表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼインは調合したい  作者: トウカ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/47

第30話 襲撃

ログはホムラの手を引いて座席の後ろに隠れる。

ホムラは顔が青ざめ、手が震えている。

まさか本当に襲われるとは思っていなかったのだろう。

傍には僕しかいない。

僕が彼女を守らなければ。

ここなら矢の追撃も椅子が阻んでくれる。

椅子の背から僅かに顔を出すと、二階の通路の柱に人影が見える。

矢が飛んできているはあそこだ。

ここは特別なときしか入れないとホムラが言っていた。

どうやって入ってきたんだろう。

いや、今はそれよりもここからどうやって逃げるか考えないと。

時間が経てば、不審に思ったチェイズさんが助けに来てくれるかもしれない。

でも、隠し通路をチェイズさんが知らなければ暫く助けは来れない。

それに時間が経てば、襲撃者が強硬手段を取る可能性もある。

隠し通路にさえ入れれば部屋に戻れる。

二階からここに降りてくるのは時間がかかるはずだ。

どうにかホムラが逃げれる時間が作らなければ。

ログはホムラに小声で話し掛ける。


「動けますか?」

「え、ええ。たぶん」

「僕が相手を引きつけるから、その間に隠し通路に入ってください。後で僕も追いかけます」

「でも、そんなこと!」


ホムラが反対するのは分かっていた。

でも、これだけは譲れない。

今、彼女を守れるのは僕だけだから。


「お願いです。策は考えてあります」

「本当に大丈夫なの?」

「はい、だから任せてください」

「…分かった」


矢は三発撃った後、次の攻撃まで間隔が空く。

恐らく次の矢を準備するまでに時間がかかるのだろう。

今、二発目を撃った。


「ホムラ、準備を」


ホムラは裾を(まく)り、準備を整えてくれている。

三発目が放たれた。

ログは隠し通路とは反対側に走り始める。

夕陽に照らされたドレスはホムラと同じオレンジ色に見えるはずだ。

僕が飛び出せば向こうは無視できない。

王族を襲うなんて普通じゃない。

弓以外にも襲撃手段があるかもしれない。

僕が(おとり)になればホムラが助かる可能性はさらに高くなる。

案の定、小型ナイフが飛んできた。


「今!」


ホムラはログの合図を聞いて、隠し通路の入口まで走る。

奴の場所は分かっている。

一瞬でも僕に照準を合わせることで、奴の姿勢が変わったはずだ。

僕がホムラじゃないと気づいた頃にはもう遅い。

その体勢と角度からでは、通路の柱が邪魔で走るホムラをすぐに射抜くのは無理だ。

ホムラが隠し通路の中に無事入った。

襲撃者は舌打ちをすると、二階の通路から逃げていく。フードを被っていて、襲撃者の顔は見えなかった。

命の危機から脱したログはホッと胸を撫で下ろす。

あれ。

今更、手足が震え始めてきた。思わずしゃがみ込み、ゆっくりと息を吐く。

我ながら大胆な作戦だった。

たまたま相手が一人だったから良かったが、複数人いたら殺されたかもしれない。

何度も深呼吸して落ち着かせる。

隠し通路を通って部屋に戻った途端、ホムラが抱きついてきた。


「ログ!」

「わっ!だ、大丈夫ですよ、ちゃんと無事でしたから」


涙を目に浮かべて心配するホムラを(なだ)めるログ。


「戻りました」


チェイズが部屋に入ると、二人の様子に違和感を覚える。


「何かあったんですか?」

「あ、いや…」

「ログ様、その腕の傷どうされたのですか?」


見ると、かすったような傷がついていた。

通路を通ったとき、怪我したのか。

逃さないといった視線でホムラを見るチェイズ。


「ホムラ様、ログ様、正直に話してください」


チェイズは僕たちの異変にもう気づいている。

ログはホムラをちらっと見る。

ホムラは俯いていた顔を上げる。


「チェイズ、ごめんなさい。実は…」


僕達は事の顛末(てんまつ)をチェイズに包み隠さず話した。

チェイズは急いで扉の前に立つ兵士に伝令を指示した。

その後、ホムラとログは部屋の中から一歩も出ることは許されなかった。

襲撃者がまだ城にいる可能性があるからだろう。

ログはチェイズに手当てを受ける。


「ログ様、ホムラ様を守っていただきありがとうございました」

「あ、いえ、あのときは必死でしたので」

「あの通路は封鎖させていただきました」

「そうですか…」

「私がお傍を離れた責任もありますが、ホムラ様は好奇心が旺盛なお方です。危険が及びそうなことをしそうになれば、ホムラ様がどう言おうと止めてください」

「はい…」


夜になり、ベッドで横になっていると、ホムラが申し訳なさそうに呟く。


「ログ、ごめんね」

「いえ、気にしないでください。ホムラが無事で良かったです。後は、犯人たちが捕まるのを祈りましょう」


しかし、一晩中捜索は続いたが襲撃者は見つからなかった。

次の日の朝、僕は一度ゼインに会うために部屋に戻ることにした。

部屋を出ると、門番をしていた兵士の腕に傷があることに気づく。

あれ、この傷…。

そういえば昨日襲撃した男の腕にも同じ傷があった。

まさかこの男が?


「あの、すみません。昨日もここに立っていましたか?」

「なんですか?急に。昨日、自分は非番でしたので宿舎にいました」

「昨日ホムラを襲った人の腕にもあなたと同じ傷があったのを見たんです」


自分が疑われていることに気がついた兵士は苛立ちをみせる。


「腕の傷くらいでなんですか!兵士なら誰しも傷があります」

「僕には『完全記憶』というスキルがあります。一度見た物は忘れないんです。弓を構えるときの動作も再現しましょうか?あなたは弓を引くとき右肘が下がる癖がありますよね?」


ログの言動に兵士は狼狽え始める。

騒ぎが気になったのか、チェイズも姿を現した。


「どうかしましたか?」

「チェイズさん、ホムラを襲撃したのこの人です」


これ以上言い(のが)れできないと察したのか兵士は慌てて逃げる。

追いかけようとするログをチェイズが制止する。

掌を兵士に向けると、男の周りに半円を描くように透明な壁が出現した。

壁を叩き壊そうとするが、ビクともしていない。男が中で何か(わめ)いているが、全く聞こえなかった。

これがチェイズの能力なのか。

どうりでホムラの護衛を任されるわけだ。

この力があれば、敵からホムラを守ることができる。


「ログ様、お手柄です」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