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ゼインは調合したい  作者: トウカ


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第23話 原因

かなり大きい湖だ。

水は澄んでおり、穏やかに水面(みなも)が揺れている。

シリルは水に前足を入れて遊んでいる。


「こんな所に湖があったなんて…」

「恐らく原因はこの水だ」

「え、この水?」

「村中で蔓延している病気ともなれば、村の人達に何か共通点があるはずだ。スキルでも食べ物でないなら、他に考えられるのは水だ」


そうか。水は誰もが利用し、生きるうえで必要なものだ。

もっと早くに気づくべきだった。

村人達の容態を見ていたのに、そこまで思い至らなかった自分の力不足をスオナは痛感する。


「それに村には井戸もなかった。どこかで水が汲めるような場所がどこかにあると思ったんだ」


ゼインは湖に手を入れるとスキルを使い始める。


「やっぱり…この水、僅かに毒素が含まれている」

「毒素?」

「毒素が身体に蓄積されると、意識障害を引き起こす。これだけ微量だと、味の違いに気づくか気づかないかのレベルだと思う」


少年とは思えない知識量と洞察力だ。今までどれだけの学びを得てきていたのだろう。

レイム様の判断は間違っていなかった。

まさかこんなに早く原因が分かるとは。


「じゃあ、ゼインのスキルで取り除けば!」

「無茶言うな。この規模の毒素なんて取り除くのは無理だ」


ログの無邪気な提案を却下するゼイン。

湖を見渡しても生き物が見当たらない。魔物達もこの水を嫌って別の水域に移動しているのかもしれない。


「まず綺麗な水を用意して欲しいです」


ゼインはスオナに告げると彼女は頷いた。


「手配します」

「俺はもう少しこの水を調べてみます」


スオナは走って村の入口に向かう。

この村には汚染された水しかない。

清潔な水は他の場所から持ち運ぶ必要はある。だが、騎士団ならば問題なく手配できるだろう。


さて、あとはこちらの仕事をやり遂げなければ。

清潔な水を手に入れたとしても、体内に蓄積した毒素は取り除く必要がある。

毒素の無効化は一度もしたことはない。

読み漁ってきた本にも載っていなかったし、対処法が分からない。

どうやって毒素を無害化するか…。

どちらにしろ分析は必要だ。分析しているうちに何か分かるかもしれない。

ゼインは水に両手を入れて目を瞑る。

太陽が空の真上に移る。

シリルは日向ぼっこしながら眠っている。ログは地面に何かの絵を描いていた。

太陽が水平線に沈む頃、ゼインはふらふらと立ち上がる。


「何か分かった?」

「…いや、全然分かんなかった」


落胆するゼインに同調したように落ち込むログ。

毒素自体かなり少量で、そのうえ水の中で分散している。水を凝縮して毒素を集めない限り、分析するのは難しい。

スキルを使いすぎたから頭が痛い。

村に戻ると、大きな樽がちょうど二つ搬入されていた。

夜を待たずして届いたのか。思っていたより早い。さすが王都の騎士団と言うべきか。

兵士らに指示を出していたスオナがゼインのもとにやってくる。


「どうでしたか?」

「それが…」


正直に結果を伝えるゼイン。

スオナは考え込むように顎に手を置く。


「水自体に特徴はありませんでしたか?」

「うーん、水は少し淀んだ池にあるような感じ、ってことくらいしか…」

「それなら藻毒かもしれません。もしそうなら活性炭を使えば毒素を排出できます」

「活性炭?」

「炭で体内の毒素を吸収するんです。ヤケギという木にゲコルの粘液を付けて燃やすと液体になります。それを飲めば毒素を吸収して、体外に出すことができると思います」


スオナは傍にある木に手を置く。


「ヤケギはここら一帯が群生地のようなので問題ないですが、ゲコルは探さないといけないですね」

「ゲコルなら見ました!湖の近くで!」


ログが食い気味に叫ぶと、そのまま走り出した。


「こっちです!」


ログの後を追いかけ、湖の近くまで戻る。

草むらを掻き分けて探していると、ゲコルが二匹いた。

一匹には逃げられたが、もう一匹はどうにか捕まえることができた。

ゼインのスキルで粘液を分離させると、切り倒したヤケギにゲコルの粘液を塗る。

そしてヤケギを燃やすと、スオナの言った通り黒い液状体へと変わった。

それを他の地域から取り寄せた清潔な水と共に活性炭を数人の村人達に飲ませた。

数時間後、一人が目を覚ました。

残りの人にも同じ処置をすると、次々と目を覚まし、翌朝までに全員が意識を取り戻した。

スオナが情報屋を呼び出し、他の地域にも同様の処置をするように伝えてもらった。


「よかったですね」

「ええ、本当に。少しずつ食事も取っています。身体に後遺症がある人もいなさそうです。ゼインのおかげです。ありがとうございました」

「いや、スオナさんがいなかったら、毒の種類とか分からなかったわけだし」

「二人のおかげですね!」


ログは嬉しそうに言った。

ゼインとスオナはつられて照れくさそうに笑う。


「でも、どうして毒素が水の中に含まれていたんでしょうか」


ゼインはふと疑問を口にする。

ここは湖であり、澄んだ水が循環している。

藻毒の発生条件である、淀んだ池の水とは一致しない。


「あの湖は近くの山頂にある大きな湖から流れてきた水が滞留する場所です。この村もメイザードの方もその山からきた水を生活水として使っているはずです」


つまり、その山に何か異変が起きているということか。その原因を解消しない限り、この村の住人はここに戻ってこれない。


「ただ、あそこはロムレスとタオウの国境沿いにある場所なので、今調査に人を向かわせるのはレイム様に判断を仰がないと…」


ゼインとスオナを割って入るように空間から情報屋が飛び出してきた。


「ババーン!!呼ばれて飛び出て、いざ来たれ!情報屋のヒロトだよ!」

「だ、誰?」

「情報屋だってさ」

「レイムさんから伝言だよ!調査は時期を見て行う。今は村人達を王都に護送してほしいって」


いつの間にかレイムにも報告をしていたようだ。

戦争を控えている今、タオウを刺激するようなことは避けたいということだろう。

翌日、回復した村人達を補給物資を届けに来たホスブラの馬車に乗せ、王都へ向かった。


「シリルの言った通りにニャったニャ?」


ゼインの隣でシリルが得意気に囁く。

シリルがゼインに告げたことを思い出す。否定するほどの言葉は思いつかなかった。

確かに自分にはない話や経験を得ることはできた。


「お礼におやつ欲しいニャ」


おねだりするシリルの前にゲコルを取り出すゼイン。

予想外のおやつに、シリルは毛が波打つように身震いさせる。


「ギニャーー!!」

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