第12話 突破口
ゼインは他に入口に使えそうな場所がないか調べるが、そんな場所は見当たらなかった。
鉄格子もしっかりとはめ込まれているし、手洗い場には窓がない。
何の打開策が思いつかないまま四日が経過した。
いつもの男が朝飯を運んできた。
パンケーキにバターが乗っており、香ばしい匂いが漂ってきた。
口いっぱいに頬張りながら、ゼインはログに尋ねる。
「そういえば守護者に選ばれなかった奴もいるって言ってたよな?」
「うん、ゲイラさんは試練を受けたけど、昔選ばれなかったって聞いた」
「その人の特徴とか何か分からないか?」
ログとゲイラは家も遠く、あまり関わったことがない。
眼鏡を掛けていて、髪型も七三分けしてる、くらいしか覚えていなかった。
「特徴って言われても…真面目で良い人くらいしか…」
「それじゃあ参考にならん」
「…ごめん」
「どうしたら守護者にならないかとかは言ってなかったのか?」
「試練のことは他の人に話しちゃいけないって言われてるから」
「そりゃあそうか。そいつのやり方を皆真似するもんな。そういや、そいつが生け贄にならなかったときどうしたんだ?誰も差し出さないわけにはいかないんだろ?」
ログは食べる手を止めると視線を下げる。
「クラシア姉さんが…」
「…ログの姉さんが試練を受けたのか?」
「ううん、実の姉さんじゃないんだけど、家が近くだったから、色々仲良くしてくれてて。クラシア姉さんはいつも勇敢で、いつもいじめっ子達から僕を助けてくれた人で…」
ログの目には涙が浮かんでいた。
悲しい思い出が脳裏に蘇る。
◆
六年前。
泣きじゃくるログの頭を優しく撫でるクラシア。
「どうして…どうして、クラシア姉さんなの?」
「ログ、しょうがないの。これは誰かがやらないといけないことだから」
「でも、でも…」
クラシアはログを抱きしめる。
そのとき、彼女の身体が震えていたのが分かった。
「ログ、私も絶対帰ってくるわ。だから、それまで泣かないで頑張れる?」
涙を堪えながら呟くクラシア。
ログはクラシアの身体をぎゅっと抱きしめる。
「僕、頑張るよ。もう泣かない。いじめっ子にも負けない。クラシア姉さんがびっくりするほど強くなるよ」
「…ありがとう。帰って来る楽しみができたよ」
クラシアはログから離れると、試練の間に向かった。
「ログ、またね!」
涙を堪えながら笑う彼女はどこまでも格好よかった。
クラシア姉さんが試練を受けている間、いじめっ子達に負けじと反抗したり、苦手だった野菜も我慢して食べたりして、クラシア姉さんに負けないように頑張った。
でも、クラシア姉さんは帰ってこなかった。
大好きなクラシア姉さんがいなくなったのに、大人達はこれで平和になると喜びあっていた。
大雨に濡れながら、ログは大粒の涙を流した。
◆
「なんか嫌なこと思い出させたみたいだな」
ログは零れそうになった涙を拭う。
「ううん、僕もクラシア姉さんみたいに強くなるんだ」
勢いよくパンケーキを食べるログ。
クラシアの死を乗り越えたログは充分に強くみえた。
自分はどうだろう、とゼインは自身に問いかける。
研究をしている間は、あの夜のことを忘れられた。
でも、普段こうして小屋の中で過ごしていると、セイラが外から戻って来るんじゃないか。
ノルシおばさんがまたお裾分けに来てくれるんじゃないか、そんなことを思ってしまう。
まだ俺は過去に囚われている。
いつか俺もログのように強くなれるだろうか。
食事を終えた頃、トレーを回収しに男がやってくる。
男にトレーを手渡すと、扉の向こう側で別の男の声がした。
「ブレイジス、試練は順調か?」
「ああ、去年みたいに逃げられるのは困るからな」
蓋が閉まる前、確かにそう聞こえた。
ゼインとログは目を合わせる。
逃げられる?この小屋から?
どこかに逃げ道があるのか?
部屋の中は散々探したがそんな場所は見当たらなかった。
他に探してない所なんて…そのとき、ゼインは気づく。
「ログ、机と椅子をどかすんだ!」
「え、なんで…」
「いいから早く!」
二人で家具の配置をずらす。
そして、ゼインはカーペットを持ち上げる。
そこには床に嵌められた木板があった。
「ゼイン、これって…」
ゼインは木板を持ち上げる。
そこには地下へと続く洞窟が続いており、その壁を這うように梯子が下りていた。
この道は最近できたわけではなさそうだ。
恐らくかなり前に試練を受けた人達が用意した逃げ道なのだろう。
「たぶんこれは地下に続いてるんだ!もしかしたら、ここから逃げれるかもしれないぞ!」
ゼインとログは期待に胸を膨らませる。
早速慎重に梯子をつたって降り始める。