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ある日、森の中で狼になった私は赤ずきんと出会った。  作者: 海月るる
夜の森の狼と赤い頭巾の王子様
5/19

04 三人の男たち


 赤ずきんが扉を開けて外へ出た途端だった。


 私は他人の気配があるのを思い出した。森の中でずっと感じていたから、そこにあるのに気づいていながら、その動向には気にも留めていなかった。

 あの夜、森で見つけた気配の正体、三人の男が赤ずきんを家の前で待ち構えていた。


「――――」


 赤ずきんは不意を突かれて困惑の色を浮かべたが、一瞬で気持ちを切り替えたのか険しい顔になる。風見鶏を持っていたため、片手はふさがっていて、咄嗟に扉を閉めようとしたが間に合わなかった。男の一人が足をかけて、扉が閉められないように妨害したのだ。


「――――」


 ここを開けろ、とでも怒鳴ったのだろう。ピリピリと男の攻撃的な気持ちが伝わる。赤ずきんは必死で扉を押さえている。中途半端に開いている扉を男たちは剣をちらつかせて、威嚇した。


 ひどい。子供相手になんてことを。


 私は赤ずきんの頭上を飛び越えて、外へ出る。勢い余って男たちの背後へ着地すると、くるりと身を翻し、男たちに向かって威嚇の唸り声をあげた。

 私の気持ちに反応するかのように、大木にとまっていた鳥たちがいっせいに飛び立ち、森の気配がザワザワし出す。


 こいつらは敵だ。赤ずきんを守らなきゃ。

 敵、と認識したせいか、覚悟を決めたせいか、私の中でむくむくと敵意が膨らんでいった。私の敵意に反応するように私の体も大きくなって、男たちを見下ろすまでになった。


 それと同時に、男たちの顔色が変わっていく。

 赤ずきんの方を向いていた男たちが全員こちらを振り返り、それぞれに構えている手に持った剣は私に向けられていた。

 狼の私を恐れる者、対抗して身構える者、男たちの敵意と恐れが伝わってくる。


 私は大きく吠えた。

 突風が吹いたみたいに森が揺れた。


 すると一番恐怖の表情を浮かべていた男が耐えかねて、悲鳴をあげ、その場から逃げ出した。逃げる男は、仲間の非難する声を無視して森の中へ消えていく。

 一人減って二人だけになった男たちは、互いの顔を見つつうなずくと、二人して気合をふり絞った大声とともに私に剣を振りおろした。だが、恐怖からか、さっきよりもさらに足元は覚束ない。

 振り下ろされる切っ先をよけ、私は片方の男に飛びかかった。

 男は簡単に地面に転がる。


 え、こんなに弱いの?

 弱すぎる。それなのに私に刃を向けてきたなんて、笑わせてくれる。


 なんだかすごくイライラした。軽く前足で小突くとゴロゴロと草むらに転がった。

 短く悲鳴が上がって、もう一人の男も逃げ出した。


 私は草むらに転がった男の足にかみついて持ち上げた。


 どうしてやろうか。

 私たちに二度と手出ししないように頭をかみ砕いてやろうか。それとも手足をもいでやろうか。

 咥えたまま唸りながら、口元をブルブルと振るわせると男の手足がブランブランと揺れた。抵抗もする気力もないのか、すでに気を失ってしまったのか。もはやそんなことはどうでもよかった。どうやってこの獲物を仕留めるか、もう少しいたぶってやってもいいし。逃げたやつらも追いかけて――


 そこまで考えて私はハッと我に返った。


 あれ……。これって、これって人殺しでは?

 食べるためにうさぎを仕留めるのとは違う。

 人に向けて狼の力を発揮するのは、とてもまずいのではないかと、ちらりと思ってしまったら、私は怖くなって男を放り捨てた。

 気を失っていた男はそのまま地面にドサッと落ち、ぐにゃりと崩れ落ちた。


 やだ殺してしまった?


「ど、どうしよう、ひとごろしになっちゃう? やだ、ど、どうしよう」


 怖くて涙がぽろぽろと出る。私はおっかなびっくり男の様子を見ようとしたが、手足が震えてうまく動けない。地面も歩きにくい。


「大丈夫だよ。そいつは死んでない。それよりも」


 私の声じゃない。少女にしては少し低い声で子供の声がなだめるように告げた。振り返ると赤ずきんが立っていて、ふわりとシーツを広げて私を包んでくれた。

 このシーツは私が変身後に備えて使おうと企んでいたシーツだ。なんで赤ずきんが、と思いつつ包まれた自分の姿を見やると、私は裸だった。


 さっきまで狼だった私は人間の姿で立っていた。


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