表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼインは調合したい  作者: トウカ
14/15

第14話 ベオロク

「くそっ、こんなことばっかりだな」


巨大なクラーケンを前に、ゼインは以前遭遇したリザードのことを思い出す。

だが、あのときとは状況が違う。

武器も調合薬もない。それに、ログに戦闘は期待できない。

苦境の連続にゼインは笑うしかない。


「待ちくたびれたぞ」


巨大な脚を四方に動かしながら、クラーケンは言った。

言葉を話せるのか。そんな魔物は初めて見た。


「ふむ、なかなか美味そうな匂いだ。歓迎しよう。よくここまで辿り着いたな」


何だ?

まるで俺達がここに来るのを分かっていたような口振りだ。


「お前、俺達のことを知っているのか?」

「当然だ、わしはベオロク。この地域一帯のことは把握しておる」


こいつがログが言っていた神として崇められている魔物なのか。

クラーケンだとは思わなかったが、言葉が通じるのは大きい。

交渉の余地はまだ残っている。


「俺達はここから出たいんだ。出口を知っているなら教えてくれないか?」

「構わんよ。そこの道を行けば、村の裏手に出るはずだ」


やけに親切だ。

まさか見逃がしてくれるのか?


「あの、もしかして、今までの試練を受けた人もここに来たのですか?」


ログがベオロクに問いかける。


「ああ、皆ここに辿り着いておる」


やはりここは試練を受けた人が辿り着く場所だったのか。

それなら何故ここにベオロクがいるんだ?

あの部屋に居続けても、俺達みたいに脱出を試みても同じ場所に来ることになるのか。

いや、待てよ。

ログによると、村に戻ってきたゲイラは真面目だった。

つまり、指示通り部屋に残ったままであれば村に戻れた?

脱出を試みようとした人だけがここに来る。

そして、その人間は村に戻ってきていない。


「じゃ、じゃあ、クラシア姉さんは…」


期待の眼差しをベオロクに向けるログ。


「クラシア?おぉ、以前来た娘か。あやつは大変美味だったな」

「え…」


ログの目からは一筋の涙が流れる。

やはりそうだ。

逃げ出そうとした人間をベオロクが食べているんだ。

これだけの大きさになるまで、どれだけの子どもを食べたんだ。


「下衆野郎が…」


ゼインはベオロクを睨みつけながら呟く。


「何を言うのか。おぬしらの村を守る代わりに生命力の高い子どもを捧げる契約だろう」

「生命力の高い子どもだと?」

「強い精神力を持ち、知力と体力のある子どもはとても美味い。村の者が試練の間を使うようになってからはエサの味が安定してきた。実に素晴らしい仕組みだ」


やはり洞窟の入口を見つけさせたのも、栄養を蓄えた俺達がここに来るように仕向けたのも、全て村の奴らの思惑通りだったということか。


「さあ、そろそろいいだろう。わしの腹を満たしてもらおうか」

「誰がお前なんかのエサになるかよ!」


ゼインは両手の間に電気を作り出す。

クラーケンは脚をゼインに叩きつける。

瞬間、その脚に電気を浴びせた。

水に濡れていたこともあり、簡単に脚を寸断できた。

これならベオロクを倒せるかもしれない。

そう思ったとき、その切り口と切断された脚から小さな泡が吹き始めると、磁石のように引き戻される。

癒着した箇所は傷一つなくなっていた。

なんだ?これがこいつの能力なのか?

