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悪役令嬢VS黒ヒロインVSインクイジター【第二部連載中!】  作者: まつり369
第二部 第三章 新しい仲間と新たなストーカー

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 新学期初日に国家級犯罪者の逮捕者を四十名も出すというセンセーショナルなニュースは、瞬く間に内外に知れ渡った。


 この国(アシュトーリア)の政界を始め、各国社交界にも激震が走ったようだ。

 朝にはいたはずの生徒が、帰る頃には何人もいなくなっていた。

 授業のない初日は、自己紹介やオリエンテーションのみだ。


 リクのいる神学科のクラスでも、帰りのホームルームの終わりに担任のプラサード司祭が教室内の小ヴィジョンを一瞥しながら言った。


「……裁判の様子が学園内で中継されていますが、皆さんは早く帰るように。……返事は?」


 クラスメートたちは「はーい」と申し訳程度の返事をしたが、中には興味津々で魔導ヴィジョンを見つめている者もいる。


 プラサード司祭は溜息を吐き、教室を出て行った。

 担任が出ていった後、リクは静かにクラスを見渡して呟いた。


「……何だか、すごく人が減ったな」

「いきなり、あんなことがありましたからね……」


 恐る恐る声のトーンを抑えながら、イングリッド・リヒタールが言った。


 彼女はひょんなことで知り合った転生者で、『ヒロイン』である義妹から邪険にされているところをリクたちに助けられたのだった。


 リクたちのいる神学科のクラスは最も逮捕者が多かったが、それ以上に朝と比べて減った生徒が多いように見受けられる。


「さっき、廊下で先生方が話しているのが聞こえてしまったのですけれど、名前の呼ばれた彼女たちと親しくしていた王侯貴族の子息たちは、国に引き上げることになるような話をされていました」


「そう……」


 『魅了』の使用が発覚して逮捕された『ヒロイン』――つまり重罪人と懇意にしていたとなれば、王族にとってそれはそれは外聞が悪いことだろう。


 事の重大さを鑑みて、それぞれの本国から留学自体のストップがかかったとしても不思議ではない。

 そうなると、神学科の次に逮捕者の数が多かった貴族科でも似たような状況だろう。

 少し考えて、リクが呟いた。


「……アミが心配だ」

「それって、今朝お会いした魔法魔術科の……?」


 イングリッドは自分を庇ってくれたもうひとりの異界人、赤毛のアミのことを思い出す。

 リクはこくりと頷き、疑問に思っていたことを打ち明けた。


「おかしいと思わないか? あの状況で、逮捕者ゼロ……。言っては何だけど、異常だ」

「言われてみれば……! 魔法魔術科は誰も呼ばれていませんでしたね」

「また何か妙なものに巻き込まれなければいいけど……」

「妙なもの?」


 アミをよく知らないイングリッドは、きょとんとした。そんな彼女にどう説明してよいか、リクは一瞬逡巡して言葉をまごつかせた。


 その時だった。


「ちょっと……! 滅多なことを言わないで」


 突然席を立ち、不快感を露わにした女子生徒がいた。

 明るい金髪を左右に結い上げた、間違いなく可愛らしい容姿をした女の子だった。


「……誰?」


 編入してきたばかりのリクは、クラスメートの印象もまだ薄い。一年生からこの学園にいるイングリッドが、こっそりと耳打ちした。


「あの方は、マリアーネ・チェスターさんです。聖カレイド国ご出身の聖女ですわ」

「聖女?」


 つまり、彼女も何かの『ヒロイン』であるということだろう。


「ええ。リクさんと一緒ですね」

「一緒……?」


 うーん、とリクは唸りながら、悩む仕草をした。

 かつてリクは聖女認定式でインクイジターに邪魔されたため、聖女と認められなかったのだ。


「私はあくまで候補なだけで……」

「ふふっ。ご謙遜なさらなくても」

「いや本当に……」


 にこにこ笑うイングリッドの顔を、リクは困ったように見つめ返した。


「無視してんじゃないわよ!」


 一方、何やら苛ついた様子のマリアーネが、ずかずかと近付いて来てリクのいる机を叩いた。

 その音で周りがびくりと怯む中、マリアーネはリクに顔を近付けて小声で言った。


「魔法魔術科が逮捕者ゼロなのは、当たり前よ。あそこにはニムがいるんだもの。同じ科の子は、さすがに目が行き届いてるってわけ。ほかの科には、ニムの忠告を聞けないお馬鹿さんが多かったってこと。……ほんと、馬鹿よね」


