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悪役令嬢VS黒ヒロインVSインクイジター【第二部連載中!】  作者: まつり369
挿話

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ヒロイン裁判の裏の裏


「おっ、兄貴じゃん」


 王宮。式典会場のテラス屋根の上に、彼はいた。


 その日は、グランルクセリア王国に召喚された『聖女の器』リク・イチジョウの凱旋祝賀パーティーが開かれていた。


 異世界から召喚された人間。それも、名前の響きから類推されるに日本人だ。それだけで興味津々だった。


 魔法で目の前に映し出しているのは、式典会場のメインホールとそこに現れた『法廷』の映像である。


 彼が「兄貴」と呼んだ人物――鑑定士ヒューベルト・シュタインクロスが、会場に呼び出されて国王の前にひざまずいている。


「ふーん……。兄貴が裁判の鑑定士やんのね」


 その後、ヒューベルトは『法廷』の映像に近付くと白い炎に包まれて姿を消し、映像の中に現れた。


「消えた! すげえ……。本当に別空間なのか。あの火がブワッての熱くないんかな? 後で兄貴に聞いてみよ」


 彼は裁判の様子を眺めながら、手元の紙袋からクッキーを取り出して口に放り込む。貴族学院の帰りに下町で買ったものだが、食べかけの袋である。食べかけでない方は、人にあげてしまった。


「しっかし、本当に()()()の言った通りになったな。ヒロイン裁判……か」


 彼は、学院で有名なユレナ・リリーマイヤーの日常的に散見される情景を思い出す。


「攻略対象に囲まれて調子に乗ってたもんなぁ。実際のヒロインは、あんなんじゃねーだろ。ま、自業自得」


 キラキラしたイケメン軍団が苦手な彼は、ユレナには近付かなかった。おかげで認識すらされていない。


 一方、彼はディアドラ・フラウカスティアにも近付かなかった。


 明らかにユレナに嫌がらせを受けていたのは彼女の方だったが、悪役令嬢に近付いてユレナと関わり合いになることを懼れたのだ。


 自己選択ではあるものの、まるで見捨てているようで心苦しさは感じていた。


「オレは何もできなかったからなぁ……。こんなことで助けになるなら、むしろ渡りに船だぜ。()()()に感謝しないとな」


 彼は裁判を最後まで見終えると、テラス屋根から飛び降りた。




 裁判後、広間に現れた光の扉から出て来る人々を遠目から眺める。


 目的の人物を見付けると、彼は広間を迂回して後を追った。真ん中を通って中心人物たちに見られるような真似はしない。


「おーい、兄貴~」


 裁判で仕事を終えた鑑定士ヒューベルトは、インクイジターたち一行に挨拶をしてその場を離れていた。


 弟に気付いたヒューベルトは廊下で足を止めた。


「何だお前、来ていたのか。こういうパーティーは苦手だったんじゃないのか?」

「ちょっと異世界の聖女サマを見物しに来たらさ、何かスゲーことになったじゃん」

「ああ。まさかインクイジターがこの国で裁判を……」

「兄貴、ちょっとした有名人じゃん」

「やめてくれ。これから国王陛下に提出する報告書の作成がある。それどころじゃないんだ」


 軽い態度の弟に溜息を吐き、ヒューベルトは再び歩き出す。それに付いて行きながら、彼はぽつぽつといくつかの質問を投げかけた。


「そういやさ。あの聖女サマともう一人って、うちの学院に来る予定とかないんかな?」

「知らん。私に聞くな」

「何だよ兄貴。使えねぇな~」


 ぶつくさと文句を言う弟を見て、ヒューベルトは違和感に気付く。


「ん? お前、その腕輪……」

「ああこれ? 人にもらったんだ。似合う?」


 弟の右手首に嵌まっていたのは、白地に紫の紋様飾りのある腕輪だった。綺麗ではあるが、弟の趣味とも思えない。ヒューベルトは、


「似合ってない」


 と断じた。


 彼はムッとして「うるせぇよ」と言った。


「似合ってなくてもいいんだよ。こういうのは」

「いや、似合う必要はあるだろう……」


 身に付けるのなら、と呟きながら、ヒューベルトは弟のさらなるツッコミどころを発見した。


 肩に、ミツバチが止まっていたのだ。


「おい。花畑にでも突っ込んだのか? 肩に虫が止まってるぞ」


 指摘された弟は、イタズラが発覚した時のような笑みを浮かべた。


「引っ掛かったな、兄貴。これ、本物そっくりだけど実は作り物の虫なんだぜ」

「作り物? うわっ」


 ミツバチは彼の肩から飛び立ち、ヒューベルトたちを一周すると再び彼の肩に戻った。


 ヒューベルトは感心した。


「本当に本物のミツバチみたいだな……」

「スゲーだろー?」

「それをどうしたんだ?」

「同じ人にもらったんだよ。友好の証にさ」

「変わった魔導具職人がいるんだな……」

「職人? ああ、まあ……そんなとこ」


 そう言ってミツバチを撫でる弟が、心なしか生き生きとしているようだとヒューベルトは思った。


「何でもいいが、ほどほどにしておけよ。私は仕事に戻る」

「あれ? 兄貴、今日も泊まりかよ。そっちこそたまには休めよ~。んじゃ、オレは帰るわ」


 官僚棟の方へと進んでいくヒューベルトに手を振り、彼は踵を返した。




 ヒューベルトが十分離れてから、腕輪の紋様が一部点滅して男性の声が話しかけた。


《ユーゴ。あまり口を滑らせないで下さい》

「悪い悪い。……でも、大丈夫だと思うぜ。兄貴は仕事柄、口が硬いからさ」


 裁判が終わって祝賀会がまばらになり、国王の処断が始まった頃には部外者はほとんど帰り始めている。王宮の前庭に停められていた多数の貴族たちの馬車も、残りわずかだ。


《あなたの任務は……》

「分かってるって。アンタこそ、あんまり喋るとバレるぞ?」

《……》


 敢えて周りに誰もいないことを確認したうえで、ユーゴは言った。




 ユーゴ・シュタインクロス。

 彼の任務がヒロインや悪役令嬢たち、そしてインクイジターに関係してくるのは、もう少し先の話である。












このエピソードは、当初本編に入れようとして入れられなかった部分になります。


HUGOと書いてユーゴと読むユーゴ君の本編登場は、第二部のかなーり後の方からになります。

第二部が気になる人は、チェックしてねー。


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― 新着の感想 ―
[一言] (//▽//)追いついちゃいましたぁ(//▽//) 楽しみ~
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