラの警護をしていると思っているはずだ。
「オドールさん、推薦なんですね。ホムラの部屋に行くときに少し話すようになって。でも、兵士に経ってから間もないと言っていましたけど、団長さんが推薦したんですか?」
「いや、違うな。ちょうどホムラ様の警護に一人欠員が出たんだ。誰を配属しようかと考えていたところで、同僚のディシーから推薦があったんだ。オドールは実力もあったし、申し分ないと思ってな」
「ディシー?」
「オドールの同僚だ。彼はなかなか訓練で成果を出せないんだが、真面目で素直な性格でな。そんな彼がオドールは立派な人間だと推したんだ」
ディシーか。怪しいな。
「色々聞かせてくれてありがとうございました」
「いやいや、これくらい。うちの兵士に来たくなったら、いつでも言ってくれ。歓迎しよう」
団長室を出ると、ログがゼインに尋ねる。
「ディシーを探しに行く?」
「ああ、兵士の人達に聞いてみよう」
今日はどこかの警備についていて、兵舎にはいない可能性はあるが、せっかくここまで来たんだ。
聞くだけ聞いてみよう。
道行く兵士にディシーの所在を尋ねるゼイン。
「おい、ディシー!」
運が良い。ちょうど兵舎にいたようだ。
兵士の呼び掛けに振り返ったのはまだ幼さが残る少年だった。
俺と同い年くらいか。
「どうかしましたか?」
「こいつらがお前に用なんだとよ」
じゃあ、と立ち去る兵士にゼインは頭を下げた。
ディシーはゼインをじっと見つめる。
「もしかしてゼインさん?さっきイラギさんと戦ってたの見てました!凄く強いですね!」
「ディシーは出てなかったのか?」
「僕はまだ弱いから対人戦はさせてもらえないんです」
「ディシーはここに来て長いのか?」
「僕は一年くらい前に入隊しました。まだ新米なんですが…。あ、すみません。僕に何か用があるんですよね?」
「そうそう。オドールさんの話を聞きたいんだけど」
「オドールさんの?何かあったんですか?」
「いや、最近オドールさんと話すようになってさ。ここにいたときはどんな感じだったのか聞いてみたくて」
ゼインは怪しまれないように言い回しに注意しながら答える。
「どんな…、良い人ですよ。困ってる人がいたら、助けに行くし、僕なんかにも剣術を色々教えてくれましたし」
「そういえばオドールさんをホムラ様の警護に推薦したって聞きましたけど」
ログが会話に加わる。
「そうですよ!オドールさん、ホムラ様の警護についてみたいって言ってたし、ちょうどヤトム団長から欠員が出たって話を聞いていたので」
特に不審な話は出てこないか。
オドールがただ上手く振る舞っていただけなのか?
運良くホムラの警備を任されただけなのかもしれない。
「オドールさんは元気にしてますか?ホムラ様の警備についてから、全然顔を合わせてないので」
「うん、元気にしてるよ」
「そうですか。良かったです」
「おーい!ディシー!」
廊下の奥にいる別の兵士がディシーを大きな声で呼び掛ける。
「あ、すみません。僕もう行かなくちゃ」
「ありがとう。話が聞けて良かった」
手を振りながらディシーは去って行った。
ヤトムとディシーのどちらも変な様子や気になるような話はなかった。
レイムさんの方がどうなってるかだな。
「そろそろ戻るか」
「ねえ、ゼイン。僕、気になってることがあるんだけど」




