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ゼインは調合したい  作者: トウカ
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第12話 突破口

ゼインは他に入口に使えそうな場所がないか調べるが、そんな場所は見当たらなかった。

鉄格子もしっかりとはめ込まれているし、手洗い場には窓がない。

何の打開策が思いつかないまま四日が経過した。


いつもの男が朝飯を運んできた。

パンケーキにバターが乗っており、香ばしい匂いが漂ってきた。

口いっぱいに頬張りながら、ゼインはログに尋ねる。


「そういえば守護者に選ばれなかった奴もいるって言ってたよな?」

「うん、ゲイラさんは試練を受けたけど、昔選ばれなかったって聞いた」

「その人の特徴とか何か分からないか?」


ログとゲイラは家も遠く、あまり関わったことがない。

眼鏡を掛けていて、髪型も七三分けしてる、くらいしか覚えていなかった。


「特徴って言われても…真面目で良い人くらいしか…」

「それじゃあ参考にならん」

「…ごめん」

「どうしたら守護者にならないかとかは言ってなかったのか?」

「試練のことは他の人に話しちゃいけないって言われてるから」

「そりゃあそうか。そいつのやり方を皆真似するもんな。そういや、そいつが生け贄にならなかったときどうしたんだ?誰も差し出さないわけにはいかないんだろ?」


ログは食べる手を止めると視線を下げる。


「クラシア姉さんが…」

「…ログの姉さんが試練を受けたのか?」

「ううん、実の姉さんじゃないんだけど、家が近くだったから、色々仲良くしてくれてて。クラシア姉さんはいつも勇敢で、いつもいじめっ子達から僕を助けてくれた人で…」


ログの目には涙が浮かんでいた。

悲しい思い出が脳裏に蘇る。



六年前。

泣きじゃくるログの頭を優しく撫でるクラシア。


「どうして…どうして、クラシア姉さんなの?」

「ログ、しょうがないの。これは誰かがやらないといけないことだから」

「でも、でも…」


クラシアはログを抱きしめる。

そのとき、彼女の身体が震えていたのが分かった。


「ログ、私も絶対帰ってくるわ。だから、それまで泣かないで頑張れる?」


涙を堪えながら呟くクラシア。

ログはクラシアの身体をぎゅっと抱きしめる。


「僕、頑張るよ。もう泣かない。いじめっ子にも負けない。クラシア姉さんがびっくりするほど強くなるよ」

「…ありがとう。帰って来る楽しみができたよ」


クラシアはログから離れると、試練の間に向かった。


「ログ、またね!」


涙を堪えながら笑う彼女はどこまでも格好よかった。

クラシア姉さんが試練を受けている間、いじめっ子達に負けじと反抗したり、苦手だった野菜も我慢して食べたりして、クラシア姉さんに負けないように頑張った。

でも、クラシア姉さんは帰ってこなかった。

大好きなクラシア姉さんがいなくなったのに、大人達はこれで平和になると喜びあっていた。

大雨に濡れながら、ログは大粒の涙を流した。



「なんか嫌なこと思い出させたみたいだな」


ログは零れそうになった涙を拭う。


「ううん、僕もクラシア姉さんみたいに強くなるんだ」


勢いよくパンケーキを食べるログ。

クラシアの死を乗り越えたログは充分に強くみえた。

自分はどうだろう、とゼインは自身に問いかける。

研究をしている間は、あの夜のことを忘れられた。

でも、普段こうして小屋の中で過ごしていると、セイラが外から戻って来るんじゃないか。

ノルシおばさんがまたお裾分けに来てくれるんじゃないか、そんなことを思ってしまう。

まだ俺は過去に囚われている。

いつか俺もログのように強くなれるだろうか。

食事を終えた頃、トレーを回収しに男がやってくる。

男にトレーを手渡すと、扉の向こう側で別の男の声がした。


「ブレイジス、試練は順調か?」

「ああ、去年みたいに逃げられるのは困るからな」


蓋が閉まる前、確かにそう聞こえた。

ゼインとログは目を合わせる。

逃げられる?この小屋から?

どこかに逃げ道があるのか?

部屋の中は散々探したがそんな場所は見当たらなかった。

他に探してない所なんて…そのとき、ゼインは気づく。


「ログ、机と椅子をどかすんだ!」

「え、なんで…」

「いいから早く!」


二人で家具の配置をずらす。

そして、ゼインはカーペットを持ち上げる。

そこには床に嵌められた木板があった。


「ゼイン、これって…」


ゼインは木板を持ち上げる。

そこには地下へと続く洞窟が続いており、その壁を這うように梯子が下りていた。

この道は最近できたわけではなさそうだ。

恐らくかなり前に試練を受けた人達が用意した逃げ道なのだろう。


「たぶんこれは地下に続いてるんだ!もしかしたら、ここから逃げれるかもしれないぞ!」


ゼインとログは期待に胸を膨らませる。

早速慎重に梯子をつたって降り始める。

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