あなたを愛することはない・下
元婚約者の家で別の女性に求婚しているという配慮の欠片もないトンデモ行為に、ミラフェイナは堪忍袋の緒が切れた。
「お答えしてはいけませんわ、リク様っ。エクリュア姫様から王位を取り戻すために、聖女となられるリク様を利用したいだけですわ!」
「貴様は黙っていろ!」
忠告したミラフェイナを、コルネリウスは醜い形相で睨み付けた。
「リク殿! あんな女に惑わされるな! 俺様は本当に、ひと目見た時からあなたに心を奪われたのだ。信じてくれ! あなたの愛があれば、王位など……!」
懇願にも似た告白はしかし、リクには全く響かなかった。何故なら、ミラフェイナの読み通りであろうことは明白だった。
「あなたの愛があれば、王位などいらない」
ではなく、
「あなたの愛があれば、王位など簡単に取り戻せる」
が本音だろう。見上げた根性である。
リクはアミに怪我がないか心配しつつ、すうっと息を吸ってコルネリウスの両目を見据えてハッキリと言い放つ。
「私があなたを愛することはない」
「え…………?」
リクはショックを受けているコルネリウスの横をすり抜けると、倒れているアミを助け起こした。
「アミ、大丈夫? ごめん……私のせいで」
「ううん、だいじょう……グフッ」
アミは脇腹を押さえている。リクは回復魔法『ヒール』を施した。
「キャー! 今のセリフ、ヒロインが言っちゃっていいんですの!? キャー♡」
ミラフェイナがひとり盛り上がっている。
本来ならばメインヒーローに悪役令嬢が突き放される時に言われるセリフのはずだが、何故かヒロインであるリクがメインヒーローに言い放ったのだ。
ゲームを憶えていないリクは、そのことを知らない。つまりは偶然であり、第一王子の身から出た錆である。
こうして何度目かは分からないが、リクにまたしても盛大にフラれたコルネリウスは、意気消沈して執事たちに連行されて退場した。
初めて自分の言葉でコルネリウスと対峙できたミラフェイナは、本物の悪役のように高笑いをしてみせた。
「おーほほほ! 今さら、この公爵邸で我が物顔ができるとお思いでしたら大間違いですことよーっ!」
そんなミラフェイナに、リクが声をかける。
「ごめん、ミラ。……嫌な役をさせて」
「いいえ、リク様がお気になさる必要はありませんわ。わたくしは悪役令嬢ですもの。このくらい朝飯前ですわ!」
そうしてまた、ミラフェイナは本来の悪役令嬢のように高笑いの真似事をしてみせるのだった。
夕方になって迎賓館を訪れたアウグストは、扉から覗いたリクの顔を見て赤面してしまった。
普通なら侍女を通すところを、リクたちは給仕以外は王宮侍女を控えさせていないため直接掛け合うことができた。
「少し……話せないか? あなたがアシュトーリアへ行く前に話がしたい」
「……」
リクが振り向くと、アミが満面の笑顔で「いってらっしゃい」と手を振っていた。リクは肩を竦めて向き直る。
着られないドレスを今後は受け取れないと伝えなければならなかったため、リクはアウグストの申し出を受け入れた。
「分かった。……私も話が」
そう言ったリクに、アウグストはドキッとした。第一王子がまたしてもフラれたという噂が王宮を飛び交っていたため、先に話させる訳にはいかなくなった。
「どこへ?」
「少し歩こう」
「あまり遠くへは行けない」
「すぐそこで構わない」
アウグストがリクを外へ連れ出すと、護衛の気配も迎賓館を離れた。姿を消しているが、リクの護衛である神殿騎士レンブラント・ラッハがどこかに身を隠している。聖女凱旋祝賀会の時と同じ状況だ。
王宮本殿の庭園に比べればスケールは劣るが、迎賓館の前庭も美しく整えられている。
青いビオラが咲いている花壇の脇で、アウグストはおもむろに足を止めた。
「……ドレスの件は、すまなかった」
言おうとしていたドレスの話題を先に出されたので、リクはぱちくりとアウグストの顔を見上げた。彼の頬は夕陽に照らされて赤くなっていた。
「約束通りアミ殿にも贈るとは言ったが、あれでは着られないだろうと反省したんだ。あの後、別の夜会で君とアミ殿がお揃いのドレスを着ているのを見た時は、ローゼンベルグ公に負けたと思ったよ。彼は、俺よりも君を理解していると」
