表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢VS黒ヒロインVSインクイジター【第二部連載中!】  作者: まつり369
終章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

79/129

エピローグ1:終焉の接触


 月明かりがカーテンの隙間から差し込んでいる。

 淡い光の帯が、少女の眠るベッドへと伸びていた。




「うーん……。もう食べられないよぉ……。むにゃむにゃ……」


 幸せそうな夢を見るアミが寝言を言っている。


 AI・イリスは主人の睡眠中のバイタルや脳波をチェックして、問題がないことを確認する。


 アミの枕元に小さなクッションがある。そこにはドローンの『スズメ』が鎮座し、『モンシロチョウ』もクッションに止まっている。部屋が暗いので『()』はどこにいるか見えないが、反応は同じ場所にある。


 隣のベッドで寝ていたリクがおもむろに起き上がり、アミの方へと近付いて来た。


 『スズメ』の視界には、しっかりとリクの顔が映っていた。AIイリスはドローンたちの視界を共有できる。『スズメ』の目を使って見たリクの顔は、分析し難い表情をしていた。


「アミ……」


 リクはアミの寝顔を見下ろしながら、ぽつりと呟いた。


 AIイリスに見られているとも知らず、リクはアミのベッドに片膝を乗せた。

 リクはアミの赤毛を撫で、頬を撫で、首筋を撫で――喉元で手を止めた。


 曇天の動きで月明かりの帯がゆらゆらと形を変え、リクの半身に影を落とした。


 リクはゆっくりと腰を折り、アミに顔を近付けた。寝息でも確認するかのような距離だ。

 心配しなくとも、彼女は完全に夢の中だ。


「どうして……()()()()()()()()()


