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次なる行動を決めかねるリクだったが、意外にも緊張を破ったのは問題の『ヒロイン』らしき女生徒だった。アイラという妹の方だ。
アイラは半べそでリクを指差しながら、ピーピーとわめいた。
「ちょっと! 召喚された聖女って、それってヒロインってことじゃない! 何で私の邪魔するのよ!?」
指をさされたリクはしかし、きょとんと首を傾げた。
「何のことだか分からないな」
「協定違反よ! ニムに言いつけてやるわ!!」
彼女が出した名前に、リクとアミだけが反応した。
協定がどうとかは分からないが、その名前にはリクもアミも聞き覚えがあった。
〝ニム〟――それが『瀬木にむ』のニムであれば、それは数ヶ月前まだグランルクセリアにいた頃に、リクに謎めいた手紙を送ってきた人物のことだ。
リクはその手紙を隠したが、アミにだけは内容を明かした。
そこに書かれてあった通り、その人物もこのアムリタ統合学園に来ているようだ。
だが、今はこの場を収拾しなければならない。
「……誰に言おうと自由だけれど」
リクは肩越しに振り返り、アミにガードされている悪役とおぼしき令嬢を見た。
「彼女は神学科の生徒だ。神学科の校舎以外に連れて行かれる筋合いはない」
「ふざけないで! これは『愛レゾ』の問題なのよ。よそのヒロインが口出すんじゃないわよ!」
『愛レゾ』。それが彼女たちの登場する、地球に存在する物語の作品名なのだろう。
おそらく転生者や転移者以外は誰も分かっていないであろう内容の話に、くだんの男子生徒も呆気に取られている。
この隙に逃げ出せればよいのだが、この人混みと観衆の多さではそれも叶わないだろう。
打開策もないまま、双方が睨み合う。
その時、思わぬ助け船が現れた。
「――先生、こっちです!」
声の方に目を向けると、見知らぬ女子生徒が教師を連れて来るところだった。
「お前たち、新学期から何を騒いでいる?」
よく通る声に、生徒たちが一瞬で震え上がるような鋭い眼光。知的だが気難しそうな表情だ。白髪交じりの銀髪に分厚い眼鏡と白衣。研究者のような出で立ちの教師だった。
「さっさと散れ! 初日から遅刻するつもりか? 早く自分たちの校舎へ行け!」
青い鳥広場周辺に群がっていた生徒たちが、一気にはけていく。
離れた所で目を光らせていたエリー・ヘイデンもすでに姿がなかった。いち早く逃げたのだろう。
「……錬金科のゼイルストラ先生だよ。あの人は爵位も持ってるから、貴族科の生徒もわりと言うこと聞くよ。親や社交界に、学園での醜態を吹聴されたくないからね」
教師を連れて来た女子生徒が、アミに耳打ちした。
「あなたは……」
彼女は魔法魔術科の黒い制服を着ていた。アミに頷き、
「早くここを離れましょう」
と言った。アミとミラフェイナは顔を見合わせた。
「ど……どうしましょう? まだディアに会えていませんけれど……」
「この人だかりだし、どこかで見ているかも」
アミが人混みを見渡す。ディアドラの姿は見えないが、彼女は聡明だ。この騒ぎを見て離れたところから状況を把握し、避けてくれているかもしれない。
ならば、今は逃げるが勝ちだ。
同じくして教師の姿を見たトバイアスも、さっと青ざめた。
「まずい……! ここは退こう、アイラ」
「で、でも。お姉様が!」
「あいつのせいで学園で騒ぎを起こしたとか言いがかりを付けられたら面倒だ。それに機会はいくらでもある。なに、事情を話せば伯爵も考えを改めるさ」
「……わ、分かったわ」
頼みのメインヒーローに言われては、折れざるを得ない。アイラも渋々、首を縦に振った。
去り際にアイラは一瞬、恐ろしい形相でリクたちを睨み付けていった。
強い敵意を向けられたリクは頭を掻きつつ、どうしたものかと唸る。
「うーん……。ほかにも『ヒロイン』がいるとは聞いていたけど」
「えっ……?」
リクが口にした単語に、イングリッドが目を瞬かせた。
「リク様! 後ほど合流致しましょう」
ミラフェイナが声をかけ、アミともうひとりの見知らぬ魔法魔術科生に目配せをしてその場を離れる算段をする。
「分かった。……アミを頼んだわ」
「もちろんですわっ」
「気を付けてね、リク。……あなたと、その子も」
リクに挨拶をした後、アミはイングリッドを見て言った。
アミに返事をするようにリクが頷くと、二人は魔法魔術科の生徒と一緒にその場を後にした。
小魔塔の方へと歩いて行くアミたちを見送り、残されたリクはイングリッドを振り返って言った。
「――さぁ、私たちも行こう」
「はっ、はい……!」
リクの差し伸べた手にイングリッドはふわりと手を乗せ、『愛レゾ』の原作にはない展開に目を見張るばかりだった。
転生・転移者まとめ
【愛レゾ】 ←New!
・ヒロイン:アイラ
・悪役令嬢:イングリッド
・メインヒーロー:トバイアス
名前と出番のある教職員まとめ
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錬金科教授:ゼイルストラ アシュトーリアの貴族