少し前にアウグストがリクに贈ったのはアウグストの髪の色をした赤いドレスであり、アミの分として贈ったのは違う色とデザインのドレスだった。
アウグストの気持ちが大変に透けすぎていた。
それでは袖を通せないと、クローゼットの肥やしになっている。
「だから挽回させてくれ。俺には戦うことしかできない。君が国外に出れば、どんな危険に遭遇するか分からない。俺を君の騎士として、連れて行ってくれないか……?」
アウグストの真っ直ぐな言葉を受け、リクはこてんと首を傾げた。
「騎士、と、して……?」
「ああ。ほかの護衛が何人いようが、関係ない。俺を君の騎士にしてほしい」
探るように、リクの視線がアウグストの視線と交差する。
リクは強く、美しく、友を大切にする心優しさを持ち、妙なところで頑固だ。そんな彼女の視線は、アウグストを強烈に射貫く。
アウグストは、リクに心を奪われてしまったひとりだった。
リクはおずおずと挙手をするような仕草をする。
「ちょっと意味が分からないんだが……」
「俺もアシュトーリアへ行く。君について行くということだ」
リクは無言のままアウグストを見つめ返した。アウグストは照れくさそうに微笑み、辛抱強くリクの答えを待った。
冬の風が吹いた。雪の気配が頬をなぞり、ぱらぱらと雪が降り始めた。
リクは顎に手を添えて、
「――困ったな」
と言った。
「この国はどうなる?」
「えっ……?」
それはアウグストにとって予想外の答えだった。
「あなたは強い。この国を離れるべきじゃないと思う。私たちが帰るところを、守っていてもらわなければ困る。……だから、あなたはここにいて国を守っていてほしいんだけど……」
アウグストは目を見開いた。
かつてアウグストは、決闘でリクに負けた。だから強さで信頼されているとは思わなかったため、喜びで口元が緩みそうになった。
「……俺に、君の帰る場所を守らせてくれるのか?」
リクは、こくんと頷いた。
「本当だなっ!?」
「――!?」
急に弾けるような笑顔になったアウグストに、リクは思わずたじろいだ。
「え、ええ……」
「だったら、約束してほしい。もし異世界に帰ることになっても、俺を連れて行くと!」
「……!?」
疑問符を浮かべているリクを見て、アウグストは自分の胸を叩いて言った。
「君の帰る場所を守るのは俺の役目だ。それが異世界になったとしても変わらない。そのことを約束してほしい」
「わ、分かった……」
前のめりなアウグストに気後れしながらも、リクは頷いた。
「……地球へ連れて行く? それは無理だな」
しばらくして満足げな表情で迎賓館を去るアウグストの後ろ姿を見つめながら、リクはひとり呟いた。
「もう……死んだんだから」
いつもならあまり感情の乗っていない淡泊な声色が、リクの特徴だ。それが、その部分だけは貴重な感情が乗っていたように聞こえた。
植木の陰に姿を隠す護衛騎士のレンブラントは、ただ黙ってリクの独り言を聞いていた。
「死」という単語に驚愕を覚えながら――……。
これを本編に入れられなかった理由は、第三部へのフラグになっているので
どうかと思ったのです……。
第二部は3月頃公開開始に向けて準備中です。
それまでは千賀様の美麗イラストを更新していますので作品ページか
SNS(X/Blue sky)でご覧下さい。
お待たせしますが、引き続きよろしくお願いします。
続きに期待して頂けましたら、モチベ維持のために作品評価をお願いします!
転生/転移者・攻略対象等まとめ
【ななダン】
・ヒロイン:リク
・悪役令嬢:ミラフェイナ
・攻略対象1:コルネリウス王子 ※フリました
・攻略対象2:レンブラント
・攻略対象3:アウグスト
・攻略対象4:クライド
・攻略対象5:マティアス王子 ※丁重にお断り
・隠しキャラその3:ローゼンベルグ公爵 ♥一歩リード
・モブ王女:エクリュア グランルクセリアの次期女王
【不明】
・???:アミ リクと一緒に召喚された地球人。 ※作品名も役柄も不明
ミラフェイナのなんちゃって高笑いをご堪能下さい笑




