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悪役令嬢VS黒ヒロインVSインクイジター【第二部連載中!】  作者: まつり369
第十四章 ヒロイン裁判・Ⅰ 後編

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2  ★


「さぁ鑑定士殿。残るは、あと()()である」

「二人……ですか」


 鑑定士ヒューベルトが反芻して尋ねた。最初に指定された男たちの鑑定は全員、完了している。


「残る問題は、()()彼らに『魅了』を掛けたのかということであろう?」

「……では、ここで被告人の鑑定を?」

「――――!!」


 さすがに今ので詰めの段階であることを悟ったのか、ヒロイン・ユレナの心の声が必死な様相を呈してきた。


(まずいまずいまずいまずいまずいわ……っ。何でバレてるのよ!? あいつ、自分も『鑑定』を持ってるって……。じゃあ、最初から知ってたってこと!? それで学院でのことも調べて……っ。何よ何よ、何でヒロインの私がこんなことになってるのよ! ありえないありえないありえないわ……ッ!!)


 インクイジターに全て筒抜けであることも知らずに、ユレナは醜い思考を重ねた。

 愚かな思考の末、誰かに怒りや憎しみを持っていくのはよくある流れであった。


「こ……こんなのおかしいわよ! あの女が、私を陥れるために仕組んだことよ!! みんなっ、騙されないで! 全部、全部その女が!!」


 興奮したユレナが恐ろしい形相で、傍聴席の奥にいる伯爵令嬢ディアドラ・フラウカスティアを指差した。


 完全に予想通りである。


「……というリクエストがあるだろうと思ってな。お望み通り、あちらの令嬢を先に鑑定してもらおう」

「分かりました」

「よろしくお願い致しますわ」


 ディアドラは自ら席を立ち、恭順な姿勢で鑑定士の元へと赴いた。

 ヒューベルトは伯爵令嬢の額に手を翳し、彼女の鑑定を容易に行った。


 やがて証明書に一連の確認事項を該当なしと記入し、自身の署名をしてインクイジターに渡した。

 鑑定書を受け取ると同時に、インクイジターはヒューベルトに説明を求めた。


「皆に分かるように結果を」


「はい。フラウカスティア令嬢は該当のスキル及び、どの近似系統スキルも持っていません。ただ彼女は殿下方と違い、『魅了』を受けていません」


 鑑定を終えたディアドラは一礼すると、黙って傍聴席へ戻って行った。大人しく沙汰を待つつもりなのだろう。良い心がけだと、ラビは思った。


「ちょっと、何で誰も何も言わないのよ!? 『魅了』に掛かってないなら、その女が怪しいってことじゃない!」


 ユレナが被告席で地団駄を踏んでいる。

 自分を棚に上げてよく言えるな、とラビは思った。


「それは汝の鑑定結果を見てからの判断である」


 ラビはもう『混沌の竜眼』でユレナを見ているため、正確には他の者に鑑定結果を()()()からという意味になるが。


 インクイジターの言葉を受け、ヒューベルトが被告席に近付く。


「……い、いやっ」


 ユレナは後ずさるが、被告席の結界からは出られない。


「――『鑑定』」


 その鑑定を『法廷』の中にいる者も、外側の者たちも、誰もが固唾を呑んで見守った。

 ヒューベルトは迅速に仕事をし、すぐに鑑定は終わった。


「こんなことがあるのですね」


 最後の鑑定書をインクイジターに渡しながら、ヒューベルトは若干引き気味にユレナを見た。

 インクイジターは受け取った鑑定書を見もせずに、深く頷いて微笑した。


「では鑑定結果を聞こうか」


「被告人が『魅了』スキルを保有していることを証明致します。また、彼女自身は『魅了』等の精神干渉系スキルに一切掛かっていません」


「決まりだな」


「……っ、持ってたら何だっていうのよ! 私がみんなに魔法を掛けた証拠にはならないわ!! みんなに対してそんな卑怯なこと、私は絶対にしないわ!!」


 ユレナは自分の胸に手を当てて熱弁を揮う。


(そうよ。スキルを持ってるだけじゃ証拠にはならないわ!)


