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替え玉令嬢と子猫王子のハッピーな政略結婚  作者: 一ノ谷鈴
第1章 妻は替え玉、夫は獣人
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2.夫婦最初の共同作業

「決闘を、申し込みます!」


 人間族を、女をさげすむ発言を堂々と口にしたギルディス様。初対面だというのに面と向かってそんなことを言われてしまって、どうにも我慢ができなかった。


 普段は、淑女らしく冷静であろうと心がけている。でもここで引き下がったら、女がすたる。


 というか、私のことをそこらの令嬢、頭がからっぽでなよなよと泣き崩れることしかできない女性たちと一緒にされたことに、腹が立ってもいた。


 ともかく、私たちは顔合わせもそこそこに、城の一角にある鍛錬場に移動した。ギルディス様はそのままの格好で、私は動きやすいシャツとズボン、それにブーツに着替えて。


 ……あの花嫁衣裳、もうちょっとじっくり見てほしかったんだけどな、可愛かったから。


 そうして向かい合って立ち、ルールをすり合わせていく。まさか夫婦の最初の共同作業が、決闘なんて物騒なものになるなんて思いもしなかった。言い出したのは私だけれど。


「武器の使用は認められますよね?」


「ああ。好きにしろ。俺のほうが強いから、そちらは真剣でも構わない」


「あら、ではギルディス様は何を?」


 ちょっとかちんときて上品に尋ねたら、彼は余裕の笑みで応えてきた。


「俺はこちらの木剣だ。刃がついていなくとも十分に危険なしろものだから、せいぜい頑張ってよけてくれ」


 どこか楽しそうに彼が手にしたのは、普通の木剣の倍は太い、木剣というより細めの丸太のようなものだった。


 え、あれを振り回すの? ギルディス様、思っていた以上に背が高かったし、体格もかなりいいけれど……でもあれはさすがに……。


「おじけづいたか、マナ。今ならまだ、降参させてやるが」


「お気づかいありがとうございます。ですが、どうにかして攻略してみせますので」


「ほう? 言ったな」


 ……明らかに、ギルディス様の機嫌がよくなっている。ついさっきまで眉間にしわを寄せて、花嫁をにらみつけていたとは思えないくらいに。


 楽しげに、朗らかに笑っているギルディス様をちらりと見て、深呼吸した。


 こうやって笑顔を見せている彼は、さっきまでの彼よりもずっと魅力的だ。けれどだからと言って、先の発言を見過ごす訳にはいかない。


 どうにかして、ここで私の実力を認めさせたい。そして可能であれば、謝罪の言葉がほしい。だって私たちは、これから夫婦として過ごすことになるのだから。


「それでは、まいります」


 意識を集中すると、両手首と両足首がふわんと光った。そこには、銀色に輝く輪がはまっているのだ。繊細な模様の彫り込まれた金属の板を、いくつもつなぎ合わせたものだ。


 光はゆらゆらと揺らめきながら、私の腕と足を包みこんでいく。ひじから先と、ひざから先が、すっぽりと光に包まれた。


「……それはもしかして、魔導具か? テルミナの人間族が開発したという」


「はい。今その威力を、お目にかけましょう」


 祖国テルミナでは、魔導具と呼ばれる特殊な道具が盛んに作られている。しかし国外に持ち出されることはめったにないということもあって、ギルディス様も珍しそうに目を見張っている。


 魔導具は、それぞれに特有の効果を有する。そして強い効果を有するものほど、取り扱いが難しい。というか、人を選ぶ。職人なんかは『気難しい』と表現している。


 私が今身につけているのは、コリン公爵からいただいたものだ。


 かつて一流の職人が、持てる技術の全てを注ぎ込んで作り上げた結果、誰にも扱えない魔導具ができてしまった。


 その魔導具は長年にわたりコリン家の宝物庫で眠っていたのだが、たまたま私が起動に成功した。どうやら、私と相性がよかったらしい。


 公爵は大いに驚きつつ、魔導具を私に譲ってくれたのだ。「いつもマナを見てくれている礼だ」と言って。ありがたく受け取りつつも、ずいぶんと高い子守り代だなと、こっそりそんなことを思った。


