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悪役令嬢VS黒ヒロインVSインクイジター【第二部連載中!】  作者: まつり369
第二章 トリップ・ガールズ・イン・アナザーワールド
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 朝になり、客間にやって来たのは儀式場で会った宰相シリングスと公爵令嬢ミラフェイナだった。


 宰相はリクとアミをソファに座らせ、自身は向かい側に腰掛けた。公爵令嬢はその横から謝辞を入れた。


「……リク様、昨日は大変失礼致しましたわ。殿下に代わってお詫び申し上げます」


 丁寧に頭を下げる美しい令嬢に、リクは疑問を呈した。


「何故あなたが謝るの?」

「そっ、それは……。わたくしは殿下の婚約者です。お諫めできず申し訳ありません」


 リクの隣でアミが驚きの声を上げた。


「あの王子様、こんな美人の婚約者がいるのにリクにプロポーズしたの!?」


 信じられない、といった顔でアミはリクを振り返る。


「そのことなのだが……。リク殿は本当にコルネリウス殿下にご興味は……」


 遠慮がちに宰相が尋ねる。リクは首を横に振り「全く興味ありません」と返答をした。


「ふむ……」


 リクの反応に渋面を作る宰相の傍らで、控えていた公爵令嬢が咄嗟に口を挟んだ。


「わたくしに気を遣っていらっしゃるのでしたら、そんな必要はございませんのよ? 元よりわたくしはリク様にお仕えする身。喜んで身を引きますわ」


 ミラフェイナは精一杯の作り笑顔で提案したが、リクはあからさまに嫌そうな顔をした。


「そんな顔をなさらなくても……」


 リクは、よほどコルネリウス王子がお気に召さないのかと、ミラフェイナは思った。

 急に思い出したようにリクが尋ねる。


「待って。仕えるって何?」

「そのままの意味ですわ。わたくしと殿下は元々、召喚された勇者様にお仕えするはずでしたの」

「それなら私は勇者じゃないし、その必要はないわ」

「えっ!?」


 ミラフェイナが面食らう。


「そんなことより『光の乙女』について説明してほしい」

「そんなことって……」

「そうだよね。お仕事と報酬を確認するのは重要なことだよね」


 呑気にアミが言うが、実質その通りでリクも同意見である。


「『光の乙女』って何?」


「ふむ。では説明しよう。『光の乙女』とは我が国に古くから伝わる伝説の大聖女のことだ。闇を祓い瘴気を浄化し、怪我や病を癒やす力がある。桁違いのな」


「でもあなた方は勇者を求めていた」


「……確かにそうであるが、『光の乙女』であれば勇者と並んでも遜色のない存在であろう。勇者召喚には失敗したが、大聖女の降臨となればそれを補うには充分な働きが可能だ」


 答えにくい言い方を敢えてリクはしたのだが、一国の宰相ともなれば返答に隙はなかった。


「働き」


「もちろん働きに応じた報酬は我が国が保証する。基本的には王宮で生活してもらうことになろうが、ある程度の実績を積めば希望の地に住まうことも可能となろう。それまではこちらの要請に従って頂きたい。それと残念ながら――」


 宰相はわざとらしく一呼吸置いてからアミを見た。


「アミ殿には魔術師団の寄宿舎に移って頂く」

「……っ」


 アミがびくっと肩を震わせて硬直するのをリクは見た。


「ご自分でステータスを確認されたならお分かりかと思うが、確認よろしいかな?」

「は、はい」

「君の有効なスキルは付与術のみ。これは間違いないな?」

「う……はい」


 口を濁らせながらもアミが肯定するのを確認して、宰相が続けた。


「君にもリク殿と同じく異界の神の祝福があるようだが、それだけではな。ただし唯一の付与術は五段階の五。それなりに希少ではある。だから魔術師団で引き取らせて頂くが、異論はないだろうな?」


「ありましぇん……」

「あるに決まってる」


 話を割り、リクが立ち上がる。ぐすんと涙目で返事をしたアミの前に立って宰相を正面から睨めつけ、その手に持つ紙を奪い取る。儀式場で鑑定士が二人のスキルを書き写した紙だ。異界人のスキルは極秘事項であろうが、相手がほかならぬリクであるからか宰相は動揺する様子もなく閲覧を促した。


「構わんよ。ご覧の通りだ。『光の乙女』よ、あなたとは比べるまでもない」


 宰相が口元を歪めて皮肉るのを無視し、リクはアミのスキル表に目を走らせた。やはり『異世界適用』の効果で文字も読めるようだ。



 アミ・オオトリ 異界人 十七歳 Lv.1

 職業 『学生(異世界)』

 称号 なし

 属性 無

 上位スキル なし

 スキル 『付与魔法・Lv.5』

 常時発動 『異世界適用』『幸運・神』『スキル無効効果無効』

 特殊 『――神の加護』



 確かにスキル数はリクに比べて圧倒的に少ないと言わざるを得ないだろう。

 数秒の間を置き、リクが低い声で口を開いた。


「スキルは数じゃない……」


「そうは言うがね、『光の乙女』よ。事実、付与魔法しかスキルがないではないか。これでは結果として何ができるのだという話である」


「何かおかしくないか?」

「も、もういいよリク。私、大人しく従うから……」


 アミも立ち上がり、思考するリクの袖を引いていた。リクは少し振り返り、アミの頭にぽんと手を乗せて口に弧を描いてから宰相に向き直る。


「宰相さんの目は節穴なの? この子の付与魔法は決して無効化されない。それにすごい幸運の持ち主。……彼女の存在は有用よ。私とアミは運命共同体。この子と離れるなら、私はこの国のために働く気はないわ。私のスキルがあれば、この子を連れてここを出るくらいできる」


 強く言い放たれた言葉に、さしもの宰相もたじろぎを見せた。


「え。……えっ」


 アミは途惑うようにリクと宰相を何度も交互に見ている。

 宰相は慌てて「分かった分かった」と音を上げた。


「はぁ……。勇者召喚に失敗したうえ、伝説の大聖女にまで逃げられたとあっては我が国の勢威は失墜どころではない。勘弁してくれたまえ」


「それで?」


 リクはなおも追尋する。うやむやにされないよう、口約束程度としても言質は取っておく方が良策だ。


「アミ殿も一緒に王宮での滞在を許可しよう」

「それじゃ足りない。アミのことも私と同列に扱うと約束して」

「同列? 大した力もなしに『光の乙女』と並べられて困るのは彼女の方では?」


 宰相の侮る表情を見てリクは瞼を伏せ、アミの手を取って踵を返した。


「そういうことなら私たちは出て行く。行くよ、アミ」

「――え゛っ!?」


 扉の方へ向かい出て行こうとする二人を見て、宰相は声を上げた。


「ま、待て! ……約束しよう。『光の乙女』と共にアミ殿も……ええと、そうだ。『異界魔術師』として公表するのはどうだ。二人同時にな。任務も二人で行ってもらう。待遇も平等にする……が、民草の反応までは約束できんぞ」


「それを操作するのが政府でしょう」

「ぐ……わ、分かった」


 宰相は拳を握り締め、リクの要求を呑んだ。






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