第25話 ロムレス城 (2)
赤黒くなった肌は手から肘まで続いていた。
この火傷は最近のものじゃない。だいぶ前のものだ。
それに、これは普通の火傷じゃなさそうだ。
この肌を見られたくなくて強情になっていたのか。
ゼインは気にせず少女の腕に薬を塗ると、次第に傷口が塞がる。
それを見て、少女は驚いている様子だった。
「…すごい」
「これでもう大丈夫だ。夜も遅いし、早く部屋に戻れよ」
ゼインは長手袋を彼女に返すと、その場をあとにする。
結局、気分転換にはならなかったな。
部屋に戻ると、ログは鼾をかいて爆睡していた。シリルも腹を仰向けにして、気持ちよさそうに眠っている。
ベッドから落ちそうだが、絶妙なバランスで保っている。
それにしてもどんなポーズだ。
両手を頭に添え、足は不揃いに曲げて寝ている。
どうりで毎日寝癖がひどいわけだ。
二人の耳障りな音を聞きながら、実験の続きを再開した。
翌日。
豪勢な朝食を食べ終え、部屋に戻っていると、その途中、剣の稽古をするレイムがいた。
見知らぬ白髪の少年と対峙している。どうやら実戦形式の稽古のようだ。
お互いの剣技を激しくぶつけ合う姿に、思わず見入ってしまう。
少年は少ない動きで急所を狙っているようだが、レイムは重い振りを次々と叩き込んでいる。
少年の隙を突いて、レイムが一本とった。
「今日はここまでにしよう」
タオルで汗を拭くレイムと目が合った。
「やあ、ゼイン、ログ。朝食はもう済んだか?」
「さっき食べ終わった」
「なら、ちょうどいい。ゼイン、弟のハクトと一つ稽古でもしないか?」
弟?
あまりレイムと似てないな。
いや、待て。それよりも稽古?俺が?
「悪いけど、俺は部屋に戻って実験の続きを…」
「見たところ、ゼインは剣の稽古を受けたことがないんじゃないか?」
「まあ、そうだけど。急になに?」
「いや、盗賊に手間取っているようでは、この先、生き残れないのではと思ってな」
屈託のない笑顔で告げるレイム。
カチン
そりゃあ剣を握ったのは最近だし、普段は実験ばかりしてる。
でも、死闘だって何度もくぐり抜けてきた。
何のつもりか知らないが、そこまで言うなら見せてやる。俺の力を。
「いいさ。やってやる」
ゼインは置いてある木刀を拾う。
シリルは大きな欠伸をすると、前足を使って顔をゴシゴシと洗う。
「あんな簡単にノセられて、ゼインはまだ子どもだニャあ」
「ゼイン、大丈夫かな…」
レイムが休んでいるハクトに呼び掛ける。
「ハクト、彼がゼインだ。ゼインと一戦交えてくれないか」
「えー、やだよ。もう疲れたし」
「ゼインに勝てたら、明日の稽古は免除しよう」
気怠げにしていたハクトの目の色が変わる。
「本当だね?」
「ああ」
ハクトはあまり王子らしくない雰囲気だ。
やる気のない素振りがそう感じさせるのかもしれない。
ハクトも木刀を取ると、ゼインと向かい合う。
レイムが審判を務めるため、二人の中央に立つ。
「一本勝負で、スキルは使用禁止だ。では、始め!」
ハクトの構えは隙がない。かなり強いのが分かる。
隙がないなら作るまでだ。
走り込み、まず一振り。ハクトがその太刀を受け流す。
横に飛び、さらに二撃。それも難なくいなされる。
足下を狙うがそれすらも躱された。
反撃されそうになり、距離をとるゼイン。
打ち崩そうとしても全部対処される。
向こうが攻撃を仕掛けたときの隙を狙うか。
ハクトはゆらりと動いたかと思うと、素早く距離を詰めてくる。
なんて緩急だ。
さらに次々と剣を叩き込まれる。
このままだと受けきれない。
木刀を吹き飛ばされ、瞬時に喉元に木刀の切っ先が突きつけられた。
「勝負あったな」
強い。
手がビリビリと痺れている。
今までの敵とは違う。勢いに乗った振りではなく、身体に積み重ねてきたような重みを感じる。
これが剣術なのか。
「ゼインは見たところ、振りが大振りになりすぎているから、攻撃が読みやすい。それに攻め手のパターンも少ない。手練れに出会えば、たちまちやられてしまう」
説くように話すレイムに思わずイラッとしてしまう。
でも、言われてみれば研究対象が魔物だから、戦う相手は魔物がほとんどだ。
対人戦は今までろくにしたことがない。
ミナリと盗賊くらいか。
「ハクト、ゼインに稽古をつけてやってくれないか」
「えぇー、なんで僕がそんなこと…」
「なに、ハクトはもっと色んな人と交流した方がいいと思ってな」
「いや、俺は稽古なんて…」
勝手に話が進みそうになるのを見て、思わず口挟むゼイン。
力不足なのは痛感したが、そこまでしてもらうのは気が引けた。
「強くなって損はない。研究に魔物の材料を集めるんだろ?これから強い魔物と相対することだってあるはずだ」
「それはそうだけど…」
すると、着飾った少女がこちらに歩み寄ってきた。
よく見れば昨日会った少女だ。
「レイム兄様、稽古は終わったの?今からお茶に…あ」
少女とゼインの視線が交わる。
少女は頬を赤らめ、レイムの後ろに隠れる。
なんだか昨日と様子が違う。
昨日、無理やり長手袋を外して治療したから、あまり良い印象を持たれていないのかもしれない。
「なんだ?どうした、ホムラ」
もじもじとしている少女を不思議そうに見るレイム。
「すまない。同世代の人と話すことがあまりないから、恥ずかしがっているようだ。紹介しよう。妹のホムラだ」




