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悪役令嬢VS黒ヒロインVSインクイジター【第二部連載中!】  作者: まつり369
終章

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80/130

エピローグ2:インクイジター Season1.5  ★


 東大陸の中心に位置する、永世中立国アシュトーリア王国。

 『星の聖地』と呼ばれる遺跡群を守るように建立されたこの国には、もう一つ聖地がある。


 それが『星河神殿』であり、五大神殿に守られた神聖星教会の信仰の要である。


 グランルクセリア王国でヒロインを一人処した後、巫女を送りがてらラビは再び『星河神殿』を訪れた。


「――戻ったか」


 奥の院の聖堂で待っていたのは、大神官ツクミトだった。


「巫女たちは?」


「セミュラミデには、聖火神殿へ帰ってもらった。カレンは巫女宿舎に直帰させた。旅の疲れもあるだろうし、報告にまで付き合わせるのは申し訳ないからな」


「そうか」


 ツクミトが合図をすると、側に控えていた見習い神官が束になった書類をラビに渡した。


「頼まれていた『ヒロイン』のリストと、その国の大まかな状況をまとめたものだ。東大陸のほぼ全ての国に複数出現している。見るだけで頭が痛くなるぞ」


「おお! これはすごい」


 と、軽薄な態度でラビはパラパラと書類を捲っていき、一ページも読まずに最後まで捲り終えた。


「……多すぎるな。次は何処へ行ったらよいものか」


 ラビが書類を手に唸っていると、見習い神官が迷いながらといった様子で上申した。


「それでしたら、占いの得意な巫女様に視て頂くというのはいかがでしょう?」

「それは良い考えだ。頼む」

「お任せ下さい!」


 アイデアを褒められた見習い神官は目を輝かせ、ラビから戻された書類を持って聖堂を出て行った。


 インクイジターを仰ぐ眼差しは、かつて役を得る前の木偶人形に向けられていたゴミを見るような目とは大違いだ。


「あの見習い君、大丈夫か? 前と態度が違いすぎるぞ」

「お前の場合は仕方ないだろう……」


 ツクミトが肩を竦めた。


 見習い神官もまさか前回連れてきた野暮ったい村人Aと、今回お目に掛かったインクイジターが同一人物などとは思っていないだろう。


 お役目前後ではよくあることだ。〝神の人形〟としては珍しくもない体験なのだが、ラビ本人としては微妙である。


「――ところでだ」


 話を変え、ツクミトは懐から手のひらサイズの魔導具を取り出した。


 魔法によって地図が記録されており、任意の場所に印を表示することができる。国軍や騎士団、戦闘ギルドなどでもよく使われている。


 魔導具は世界地図を映し出す。


 大陸を縦断する魔の山脈を境として東と西に大きく分かたれたのが、この世界の全容だ。


「それは?」

「ヒロインの出現地点にマーカーをしてある」


 『ヒロイン』を示す赤い点は、東大陸にのみ集中している。西大陸に赤い点は一つもない。

 ラビは笑った。


「清々しいくらいに、()()()()だけだな」


「先ほど、スィードのせがれから連絡があった。西大陸にヒロイン転生者や転移者が現れていないとするフィアレンスの報告に、間違いはないとな」


「その確認のためだけに、スィード大神官を西大陸へ?」


「まさか。この偏りが異世界の神の仕業だった場合、西大陸にも応援を要請せねばならん。そうなった時に魔族を欺けるのは、彼くらいだ。代替わりしていなければ、高位神官の派遣で済んだのだがな」


「ふむ……」


 ラビは腕組みをして、この世界の状況を鑑みた。


 三人の大神官のうち、フィアレンス大神官は西大陸に常駐し布教活動を続けている。聖地のない西大陸は魔族の勢力も強く、神聖星教も東大陸ほど浸透していない。


 東西は魔山の影響で魔導通信も遮断されており、魔山を越えての東西の行き来は不可能とされている。


 気候や北の魔王の存在を考えると必然的に南の海路となるが、大神官といえど簡単に東西の行き来に臨めない。


 海上で足止めされた場合、人類の戦力が大幅に削られるからだ。


 その点、数年前に代替わりしたスィード家の新たな大神官は隠遁に優れている。魔族に気付かれずに東西を行き来するには最適な人選という訳だ。


 世界地図を眺めながら、ラビが尋ねた。


「肝心の偏りの原因は分かったのか?」


「リスクを負った甲斐はあったぞ。西大陸への転生・転移者を遮断し死守しているのは、我らが星海の神々だ」


「――!!」


 本当かと問う代わりに、ラビはがばりとツクミトの方を見た。


「すでに確認済みだ。『混沌の巫女』『調和の(かんなぎ)』が自動書記を受け取っている」


 ツクミトは、然もありなんという表情をして返す。

 ラビは些か驚きが隠せない。


「神々が、そこまで干渉なさるとは……!」


「そもそも干渉してきているのが異世界の神だからな。ヒロインたちが西大陸にまで溢れてみろ。お前一人では対処しきれんだろう」


「まあ……物理的な限界は、どうしてもな」


 物理的な限界を超えて世界を行き来するには、高次元の肉体が必要だ。


 『法廷』に現れた覚者リネンの陽神(ようしん)や、神や天使の光体がそれにあたる。

 ラビは仮初めの聖者なため、本物の陽神は持ち得ていない。


「ここまでお膳立てされて、失敗は許されんぞ。何故、戻って来た?」


 ツクミトがラビを横目で一瞥し、厳しい指摘をする。


 グランルクセリア王国でのお役目の後、次の手近なヒロインへと直行することもできた。しかし、ラビはある目的があって戻って来ていた。


「気になることがあってな」


 と、ラビは右目の前に人差し指と親指で作った輪を当てた。


「ヒロイン関係者にも関わらず、このオールド様の竜眼で鑑定できない異界人の娘に会った。理由が分からんから、オールド様にお伺いを立てようかとな。ヒルデナーダは混沌神殿か?」