 ユレナは強気な瞳でインクイジターを睨み返す。


「何度も言ってるけど、ディアドラ様が伯爵家の力を使ってスキルを持つ人を雇ったんだわ。それをみんなと親しい私がやったように見せかけて、私を陥れたのよ!」


 攻略対象の男たちへのポーズもあるのだろう。この期に及んで言い逃れしようとするメンタルだけは凄まじいとラビは思った。


「ユレナ……。君は知らないのだろうが……」

「セイルっ!?」


 おもむろに声を掛けたセイルは苦虫を噛み潰したような表情をしている。そんなことにも気付かないユレナは、パッと表情を明るくしてセイルにおもねる。


「やっぱりセイルは私のこと信じてくれるのねっ。お願い、みんなを説得して……」

「……百万人に一人だ」

「え?」


「『魅了』を始めとした、精神干渉系のスキルは希少なんだ。統計的に、百万人に一人と言われている。フラウカスティア伯爵家が雇ったというが、そもそもそのスキル持ちを探し出すのが困難なんだ。見付かったとして、そういう人たちは各機関や国家に囲われて存在が秘匿されるだろう。放置するのは危険だからね。……分かるかい? 無理なんだ。完全にゼロじゃないかもしれないが、君の言っていることは極端に可能性の低いことなんだ」


 滔々と話して聞かせるところは、さすがは知識の神の祝福を得たオズモンド侯爵家の嫡男といったところだろう。男たちのなかで『魅了』の効果が一番薄れているのも彼だ。


 セイルが味方でないと分かると、ユレナは態度を一変させる。


「な……によ、それ。百万人に一人!? そんな訳ないわ。『ヒロイン』はみんな持ってるわよ!」

「ヒ、ヒロイン? 何の話だ?」


 まさかのユレナに噛みつかれて、セイルが戸惑っている。


「令息の話は本当だ」


 と、インクイジターが助け船を出した。


「この世界では希少な凶悪スキルを持つ者たちを、バランスも考えずに送り込み続けているのが異世界の神ではないか。汝ら『ヒロイン』が、その手先であることは分かっている」


 ユレナを真っ直ぐ指差しながら、インクイジターが冷徹な眼差しで()め付ける。


「あ……あなた、さては転生者ね!? 『ゲーム』なんて言うし、さっきからおかしいと思ってたのよ!」


「え……っ」


 これにはディアドラも気になっていたらしく、唖然としてインクイジターを見た。


 インクイジターは笑った。


「短絡的な思考だな。異世界を知る者が、転生者や転移者だけではないことを知るがいい。私の持つ異世界の知識は、神々に与えられたものだ。この世界に御座(おわ)す星海の神々は、汝ら『ヒロイン』の存在を許しておらぬ。(おか)した悪業(あくごう)の責任は取ってもらうぞ」


 話の流れが理解できず、クリスティン王子やダニエルたちが面食らっている。


「異世界!? ゲーム……転生者……?」

「ユレナたちは、一体何の話を……?」


 この場でユレナとインクイジターの話を理解しているのは、ディアドラだけだ。話に取り残されている男性陣たちは、ひたすら首を傾げている。


「責任? 知らないわよ! 悪いことなんてしてないもの!」


「ふはは。これだけの状況証拠を前に怯まぬとは、大したものだ。やはり、決定的な証拠を出さねば納得できんらしいな」


「っ!?」


 ユレナが焦った表情で口を噤む。


(あ……あるなら、何故最初からお出しにならないのです!?)


 傍聴席のディアドラが心の中でツッコミを入れたが、インクイジターは悪役令嬢の心は読めないので反応することはなかった。











ゲスヒロインの本性が剥けて参りました♡


挿絵(By みてみん)









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