 ……今にしてみれば、安すぎる子守り代だったなと思えなくもない。マナにかけられた苦労の数々、そして私の今の状況を思えば。


 ともかく、この両手足の輪は、私にとっては剣であり盾なのだ。両手足を包み込んでいるこの光は、魔法の障壁だ。


 多少の攻撃なら何もしなくても勝手に防いでくれるし、そのまま殴るだけでもかなりの衝撃を与えられる。


 胴体部分が守られないのが難点だけれど、そこは足さばきである程度補える。そして私は、この魔導具に合わせた戦い方をみっちりと練習してきた。コリン公爵家の兵士たちから、一通り勝ちをもぎ取ってきたし。


 ただ、今回は慎重にいこう。獣人族と手合わせをするのは初めてだから、身体能力がどれほどのものかつかめない。


 ひとまずギルディス様に駆け寄り、まっすぐにこぶしを繰り出した。


「公爵家の娘は、格闘も習うのか? ずいぶんと洗練された動きだが」


「護身術は必要ですから」


 私のこぶしを木剣であっさりと止めたギルディス様が、また面白そうに目を見張った。


「では、今度は俺のほうからいくとしようか」


 余裕たっぷりの態度で、彼は木剣をこちらに振り下ろしてくる。あれをまともにくらったら、間違いなく骨をやられる。魔法の障壁なら受け止められるけれど、衝撃もかなりのものになる。


 腰のベルトに挿していた、小ぶりの短剣をすっと抜く。刀身はとても細く、刃はない。剣というより、大きな針といったほうが正しいかもしれない。しっかり握れるように、また手を保護するために、傘のように手を覆い隠す大きなつばがついている。


 左手で短剣を構え、ギルディス様の太刀筋に目を凝らす。じっくり見て……今だ!


 短剣を突き出し、木剣の軌道をほんの少しそらす。同時に体をひねって、斬撃をすり抜けた。よし、受け流し成功。


「お覚悟!」


 そのまま流れるように、回し蹴りを繰り出す。わざと大きく足を振って、隙を作ったものだ。自分の技術を見せつけ、かつ確実に彼が受けられるようにする。


 かっとなって決闘を申し込んでおいてなんだけれど、彼は私の……マナの? 夫で、そしてミルファの王子だ。本人が乗り気だとはいえ、こんな形で怪我をさせる訳にはいかない。……まさか、彼が一切防具をつけずに決闘に挑むなんて思わなかった。


「くっ!」


 ところが私の蹴りは、ギルディス様の腰の辺りに命中してしまった。苦悶の声を上げるギルディス様に、さあっと血の気が引く。


 しかしギルディス様は、次の瞬間心底楽しそうに笑っていた。


「心配するな。これくらい慣れている。獣人族は強靭な肉体を持つからな。兄の蹴りを思い出す、素晴らしい蹴りだった」


 兄王子が弟王子に本気の蹴りをいれるって、やっぱりミルファは色々と妙なところだ。


 などと考えていたら、ギルディス様が木剣を構え直した。ほれぼれするような晴れやかな笑みを浮かべて、私に呼びかけてくる。


「俺の攻撃を受け流し、隙をついて反撃してくる……実に見事な手際だ。ここまでの動きができるようになるまで、かなりの鍛錬が必要だったのではないか?」


「はい。……ですが私は、そうやって己を高めることを、楽しんでいましたから」


「ははっ、その心構え、悪くないな」


 どうやら少しずつ認められてきたかな? と思ったそのとき、彼は目を細めて言い放った。


「それでは、次は俺の番だ。手加減はしてやるが、どうにかして防いでみろ」


 木剣を構え、にやりと笑うギルディス様。次の瞬間、彼の姿が消えた。

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