 リクの呟きを、AIイリスは聞いていた。




 最近のリクとアミは、毎日王宮の一室に呼ばれて二人で講義を受ける日々だった。


 その日の昼間も、この世界の一般常識や生活における魔法のあり方などを学んだ。春からアシュトーリアの統合学園へ行くため、また日常生活を送るのに最低限必要な講習だ。


 礼儀作法やダンスは、ローゼンベルグ公爵邸でミラフェイナとその講師マーサ夫人に習っているところだ。


 よくドレスの裾を踏んでしまうアミは毎日ヘトヘトになり、夜は爆睡である。


 『超回復』を持っているリクは、この世界に来て疲れを感じたことがないという。

 超人的といえば聞こえは良いが、チートスキル満載の『ヒロイン』たちはある意味バケモノである。


「同じヒロインだからか……」


 リクはしばらくアミを見ていたが、何を思ったのかパッと手を離してベッドから離れた。そのまま数歩後ずさり、アミが起きないか様子を見た。


 アミは変わらず、安らかな寝息を立てている。

 リクは息をつき、寝室を出た。


《――》


 AIイリスは思索する。


 『法廷』で出会ったインクイジター・ラビの言った通りになりつつある。

 それでもAIイリスの主人は、リクを信じるのだろう。






 応接室に出たリクは用意されている水差しから水をつぎ、黙って飲み干した。

 心を落ち着けるようにもう一杯ついで、また飲む。


「……」


 ローテーブルの上に、橙色の魔法燈がひとつ灯っている。そのそばに、開封済みの封筒が置いてある。

 封蝋はオルキア公国の王家の紋章――マティアス王子からの手紙だ。


『それは残念です。せめて次に夜会でお会いした時はダンスを申し込めること、楽しみにしています』


 定期的に会うことはできないと、遠回しなお断りを入れた後の返事だ。


 彼については、これでいい。


 グランルクセリア王国の聖女候補である以上、他国の王子と必要以上に親しくする訳にはいかない。


 本来のゲームのヒロインはそうではなかったらしいが、やはりゲームはゲーム。伝え聞くハーレムルートのことを考えても、現実的ではない妄想の産物だ。


 暗がりの部屋を見渡すと、更衣室の前にドレスを着せられたトルソーが二体並んでいる。


 バラを模った金の刺繍が映える深紅のドレスと、少しデザインの違う白地にグラデーションレースのドレス。


 騎士団の若獅子アウグストからのプレゼントだ。アミの分もあるため、対面的に受け取りを拒否することはできなかった。


「せめて同じデザインだったら……」


 深紅はアウグストの髪の色だ。アミのものとお揃いでもないため、リクがそのドレスを着ることはできない。


 近いうちに彼にも、きっぱりとお断りを入れなければならない。


「またお断りなさるんですの!? そんなぁ……」


 と、また残念がるミラフェイナの反応が予想されるが、この時のリクはクスリともしなかった。


 リクは自身の髪をくしゃりと押さえ付けるようにして、額から頭を手で覆った。


「あの男……」


 脳裏に浮かぶ、インクイジターの姿。ヒロインの敵。

 悪事を働いていなければ大丈夫といった、生易(なまやさ)しい相手ではないだろう。


 ミラフェイナやエクリュア王女たちは、全く危機感を持っていない。裁判の最後でアミが捕まったにも関わらず、呑気すぎる。


 彼女たちはヒロインではないのだから無理もないだろうが、対インクイジターにおいて、『フリーダム』のメンバーは当てになりそうもない。


 『花ロマ』ヒロインのユレナが処刑された以上、他のヒロインたちと情報交換したいところだ。しかし、リクには他国のツテがない。


「これは……?」


 マティアス王子からの手紙の束に隠れて、毛色の違う封筒が混ざっていた。


 昼間に見た時はなかったはずだ。


 『聖女の器』であるリク宛ての手紙は、王宮の担当官によって検閲されている。他国の間者が接触しないようにするためだ。


 しかしその封筒は、開封された形跡がなかった。


「誰かがここに置いたのか?」


 いつ紛れ込んだのか――リクは封筒を手に取った。宛先は間違いなく、『聖女リク様』となっている。

 差出人を確認するために封筒をひっくり返した時、リクはそこに書かれた文字を見て息を呑む。


「……漢字……!?」


 この世界の文字ではない、リクたちが見慣れた文字で書かれた差出人の名前は、明らかに日本人のものだった。


 『瀬木 にむ』


「魔導王国クォンタム……魔学生……」


 リクは急いで封を切り、手紙を開けた。そこに書かれていたのは、友好的な文章だった。




『初めまして、『ななダン』のヒロインさん。私は瀬木にむ。クォンタムに召喚された、転移者よ。お友達に手紙を届けてもらったの。驚かせてしまったなら、ごめんなさいね。


 転生者ヒロインが多い中、転移者のお仲間が増えて嬉しいわ。


 近々、アシュトーリアの統合学園に編入するんですって? 私も次年度から留学するから、会えるのを楽しみにしているわ。


 ヒロイン同盟は、あなたを歓迎します。もちろん、相方(あいかた)の謎のヒロインさんもね。


 追伸 あなたたちが未来人という話は聞いています。私のゲームは知っているかしら?


 ――『終焉のアンブロシアン・マギカ』略して『終マギ』のヒロインより』




「未来人……。そんなことまで……」


 ヒロイン同盟。願ってもない話だった。


 これでアシュトーリア行きの明確な目的ができた。瀬木にむに会い、ヒロイン周りの情報とインクイジターへの対抗策を練る。


「これはミラたちには見せられないな……」


 リクは瀬木にむの手紙を封筒に戻し、懐にしまった。朝になったらアミにだけ話そうと決め、リクは寝室へと戻って行った。













更新

【終マギ】 ←New!*タイトル

・ヒロイン:ニム 

・???:魔塔の主 非攻略対象


【ヒロイン同盟】

たくさんいるヒロインを支援・情報共有


盟主:ニム(終マギ) ←New!*タイトル


元メンバー:ユレナ(花ロマ)✖死亡


勧誘中:リク(ななダン) ←New!

勧誘中:アミ(不明) ←New!





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