「そういうことか」


 得心がいったという表情をしたツクミトは、懐から丸く包まれた羊皮紙を取り出した。


「そのヒルデから預かっている。自動書記の最後に加えられた一文だ。今のを聞いて、お前宛てで間違いないと確信した。故に、開示する。開けてみろ」


「……!」


 託宣は特定の個人や団体に向けられたものであった場合、大神官の責任において開示される。


 ラビは羊皮紙を受け取ると、留め紐を解いて中を見た。




『インクイジター 見えぬ者 時が来るまで 触れるべからず

 ――混沌龍神オールド』




「触れてはならんときたか……」


「分かったなら細かいことは気にせず、さっさと次のヒロインを処して来い。あいつらが何人いると思っている?」


「了解。これが確認できただけでよしとしよう」


 ラビは羊皮紙を丸め直して懐にしまうと、そのまま踵を返した。その背中に、ツクミトが声を掛ける。


「巫女たちを連れて行くだろう。人選は決まっているのか?」


 ラビが立ち止まって振り返る。


「今回は、ヒルデナーダにメインを頼むつもりだ。スペアにあと二人程度と考えているが……」

「ヒルデなら、昨夜から寝込んでいるぞ」

「なぬ!?」


 最初から分かっていたであろうツクミトがあっけらかんと言い、ラビは肩を落とす。


 ヒロイン裁判の開廷には、最低三柱の神々の承認が必要だ。その時のために、巫覡(ふげき)の同行は必須となる。どの神が賛同してくれるか分からないなかでは人選は厳しいが、複数の神々と同時交信できる者がいれば話は楽になる。


 それが唯一できるのが、カレンとヒルデナーダなのだ。


「……知恵熱だ。昔から自動書記の後は、よくなっていた。あの子もカレンに比べれば、まだまだ子供だ。引き続き、カレンに頼めばいいだろう」


「それしかなさそうだな……」


 グランルクセリア王国へ同行してくれたカレンはいったん休ませようと思っていたが、そうもいかないらしい。


 ラビは「人使いが荒い!」と文句を言うカレンの顔を想像して、冷や汗を掻いた。結局、いつも怒られている気がする。


「とりあえず、巫女宿舎へ遣いを……」


 その時、廊下から「きゃー!」と子供たちが騒ぐ声がドタバタという足音と共に近付いて来た。


「み、巫女様。お待ち下さい……!」


 見ると、先ほどの見習い神官が数人の幼い巫女たちに引き回されているところだった。


 あのヒロイン情報リストは、少女の一人が持っている。


「この占い、どうするの?」

「それはインクイジター様が……」

「いんくー?」


 幼い巫女たちは、きょとんとしている。インクイジターの任命に関わっていない巫女たちは知らないのだ。


 リストを持っている五歳くらいの少女がトコトコとラビの前へやって来て、ラビを指差した。


「いんくーじーた?」


 ラビはその場に膝を折り、ヒロインリストを受け取った。


「いかにも。インクイジターのラビだ。占ってくれたのは汝か?」


 少女は、こくりと頷いた。


「お星さまがでてきたんだよ。たぶん、かみさまのいえ」

「教会のことか?」

「お星さまかいちゃった」

「うん?」


 少女の指し示すページに、黄色いクレヨンで星形の絵が描いてあった。かなりはみ出ている。


 普通の落書きに見えないこともない。


「これは占いなのか?」

「くれよん占い」

「クレヨン占い?」

「なんかわかんないけど、いつもかってにうごく」

「そうか」


 一種の自動書記かとラビが首を捻っていると、後ろから大神官ツクミトがやって来て言った。


「彼女は『道標の巫女』メルアだ。参考にはなるだろう」


 道標というと、道しるべの神アルラシドのことだ。ツクミトの言うように、参考にする価値はあるだろう。


「分かった。ありがとう、メルア」

「どういたまして!」


 幼い巫女たちに見送られながら、ラビはヒロインリスト片手に奥の院を出た。

 当面の問題は、ヒロインよりもカレンの説得かもしれない。













これにて第一部本編は終了になります。


いくつか挿話がありますので、第二部準備中にそれらを不定期更新していきます。

作品継続のモチベに繋がりますので、続きが少しでも気になると思って頂けたなら

評価ポイントを入れて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。



更新

インクイジターサイドまとめ

★インクイジター:ラビ

裁判長:リネン 知識の神の地上代行者。どこかの山奥に住むショタ


お手伝い出張

・星河の巫女:カレン 17才 続投確定



お留守番組 ※インクイジター第0話に出てます

・責任者:大神官ツクミト


・混沌の巫女:ヒルデナーダ 12才

・大地の巫女:ナディア 8才

・無限の巫女:セミュラミデ 11才

・神門の巫女:キスカ 10才

・心泉の巫女:シプリス 9才


その他の巫覡 ←New!

・調和の覡:???

・道標の巫女:メルア 5才




五大巫女①~⑤ ※能力順

①ヒルデナーダ

②???

③セミュラミデ

④???

⑤???


※『星河』を持つカレンは①より上です



挿絵(By みてみん)




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― 新着の感想 ―
見ましたが、良い作品でした!これからの物語を楽しみにしています! こちらも新作投稿しているので、宜しくお願いします!
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