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ゼインは調合したい  作者: トウカ
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第11話 脱出方法

出口は重厚な扉のみ。扉は鍵を使う以外には開けられなさそうだ。

窓は鉄格子がはめられていて抜け出せない。

現時点で有力な脱出方法はなかった。


「僕も逃げる方法探してるんだけど、どこにも抜け道がないんだ」

「ないなら作るだけさ」


(うつむ)くログに対し、ゼインは楽しそうに笑う。

まず小屋の中にある物をかき集めた。

カレンダー、壁時計、ノート、鉛筆、歯ブラシ、コップ、ティッシュ、トイレットペーパー。

部屋の中には必要最低限の物しか置いていないようだ。


「これで何かできるの?」


思った以上に使える物がない。

ログに大見得(おおみえ)を切ったものの、これだけでは脱出をするのは難しい。


「なあ、鍵の形とか覚えてないか?」

「覚えてるよ」

「え」


ログはノートに迷いなく描き始める。

間もなくして出来上がった絵は想像以上に正確だった。

持ち手の細工や鍵の形まで細かく描かれている。


「凄いな。よくここまで覚えてたな」

「うん、僕記憶力には自信があるんだ。意識して物を見ると、何でも覚えられる」


ログの言葉が少し引っかかった。

ゼインはノートにリザードの爪の分析結果を書くと、ログに一瞬見せる。


「リザードの分析結果を言えるか?」

「ご、ごめん、意識してなかったから…」

「いいか、次は意識して見ろ」

「うん」


ゼインはまた一瞬そのページをログに見せる。

髪の隙間から見える大きな瞳で、その内容を捉えた。


「リザードの鱗の分析結果は?」


ログは目を閉じ、ページの内容を思い起こす。


「『岩に近い物質構成。水には溶け込みにくい。汎用性はない。素材の組み合わせは木の実から試していく』かな」


一言一句合っていた。

やはりログはスキルを持っている。しかも、それを無意識に使っているんだ。

『記録する』というスキル自体が脱出に直結するわけではないが、使える場面がいつかくるかもしれない。


「ログ、お前はスキルを持ってる。それも無意識のうちに使ってる」

「スキル?僕が?」

「ああ、今のは記憶力が良いで片付けられるレベルじゃない。スキルを使っていると考えた方が妥当だ」


ログは両手をじっと見る。


「僕にスキルが…」


ログのスキルを深掘りする前にまずは試すことがある。

ゼインは時計を分解し、長針と短針を取り出す。

それぞれ針の先にスキルを使う。

物質同士の結合を緩め、簡単に折り曲げられるようになった。


「それ、どうするの?」

「見た感じ、シンプルな鍵みたいだから、これで開くかなと思って」

「あ、でも…」


ゼインは鍵穴にそれぞれの針を差す。何度か針を動かすと、カチャッと音を立てた。


「よしっ!」

「凄い!開いたの!?」

「ああ、これで外に出られるぞ」


だが、ドアノブを回しても扉が開かない。

というより、開いているはずの扉が押せなかった。

よく見ると、扉の上部に南京錠が掛けられていた。


「おい!何をしている!」


見張りの男が扉を開けたゼインを咎める。


「中で大人しくしていろ!」


男は再び扉に鍵を掛けた。


「くそっ、そう簡単にはいかないか…」

「ここはずっと外に見張りの人がいるんだ」

「それはもっと早く言ってくれよ」

「ごめん…」


入口には二つの鍵。

一つはどうにかできても、南京錠の方をどうにかするのは難しい。

つけられている位置も高いし、ちゃんとした鍵を差し込まないと開かないタイプだ。

そもそも外に見張りがいるなら、入口からの脱出は諦めるしかないか。

どうすべきかと考えていると、ログが不安そうな顔が目に入る。


「まず村のことが知りたい。話に付き合ってもらうぞ」

「う、うん」


選別の部屋の見張りがいなくなることはないらしい。今まで試練の最中に見張りが途切れたことはなかったという。

他に配膳が一日三回あるらしいが、扉は開かれることはなく、内側にある蓋が開いて、そこから配給されるらしい。

これも逃走防止のための措置だろう。

加えて、ゼインはこの風習について尋ねた。

ノートン村は昔、移動民族が安住の地を求めて辿り着いたのが始まりだったらしい。

土壌が良いため作物も育ちやすく、一年通して森の中で木の実が採れるから、ここを終着点としたのだろう。

だが、人間が集まる場所には当然魔物が寄ってくる。

対抗する手段を持っていなかった民族は三分の一近くが命を落とした。

そんなときベオロクが契約を持ち掛けたらしい。

契約の内容はこの村を守る代わりに毎年子どもを一人差し出すというもので、契約を破った場合は、ベオロクが村人全員を食らい尽くすというものだった。

魔物との契約に反対する者もいたが、ベオロクの力に怯え、魔物達が現れなくなったそうだ。

毎年一人の生け贄で済むならと疲弊していた村人は契約を交わしたそうだ。

ベオロク自身は普段村のどこかに身を隠していて、ログもその姿は見たことがないらしい。

色々な話を聞いたが、脱出のヒントになりそうなものはなかった。

下を向いてばかりのログにゼインは提案する。


「ログはまずスキルを意識して使えるようになれ。俺はその間に脱出方法を考える」

「…うん!」


ログはゼインが書いた数字の羅列をひたすら覚えて、同じ紙に書いた。

何度か繰り返していると、目が痛くなってきた。

様子に気づいたゼインが声を掛ける。


「スキルの使いすぎだな。今日はもう休め」

「うん」


夕方になると、聞いていた通り、扉の中央部分が蓋のように開いた。


「ほら、今日の飯だ」


ゼインを連れてきた男と同じ声だ。

扉の開いた口から食事と飲み物が乗ったトレーが出てくる。

トレーにはステーキ、スープ、サラダと今まで食べたことのない豪華な食事が乗っていた。

ログは普通に受け取ると、手を合わせてから食べ始める。


「お、おい!こんなに豪華な食事なのか!?」

「うん、だって村の平穏がかかってるわけだし。最初は僕も驚いたけど」


こんなに豪華な食事が続くなら、もう暫くここにいてもいいかと悪魔の囁きが頭にちらつく。

頭を横に振り、考えを改める。

この食事はベオロクの養分にするために違いない。

早く脱出方法を考えなければ…。

しかし、気づいたら柔らかい布団に包まれ、ぐっすりと眠ってしまった。



「もう朝じゃん!」


開口一番、ゼインは叫ぶ。


「あ、ゼイン、おはよう」


ログは呑気に歯を磨いている。

昨日髪を洗ったときには、ストレートヘアだったのに、もうボサボサの頭になっている。

どんな寝相をしているのか。

そんなことよりも今日こそ突破口を見つけなければ。

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