スーパースター転生
俺は世界一レコードを売り上げたスーパースターだそうだ。
そんなことは転生してから知り、『そうだったのか!』と有頂天になったのだが。
誰でもが転生前の俺のことを知っている。
1960年代半ばに徴兵を受け、あの戦争に駆り出され、戦場で便秘で死亡し、伝説のロックンロール・スターとして崇められている。
若いやつの中にも「やっぱりエルヴィー・プレーリー・ドッグこそ最高だ」と言ってくれる者が多い。
確かに死ぬ前から超絶人気のスターではあったが、ここまでになっているとは知らなかった。死んでから目覚めるまでは一瞬だったが、タイムスリップしたように時間が40年以上進んでいた。
そんな俺だから、もちろん今世でもスーパースターになろうと思った。
これは使命だろう。一世を風靡するほどのスターを時代が待ち望んでいる。
幸い、俺は容姿も声も、前世のままとは違うものの、その才能は引き継いでいた。
親につけてもらった名前は平凡な『トム・スミス』だったが、俺は『エルヴィー・プレーリー・ドッグ2世』の芸名でデビューした。
曲も歌詞も自分で書いた。60年代風の曲を、今風の音質で録音したものを発表した。
腰をくねらせて踊りながらギターを弾き、甘いマスクにぶっといもみあげをセクシーに見せつけながら、世界に俺を発表した。
世界よ、震撼しろ!
あの伝説のスーパースター、エルヴィー・プレーリー・ドッグが帰ってきたぜ!
俺のミュージック・ビデオを観たやつらは、口々にコメントした。
「カビくさい」
「何これ。プレーリーの劣化版?」
「物真似かよ」
「やっぱり本物のエルヴィー・プレーリー・ドッグこそ最高だ」
俺だよ、俺……。
気づけよ! 俺、本物だよ!
打ちひしがれてバーで飲んだくれている俺の肩を、後ろからぽんと叩くやつがいた。
「やぁ、プレーリー」
「……君は?」
東洋人だった。中国人かな?
華奢な体つきだがオーラが半端ない。とても強そうな男だ。
「俺は『プルー・スリー』、伝説のアクション・スターの転生した姿さ」
彼は新作アクション映画でやられ役のモブを務めているらしかった。