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新学期にかける思いは様々だ。
新入生ともなれば、これから始まる新たな学園生活に思いを馳せるものだ。心躍らせ、期待と不安の混ざった未来への希望を抱いていることだろう。
なかでも特に邪な期待を抱いている者たちにとって、その日は命運を決する第一の分水嶺となった。
二年生、三年生たち上級生が別の場所で始業式に臨んでいる頃、紅華館には新入生たちが一堂に会していた。
アムリタ統合学園は人数が多いため、全校集会は基本的に大闘技場の巨大施設を使って行われる。
一方、新入生たちの入学式は催事場としての意味合いが強い紅華館で行われていた。
登壇して挨拶を述べた学園長は、想像よりも若い五十代手前の男性だった。上品な銀の髭を生やした紳士で、この国の貴族として知られていた。
「――本日、東大陸中の様々な国々から集まった生徒の皆さんを歓迎します。この学園は……」
学園長式辞が始まると、新入生の一団で登壇を待つエクリュア・ヴァイス・グランルクセリアは密かに目を光らせながらニヤリと笑った。
(あれが例の新学園長……オージェハイド伯爵ね)
エクリュアは帝王学を学ぶために高等部から入学することになったグランルクセリア王国の第一王女である。実は転生者であるが、モブだ。
エクリュアは遊学にあたり、アシュトーリア王国のことやもちろんこの学園についても多少は調べてきている。
前任の学園長は前年度で退職しており、目の前で式辞を述べている新学園長が何者であるかということも。
オージェハイドは、シェイドグラム大公家の分家の家名として知られている。
この学園に大公家が守りたい人物が入ってきたため、急遽学園長を手の者にすげ替えたのだろう。
グランルクセリアから来たエクリュアたちは、その人物のことをよく知っていた。
ディアドラ・フラウカスティアだ。通称『花ロマ』というグランルクセリア王国を舞台にした乙女ゲームの悪役令嬢だったが、ヒロインが自滅したために処刑を免れてシナリオの脅威を脱した。
その後、死の黒幕だったアシュトーリアの大公に求婚され、祖国を旅立ったのだ。彼女は一足先、前年度中にアムリタ統合学園に編入済みだ。
(ディアをからかうネタができたわねぇ)
(……な~んてことを思っていそうですね。姫様のことですから……)
エクリュアがいつものようにうししと笑っているところを想像しながら、錬金科の列でひとり苦笑を零すのはシエラ・クローバーリーフだ。同国出身の貴族令嬢であり、エクリュアと同じく転生者でモブである。
それはさておき、世界的に影響力のあるアムリタ統合学園のトップを私的な理由で変えられるのだから、シェイドグラム大公家の権力や財力は相当のものと考えていいだろう。
「……この学園で様々な才能を伸ばし、または開花させ、ここにいる皆さんひとりひとりがいずれ世界で活躍する存在となることを願っています」
オージェハイド学園長の式辞が終わると、風魔法の拡声魔導具で総生徒会長の名前が呼ばれた。
〈続いて、総生徒会長からのお祝いです〉
アムリタ統合学園では数多くの学科があるためそれぞれに生徒会役員と会長がいるが、それらを束ねて統合する総生徒会長も存在する。
壇上に登ったのは、白銀の髪に紫の瞳という特徴的な美貌の女生徒だった。絵画に描かれるような儚い外見とは裏腹に、その双眸には強い光が宿っていた。
「まずは新入生諸君、入学おめでとう!」
三年生の総生徒会長を務めるのは、この国アシュトーリア王国唯一の王女として有名な人物だ。
名前は、ナユタ・グラールフレア・アシュタル王女。幼い頃から国政を補助する天才と知られ、国際的には『ナユタ姫』と称されることが多い。
冒頭から力強い祝辞でスタートした彼女の演説は、実に快活なものであった。
「この学園は面白いぞ! やりたいこと、必要なものがあれば遠慮なく声を上げてほしい。教師が渋るようなら、生徒会に相談するといい。私は貴族科だが、他科でも生徒支援のための予算は十二分に組まれている。建設的なアイデアを実現させるために、ぜひ活用してほしい! これから三年間、諸君の活躍を期待している! 改めて、入学おめでとう!」
大きな拍手が起こった。力強く端的で分かりやすい言葉で綴られた祝辞が、新入生たちの心に響いたようだ。
壇の下で圧倒されながらも、エクリュアは拍手を惜しまず心の中で称賛した。
(……すごい勢いね。さすがはアシュトーリアの王女といったところかしら。噂通りの人物みたいね)
同じく錬金科の列でアシュタル総生徒会長を見ていたシエラも感心して拍手を送っていた。
やがて会場の拍手がまばらになったところで、次に呼ばれるのはエクリュアであった。
〈続いて、新入生代表挨拶です〉
名前を呼ばれたエクリュアは返事をして壇上に登った。
他の生徒たちや教師陣、誰もがエクリュアの一挙手一投足に注目した。そんな場面は貴族社会で慣れっこだ。
王女として転生する前の前世でも人の前に立つことが多い仕事だったため、王女人生を苦に思ったことはない。
「先生方、そして東大陸中からお集まりの同級生となる新入生の皆様。様々な才能を持つ方々のなか、代表としてここに立てることを光栄に思います。私たちは、今……」
エクリュアが代表挨拶の原稿を読み始めた時、異変は起こった。
『――さて。入学式ならびに始業式の途中だが、ここで残念なお知らせだ』
紅華館催事場に設置されている魔法の投影装置が突然起動し、ある人物の映像を映し出した。
「……は?」
エクリュアは呆気に取られ、背後の投影幕を振り返った。
そこで見たのは、半年ほど前に母国で巻き起こった異端審問裁判で『花ロマ』のヒロイン・ユレナを処刑に追い込んだ裁判官。
それを皮切りに、現在でも東大陸の様々な国で裁判を起こし、ヒロインとみられる少女や女性を次々と処刑させている張本人だった。
「イ……インクイジター……!?」
どうも。新学期終了のお知らせです。
↓久しぶりなのでキャラ情報載せます
転生/転移者・攻略対象等まとめ
【花ロマ】
・ヒロイン:ユレナ ✖死亡
・悪役令嬢:ディアドラ ♡アシュトーリアの大公と婚約
・攻略対象1:クリスティン王子 ✖失脚
(以下攻略対象省略)
・モブ王女:エクリュア グランルクセリアの次期女王
【あるネット小説(作品名未公開)】
・モブ?:シエラ
転生者でない普通の登場人物でわりと重要な人をまとめます
【非転生者】
・ナユタ アシュトーリアの王女でアム学の総生徒会長
名前と出番のある教職員まとめ
【アム学教職員リスト】
学園長:オージェハイド伯爵 シェイドグラム大公家の分家筋 ←new!
錬金科教授:ゼイルストラ アシュトーリアの貴族




