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ゼインは調合したい  作者: トウカ
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第15話 罰 (1)

地底湖から上がろうとしたとき、ログが手を差し出してきた。

ゼインはその手を取り、地上にあがると、水を含んだ服を絞る。


「ログのスキルのおかげで助かった」

「…役に立てて良かった」


ログは動かなくなったベオロクを見て、青ざめ始める。


「あ、あの、ベオロク様死んでないよね?」

「え、殺したけど?」

「気絶してるだけだよね?」

「いや、死んでるけど」


呆然とするログ。

行ったことの重大さを今さら理解したようだ。


「ど、ど、どうしよう…」

「なるようになるだろ、ほら行くぞ」


ゼインとログは地底湖を離れる。

出口を抜けた先で、冷えた身体を太陽光が暖かく迎え入れてくれた。

ゼイン達の行く手を阻むように村人達が集まっていた。

ブレイジスが呼んだのだろう。二十人はいそうだ。

ややこしくなる前に立ち去った方がいい。

ゼインはログの背中を押す。


「わっ!」


転びそうになったログを盾にゼインは森の方へ向かう。


「逃げたぞ!追え!」


ブレイジスの号令のもと、三人追いかけてきたが問題ない。

こちとら昔から森を庭のように駆け巡ってきたのだ。

ゼインは木の枝に飛び乗ると、木から木へ移動する。



村人の中に両親の姿があった。

久しぶりに会えたことに嬉しさが溢れる。


「パパ!ママ!」


両親のもとに走り寄ると、母はログを突き飛ばす。


「こっちに来ないで!」


そう冷たく言い放つ母。

彼女から優しい母の面影は消えていた。


「何のためにあなたを育てたと思ってるの!?毎日毎日泣いてばかりのあなたを慰めてきたのに…こんなことになるなんて!」

「全くだ!この日を何年待ったと思ってるんだ!金まで出して、ようやく候補者に選んでもらったんだぞ!」

「だ、だって、試練なんか受からなくていいって、また三人で暮らしたいって…」


ログは絞り出すような震えた声で言った。


「そんなの守護者に選ばれてもらうために言ったに決まってるだろ!」

「守護者に選ばれてさえくれていれば、良い暮らしができたのに!守護者にならないなら、こんな子どもいらなかった!」


崖から突き落とされたような衝撃が脳天に突き刺さる。

怒りに満ちた両親からの言葉にログの心は打ち砕かれた。

本当に悲しいときは涙なんて出ないんだ。

両親は僕のことなんて見てなかった。

僕じゃなくても良かったんだ。

守護者に選ばれさえすれば誰でも良かったんだ。

僕は…愛されてなんかいなかった。


「ログ」


村長であるジャルトンが一歩前に出る。

いつもの優しい笑顔はなく、厳しい表情を浮かべていた。


「何をしたか分かっておるな?」


ログはうなだれ、受け答えができる状態ではなかった。


「ログを連れて行け」


ジャルトンがブレイジスに命じた。

放心状態のログの手首を縛り、軽々と持ち上げた。



追手の声が聞こえなくなったので、樹上の枝に立ち止まるゼイン。

一旦ここで身を隠すか。

落ち着いてから、雷魔剣とポーチを探しに行かないと。

木の幹にもたれかかり、目を瞑る。

すると、下の方から慌ただしい声が聞こえてきた。


「ログがベオロク様を殺したらしい」


ここはノートン村までの通り道に近い場所だったようだ。

だが、音を立てなければ居場所が気づかれることはないだろう。

ゼインはそのまま村の女達の会話に耳を澄ました。


「もう一人子どもがいたらしいが、どこかに逃げたんだって」

「ログはどうなるんだ?」

「これから処刑されるらしいよ」

「気の毒に…」

「何言ってんのさ。守り神を殺したんだよ。当然のことさ。これから村がどうなるか分かんかいよ。村から出ることも考えないと…」


女達は村の方へと歩いていった。

ゼインは目を開け、揺れ動く葉を眺める。

ログのことだ。罰をそのまま受け入れるのだろう。

ベオロクと対峙したときから、こうなることは薄々感じていた。

神として祀られている魔物を倒せば、相応の処罰が科されるのは当然だ。

ほんの七日一緒に過ごしただけだ。

危険を冒してまで助けに行く必要はない。

あいつはそういう運命だったんだ。

それにログの処刑が行われるなら、人はそちらに集まるはずだ。

手荷物を探すにはちょうどいいか。

ゼインは周りに誰もいないことを確認すると、村の方まで移動する。

村にある小屋の窓を順に覗いていく。

五軒目で物置小屋を見つける。そこには雷魔剣とポーチが置かれていた。中は無人のようだ。

しかも運が良いことに窓は施錠されていなかった。

音を立てないように中に忍び込む。

ポーチの中身は全て無事だった。テオスの欠片もある。


「おい!」


ゼインはビクッと身体を震わせる。

忍び込んだのがバレたか。

雷魔剣に手を掛けたとき、男の声が続く。


「処刑が始まるぞ!急げ!」

「分かってるよ!」


男達はゼインに気づくことなく走り去って行った。どうやら村の中央に向かったようだ。

ゼインはこの隙に小屋から出ると、男達とは反対方向に走った。


夜空が村を包み込む頃、中央広場では組まれた薪に火が点けられる。

焚き火の前に絞首台が設置され、そこにログが一人立っていた。

村中の人々からの憎悪を全身に浴びる。


「皆の者、我がノートン村の歴史上で最大の禁忌が侵された。ベオロク様へのせめてもの弔いとして、かの者の命を差し出すこととする」


ログの首に縄が掛けられる。

観衆の中に両親の憎しみに満ちた表情を見つけると、思わず目を逸らした。

彼らに見放されたログに、生きる気力はもうなかった。

巻き込まれたゼインが無事に逃げれているといいな。

そう心の中で祈り、ログは台から足を踏み外した。

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