「…………!」


 その名前を聞きもらすほど、リクはぼんやりしていなかった。




 グランルクセリア王国にいた半年前、国の検閲をスルーしてリクに手紙を送ってきた人物だ。

 そこには地球の日本語で綴ったメッセージと、漢字と平仮名で署名してあった。


 「瀬木 にむ」と。


 手紙の内容が本当なら、彼女もリクやアミと同じ転移者だ。


 リクはこの世界でミラフェイナやエクリュア姫たちのような転生者には何人も出会ったが、転移者は自分たちと瀬木にむ以外に聞いたことがなかった。それだけでも彼女に興味を持つのは充分だった。




 この時、イングリッドはリクの僅かな反応の違和感に気付いていたが、何も言わなかった。


「……まあ、私はあの子たちとは違うわよ。逮捕されるような真似なんてしないわ。裏技なんてなくても、アルフォンス様は私に優しいし♡」


 くるりとマリアーネは身を翻して、得意そうに言う。


 恋愛に疎いリクはマリアーネのマウントにしばらく気付かなかったが、見かねたイングリッドにこっそりヒントをもらった。


「……リクさん。アルフォンス様というのは、貴族科にいらっしゃるカレイド国の王子様のお名前で……、たぶんマリアーネさんが仰りたいのは……」


「うん? ……ああ、『魅了』を使っていないという意味ね」


 あっけらかんとリクが言ったひとことに、マリアーネはカチンときたのか、ぐっと拳を握ってリクの方を睨み付けた。


「ふん。何よっ。聞いたわよ、ヒロインのくせに悪役令嬢とツルんでる変人がいるって。それに、ほかのヒロインにもケチつけてるって聞いてたけど、本当だったわ。私への態度で明らかね。……それに、その子!」


 マリアーネが、不躾(ぶしつけ)にリクの隣にいるイングリッドを指差した。


「『愛レゾ』の悪役令嬢じゃない。どういうつもり?」


 その会話は、地球からの転生者や転移者でなければ意味不明な内容に違いない。リクは周囲に視線を(はし)らせ、クラスメートたちがこちらに注目していることを知った。


 マリアーネの様子を見るに、他人に聞かれても意味が分からなければ気にしないようだ。

 それより、絡まれている状況を何とかするべきだろう。リクは短い溜息を吐いてから反論した。


「友達といて何が悪い」

「友達ですって?」


 わざとらしく吹き出す素振りを見せてから、マリアーネはイングリッドを睨みながら言った。


「モブならともかく、悪役令嬢はダメよ!」

「何故?」

「何故って……アイラが困ってるじゃない。『愛レゾ』のヒロインよ」

「それは知っている。でも、イングリッドも困ってるんだ。その妹さんのことで」


 リクが何度か言い返すと、マリアーネは呆れを通り越して何か嫌なものを見るような目でリクを見た。


「……はぁ。もういいわ。あなたって、アレね。頭がどうにかしちゃってるのね」

「ここはゲームや本の中の世界じゃない。あなたたちはシナリオにとらわれすぎだ」

「リクさん……」


 気後れしたイングリッド本人が、リクを宥めようとする。しかし、遅かったようだ。


「それの何が悪いのよ? ヒロインなのよ、当然じゃない」

「何度も言わないと分からないのか。ここは作り物の世界じゃない」


 バチバチと火花を散らし始めたリクとマリアーネ。周囲のクラスメートたちは会話の意味の半分も分からなかったが、二人が本格的に決裂したらしいということだけは理解した。


 誰か止めようにも、マリアーネはカレイド国の聖女として有名だ。対するリクはグランルクセリア王国の聖女候補とはいえ、魔の森を開拓したという強力な実績を持つ人物だ。二人が争っているとして、止めに入れるほどの者は少ないだろう。


 かくいうイングリッドも、物怖じして動けないでいる。


「――失礼。その辺にしてもらえるかな、チェスター令嬢」


 二人を止めた声の方に目を向けると、教室の中に淡い銀髪の男子生徒が入ってくるところだった。彼は騎士科に似たジャケットを着ていたが、全体的な色味が白地に統一されたそれは似て非なるものだった。











神学科にも大量逮捕を生き残ったヒロインがいました。

リクとは馬が合わなさそうですね。


裁判の映像が全校中継されていますが、帰りの時間なので先生はみんなに「はよ帰れ」と言ってHRが終わりました。

この異様な空気感や雰囲気を感じ取って頂ければ……!



転生/転移者・攻略対象等まとめ

【作品名不詳】 ←New!

・ヒロイン:マリアーネ 聖カレイド国の聖女

・悪役令嬢:???

・攻略対象1:アルフォンス王子 聖カレイド国の王子 貴族科にいる


名前と出番のある教職員まとめ

【アム学教職員リスト】

学園長:オージェハイド シェイドグラム大公家の分家筋

錬金科教授:ゼイルストラ アシュトーリアの貴族

神学科教師:プラサード 神聖星教会司祭の資格を持つ担任 ←New!




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