この強さがあれば、そこらの魔物がこの地域から離れるのも頷ける。

クラーケン自体は水中にいる。全身に電気を浴びせれば倒すこともできるだろう。

だが、ゼインが作り出しているものは静電気を何度も起こしているにすぎない。

雷魔剣がないと、そのパワーは半減してしまう。

ゼインはもう一度脚を切断すると、切った脚の方にペタペタと触れる。

この感触はスライムとも違う。形を持った水のような感覚に近かった。

気になる。ベオロクはどうやって動いているのか。

脚がまた元の形に戻ろうとする。

これ以上は無理か。

別の脚が振り下ろされたので、ベオロクから距離を取る。


「無駄だ。わしはその程度で倒せはせん」


それから何度切断しても元に戻る。キリがなかった。

だが、魔物である以上必ず核があるはずだ。

普通のクラーケンなら頭に核がある。

どうにかそこまでいければ倒しきれる。

ゼインはベオロクの攻撃のタイミングで脚に飛び乗る。

そのまま体の方に駆け上がる。

ベオロクはゼインを振り払おうと脚を前後に大きく動かす。

脚にしがみついたが湿った表面に耐えきれず滑ってしまう。


「うわ!」


だが、運良く頭付近に吹き飛ばされた。

今だ。

ゼインは両手をベオロクにつけ、勢いよく放電させる。

爆発の衝撃で地面まで飛ばされるゼイン。

やったか?

手応えは結構良かった。

しかし、煙が晴れた先にいたのは無傷のベオロクだった。

あれでもダメなのか。

まさかあいつに核は存在しないのか?

そうであれば勝ち目がない。

どうする?

ベオロクからの攻撃を避けながら、打ち崩す策がないか頭を巡らせる。

そのとき、ふと岩陰に隠れるログが目に入った。

そういえばベオロクはログの方には全く攻撃をしていない。

そうか、ベオロクは目があまり良くないんだ。

ゼインは落ちていた石を投げ飛ばすと、地面に落ちた音に反応したベオロクが攻撃する。

間違いない。音がする方向に攻撃をしてくるのか。

だが、それが分かったところで奴は倒せない。

核を早く見つける必要がある。それを見つけるのは俺じゃない。


「ログ、お前はそこから動くな。ベオロクを観察しろ!」

「で、でも…何を…」

「どこかに絶対核があるはずなんだ!お前ならやれる!」


ゼインはベオロクからの攻撃をかいくぐりながら叫ぶ。


「もう諦めろ。お前達にわしは倒せない。核なぞわしには存在しないのだからな」


ログはじっとベオロクの姿を見つめる。

何本もの脚を縦横無尽に動かし続けている。

ゼインはどうにか避け続けているが、息がかなり荒い。

分からない。早く探さなきゃ。このままだとゼインが危ない。

焦れば焦るほど、どこを見たらいいか分からなくなる。


「余計なこと考えるな!見ることに集中しろ!」


見透かしたようにゼインが言った。

そうだ。

今は『見る』ことがゼインを助けることに繋がるんだ。

ログはベオロクの頭、顔、脚の順に観察する。

すると、あることに気がついた。


「あ…脚が一本ないです!」


クラーケンの脚は十本ある。

さっき頭に放電したときに核を脚に移動させたのか。

これだけの脚を動かしているなら一本隠しても分からないと踏んだのだろう。

ログのスキルを知らなかったのが奴の誤算だ。


「ログ、その辺を走り回れ!」

「え、え?」


疑問を感じながらも、咄嗟にログは走り出す。


「そのまま逃げてろ!」

「えぇー!?」


ベオロクの標的がログに移ったのを確認すると、ゼインは落ちている岩の破片を拾い、水中に飛び込む。

予想通り、水の中には脚が一本隠されていた。

脚先の部分が地上で触った感触と違っていた。

ここだ!

ゼインは核に向かって、破片を突き刺す。

すると、ベオロクは苦しみ、もがき始める。

激しい水流をどうにかかいくぐり地上まで泳ぐ。

水の上から顔を出した頃には、ベオロクは水に浮かんだまま動かなくなっていた。


「何が起こっている…」


地底湖の様子を確認しに来た男がその場に立ち尽くしていた。


「ブレイジスさん!」

「ログがやったのか?急いで村の皆に伝えないと…」


駆け寄るログには目もくれず、ブレイジスは慌てて道を引き返していった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