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悪役令嬢VS黒ヒロインVSインクイジター【第二部連載中!】  作者: まつり369
第十八章 欲望の末路

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71/130

3  ★


※ホラー表現注意※







 公開処刑日、当日。


 下町の広場には多くの見物客たちが集まっていたが、従来より柵が広く敷かれており、野次馬が近付けないようになっていた。


 壇上に設置されたギロチンの刃が、日の光を受けて鈍く光っている。

 担当役人が壇上に上がり、注目する人々に向けて告げた。


「これより逆賊ユレナ・リリーマイヤー元子爵令嬢の処刑を執り行う。この女は人の心を操る魔法を使用して第二王子殿下以下、複数の王侯貴族子弟を(たぶら)かし、我らがグランルクセリア王国を転覆させようとした張本人である! またその過程において聖者リネン様の外弟子を害したとして、地獄送りが言い渡された! 処刑に続いて執行される!」


 三日前から掲示はされていたが、人々は役人の説明を聞くと各々義憤に駆られたり憂さ晴らしのため、柵の外から罪人に石を投げ始めた。


「この売女(ばいた)め!」

「魔女だ! 消えろ!」

「何て恐ろしい」

「死ね! 売女!」

「穢れた魔女を殺せぇっ!」


 頭や体に(つぶて)を受け、ユレナは血を流す。


「い……嫌ぁ……っ。助けてぇ……」

「黙って歩け!」


 兵士によって幾度も殴られ、ユレナの顔は醜く腫れていた。


 役人は同席した神官二人に合図を送る。

 地元のカルマン神官と、聖地からやって来たインクイジターである。


 カルマン神官が、星河神殿からの正式な書簡を広げる。そこには大神官ツクミトの署名があった。たった三日で聖地から取り寄せたものだが、どうやったかカルマンは知らない。


 聖地のあるアシュトーリアへは、早馬でも片道一週間は掛かる。往復で三日は無理なのだ。こうなることがあらかじめ分かっていたとしか思えない。


 いずれにせよ、インクイジターに不可能はないだろうとカルマンは思っていた。


 書簡を掲げながら、カルマン神官が告げた。


「罪人の凶行により命を落としたナタリア・ジンデル子爵令嬢は、神々の恩寵(おんちょう)により列聖される! 聖ナタリアの働きにより、逆賊ユレナの企みが明るみとなった。一歩間違えば、この国は動乱の渦中に突き落とされていたことだろう。聖ナタリアを称えよ!」


 カルマン神官の声に合わせ、人々が熱狂的な叫び声を上げた。


 ギロチン台に上げられ、ユレナは見物客を見渡す。


 乙女ゲーム『花と光の国のロマンシア』――通称『花ロマ』の攻略対象たちは、誰も来ていなかった。子爵家の元両親すら来ていなかった。


 来ていたのは殺されたナタリアの弟であるウォルター・ジンデルと、同じくナタリアの元婚約者であったエリック・バードランだけであった。


 彼らからはただ強い怒りと、冷たい視線が注がれていた。


「こんな……。こんなの間違いよ。私はヒロインに選ばれた。選ばれたんだから……!」


 ギロチン台に首を乗せられる刹那、ユレナは訳も分からず叫んだ。


「私はヒロインよ! 魔女はあの女! 全部あの女の陰謀よぉぉぉぉッ!!」


 罪人ユレナがギロチン台に固定された。

 処刑人が縄を切り、刃が落とされた。ユレナの視界が傾いた。




(え…………?)




 ユレナの首は胴体と切り離され、地面に転がった。


 見物客たちが悲鳴を上げる。

 それは一見、罪人が死んだことによる驚喜の悲鳴のようだったが、実際は違っていた。


「きゃあぁぁぁ!」

「な、何だあれは……!?」


 処刑に居合わせた役人も、縄を切った処刑人も、カルマン神官も、ユレナの斬首と同時にその場から避難させられていた。


 そこに残っていたのはインクイジターだけである。


 少し前から詠唱を始めていた暗黒魔法・『獄門召喚』が結実していた。


 広場に現れたどす黒い地獄の門から、牛の頭をした獄卒たちが姿を現した。一人一人が、まるでオーガのように大きい。人々は、その恐ろしい姿に恐怖した。


 広めに設えられた柵は、暗黒魔法の影響下から見物客たちを守るためであったのだ。


 しばらく地上を見回していた獄卒の一人が、ラビの前へ近付いて来た。


『――何故(なにゆえ)に、聖者が我らを喚び出した?』


「私は聖者ではないが……まあいい。ほれ、そこに転がっているだろう。無間(むげん)地獄が確定している。連れて行け」


 インクイジターは、地面に落ちているユレナの首を指した。


 尋ねた獄卒は無言で頷くと、ユレナの首を拾った。


(な……んで……。私、死んだ……のに……。終わら、ない……の)


 インクイジターはユレナの心の声を聞きながら、軽い説法を手向(たむ)け代わりにした。


「ひとつ、無用な欲は身を滅ぼす。ひとつ、自らの罪を認めぬ限り、永遠に地獄からは出られん。生きていようが、死んでいようがな。……まあ、今さら言っても詮無いことであるが。せいぜい地獄で精進するがいい」


 首を切られたユレナに意識があるのは、すでに地獄の住人であるからだった。


 見ると、他の獄卒が律儀にもユレナの首なしの体を回収している。体の方も地獄へ持っていくようだ。


 地獄の獄卒たちはそれ以上用がないことを確認すると、ぞろぞろと地獄の門へと戻って行った。

 獄卒たちと罪人ユレナが門の向こうへ消えてから、地獄の門は消滅した。


「――地獄逓送(ていそう)、執行完了」


 白い聖者装束を翻し、インクイジターは踵を返した。


 これで当面のところ、グランルクセリアでの役目は終わった。

 もうひとりのヒロインについては、神が鐘を鳴らすまで保留である。













更新

【花ロマ】

・ヒロイン:ユレナ ✖処刑完了 ←New!

・悪役令嬢:ディアドラ ♡♡♡他国の大公とハッピーエンド進行中♡♡♡ ←New!

・攻略対象1:クリスティン王子 ✖失脚 ←New!

・攻略対象2:ダニエル

・攻略対象3:セイル

・攻略対象4:ロラン

・攻略対象5:リチャード


・モブ王女:エクリュア 次期女王に昇格 ←New!


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