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悪役令嬢VS黒ヒロインVSインクイジター【第二部連載中!】  作者: まつり369
第十六章 判決・人

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 王宮・式典会場広間。

 ホールの中心に現れた扉のような形の光から、ぞろぞろと人が出てきた。裁判で証言をした人々だ。


 『法廷』の映像で裁判を見ていた貴族たちは、急いで駆け回った。


「グランルクセリアに、異端審問所裁判官(インクイジター)が現れた!」

「神々の審判と言うらしい」

「これは大ニュースだ!」


 目撃者が各国の新聞を賑わせるのは、時間の問題だった。


 しばらくして『法廷』を映し出していた映像が消え、術が解除された反動が『星河の巫女』カレン・スィードの手に伝わった。


「……白い世界樹が眠りについたのだ」

「およ。終わったっぽいねぇ」


 カレンが頷くと、騎士たちと睨み合っていたセミュラミデが戻って来た。


「ミュウ! もう、心配させないでなのだ!」


「え~。だってあの人、もう一人の『ヒロイン』なんでしょ? 危ないじゃん。先に突っかかってきたの、向こうだし。私、姉やんの護衛だしぃ」


 叱られながらも、何だかんだ心配してくれるカレンをセミュラミデは慕っていた。事実、戦いはダメと言いながら符術による付与でサポートしてくれた。


 たくさんいる巫女仲間のリーダーだ。ラビの指示でなくとも、彼女のことは守らなければならない。


 セミュラミデは、ちらりとリク・イチジョウの方を見た。カレンの神聖付与がなければ、一撃では倒せなかったかもしれない。


 ラビの話では、反則級のスキルがてんこ盛りらしい。同じ条件で戦ってみたいとセミュラミデは思ってしまうが、カレンには口が裂けても言えないだろう。


「護衛だからって、ミュウに何かあったら、私が困るのだ~! いきなり戦っちゃダメって、いつも言ってるのだ~!」


「あはは。ごめーん」


 頭をぽりぽりと掻きながら、セミュラミデはいつものように笑うのだった。




 一方、『法廷』から出てくる人々を見守っていたリクと公爵令嬢ミラフェイナ・ローゼンベルグ。なかなか目的の人物が出てこないことに気を揉んでいた。


「ディアとアミ様は、まだですの?」

「…………」


 証人として連れて行かれた人々や、あちらの姉妹作――『花と光の国のロマンシア』で攻略対象である第二王子たちも続々と出てきている。


 『法廷』の映像へ目を移すと、国王とインクイジターが何かを話していた。


「……分かった、準備をする」


 国王が指示を出すと、城の兵士たちが次々と集まってきた。


「な、何ですの?」


 ミラフェイナがぎょっとして構えたが、彼らの目的は別のようだ。


 続いて悲鳴が聞こえ、映像の中でユレナ・リリーマイヤーが燃えていた。




「――現れたぞ!」


 醜い悲鳴の音源が、白い炎と共にこちら側へ移動した。


 白い炎は、間もなく消えた。床に投げ出された罪人ユレナ・リリーマイヤーは、皮膚や髪やドレスの至る所が焼け焦げていた。


「捕らえよ!」


 国王アルベール・ルーセディオ・グランルクセリアの号令で、近衛兵たちがユレナを取り囲んで縛り上げた。


「いやっ……やめっ」

「大人しくしろ!」


 抵抗しようとしたユレナは兵士に殴られ、黙らされた。


「ち、父上!? 何故私まで!?」


 青い顔で兵士に槍を向けられていたのは、第二王子クリスティンであった。


 ユレナと第二王子は、近衛兵たちによって王の前へと連れて行かれた。

 それを壇上から見下ろすアルベール王は、冷たい言葉を吐き捨てた。


「王家の顔に泥を塗りおって」

「裁判をご覧になっていたのでしょう!? 私は、あの女に騙されていたのです!」


 第二王子はユレナを指差して懇願する。


 あの女呼ばわりされたユレナが、ショックを受けた顔でクリスティンを見ていた。しかし、クリスティンは見向きもしない。


「そのような言い訳が通じると思っているのか。どうやら、お前の教育を誤ったようだな」


 アルベール王が、溜息を吐く。


「陛下の代わりに私が説明しましょうか、お兄様?」


 国王の隣に座っていた第一王女エクリュア・ヴァイス・グランルクセリアが発言した。


 本来なら国王の隣は王妃の席であるが、亡き王妃にうり二つと言われているエクリュアだけが座ることを許されていた。


「お兄様は、自覚が足りなかったのよ。王族である以上、権力や王家の財産を狙って近付いて来る者は後を絶たないわ。婚約者のいる王族に近付いた時点で、相手の下心を見抜けなければ終わりね。王家にとって、獅子身中の虫となり得るわ。事実、お兄様はディア……忠臣であるフラウカスティア伯爵家令嬢との婚約を独断で破棄し、王家に損害を与えたわ。これを無視できるほど、王家も世間も甘くはなくってよ」


「し……しかし! 私は『魅了』に掛けられ……!」

「それを許すほど隙を見せた、お兄様の過失だわ」


「第一王女の言う通りだ。お前への処遇は、令嬢が戻ってからだ。先に罪人を処理しなければな。……のう、リリーマイヤー子爵」


 王の前に、すでにひざまずいている者がいた。


 リリーマイヤー子爵。ユレナの父親である。夜会には参加していなかったが、王命により裁判の(あいだ)に連れて来られていたのだ。


「パパ!?」

「このたびは、我が養女の不始末。誠に面目次第もございません……!」


 同じく裁判を見ていた子爵は、ユレナのしたことの重大さに震えていた。


「王子殿下に『魅了』を掛けて惑わすなど!」

(え……?)


 リリーマイヤー子爵は、ひどく狼狽していた。何も分かっていない無知なユレナは、可愛がってくれていた父親の豹変が理解できなかった。


 ユレナは子爵の美しい後妻の娘だ。魔力があるからともてはやされ、可愛がられていたはずだった。


「貴君は理解しているようだが、娘は分かっていてやったのか?」

「そ……そこまでは何とも……。学院に入学してからは、離れて暮らしておりましたので……」


 リリーマイヤー子爵は、冷や汗を掻いた。

 アルベール王は「そうか」と頷き、話を進めた。


「なるほど、子爵に監督責任があったかどうかは微妙だな。どちらにせよ、娘の行ったことは重罪だ。罪人を出した家門がどうなるか、分かっていよう?」


「……あ、あの娘はリリーマイヤーから追放します! 領地も返還し、賠償金もお支払いします! ですからどうか、私と妻の命だけは……っ!!」


 リリーマイヤー子爵は、床に頭を打ち付けんばかりに平伏した。


「わ、私を捨てるの!?」


 信じられないといった表情でユレナが声を上げるが、リリーマイヤー子爵から帰ってきたのは憤怒の視線だけだった。


「お前は何てことをしてくれたんだ! 王族の方々に対する精神干渉系魔法の使用は、重罪だぞ!! これほど馬鹿な娘だったとは!!」


「……っ!」


 学院におけるユレナの天真爛漫という評判はよく言ったもので、無知無学が本来の姿であった。











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