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悪役令嬢VS黒ヒロインVSインクイジター【第二部連載中!】  作者: まつり369
第十三章 ヒロイン裁判の裏

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 『法廷』の様子を静かに観察していたリクが、ややあってかねてからの予測結果を口にした。


「あの審問官は、ヒロインの敵かもしれない」

「どういうことですの? ……リク様!?」


 言うが早いか歩き出したリクは、『法廷』の映像に向かって足早に進んでいく。


 その時、瞬間的に敵意を感じ取ったセミュラミデが動いた。


「姉やん、『四隅の目』ひとりでも維持余裕っしょ?」

「えっ、ミュウ!?」


 こちらも矢継ぎ早に言うと、セミュラミデは発動中の精霊魔法『四隅の目』への魔力供給を解いた。

 『四隅の目』とは今、別空間である『法廷』の様子を映し出している魔法のことだ。


「はッ……!」

「――!!」


 りぃん、と手足の鈴を鳴らして宙を舞った巫女少女の飛び蹴りを両腕でガードしたリクは、半ば驚いた視線を向けた。


 武器を手にしていない場合、リクは上位スキル『武術自在』のみが発動する。


 リクが驚いたのは、逆を言えば『武術自在』が発動したということは巫女少女の攻撃が本物だったということだ。十歳くらいにしか見えない、年端もいかない少女がくり出した大道芸のような技が。


 着地したセミュラミデが振り返る。カレンと『法廷』の映像は無事だ。セミュラミデの魔力がなくともカレンの高い魔力と神霊力があれば四隅の精霊は映像を維持するだろう。


「何するつもりか知らないけど、姉やんと映像には近付かせないよ」

「近付かせない……ということは、そこから中に入れるのか?」


 セミュラミデとリクが対峙する。


 双方の後ろで、カレンとミラフェイナがそれぞれ困惑を露わにしていた。

 ミラフェイナがリクの背中に追いつき、何事かと尋ねた。


「リ、リク様っ……! 一体……?」

「あれを見て」


 リクが映像を指差す。


 『法廷』内――ディアドラがいる左側傍聴席の最後列。その後ろで身を低くしてコソコソしている人物がいた。


 赤みがかった茶色の髪に、ミラフェイナが見立てた黄色のドレスを着ているとなれば彼女しかいない。


「えっ……、アミ様――――――――――――ッ!?」


 何故そこに、とツッコんだミラフェイナは驚きすぎて白目を剥きそうになった。


 どうやら座席の背もたれが陰になっていて、『法廷』内の他の人間には気付かれていないようだ。


「どうしてアミがあそこにいるの?」

「……!?」


 その答えを、セミュラミデは持っていない。チラリとカレンの方を振り向くが、カレンも首を振った。


 ミラフェイナが正気に戻って可能性を検討した。


「まさか……アミ様は『花ロマ』の関係者だったのでしょうか?」

「それならディアドラさんみたいに白い炎に包まれていたはず」


「た、確かに。あの瞬間はディアに目が行っていましたが、近くであの炎がもう一つ現れていれば、わたくしたちが気付かないはずはありませんわ」


 リクはミラフェイナに頷き、セミュラミデとカレンたちの方へ向き直る。


「そっちが誘拐したとしか思えない」


 リクに強い視線で睨まれたセミュラミデが若干たじろいだ。


「いや誘拐って……兄やんが?」

「そんなはずないのだ。聞いてないのだ!」


 つい『星河の巫女』モードが崩れたカレンが声を上げる。

 反射的に「これはまずい」と思ったセミュラミデは、構えを取ってリクを牽制した。


「裁判が終わるまで待ったら? どうせ全員戻って来るんだし」

「あの子はこの裁判に関係ないはず。今すぐ返して」


 リクも『武術自在』を使って構えた。ただならぬ雰囲気に、ミラフェイナが息を呑む。


「リ、リク様っ。どうなさったのですか? もしかしてアミ様は、ディアに巻き込まれて行ってしまったのかもしれませんし……」


「あの子なら……その可能性もあるけれど、無関係だと分かったなら返すべきだ。そうしないなら……力ずくでも通させてもらう」


 リクはアミのこととなると、いつも頑なだ。自分には止められないと、ミラフェイナは悟る。


 しかし、譲れないのはセミュラミデも同じだった。


「……悪いけど、この『法廷』は今、最強ニキ様の庇護下にあるからぁ~。誰も手出しさせないよっ!」


 セミュラミデがすぅ、と息を吸うと、『輝虹闘士(オーラマスター)』の上位スキル『星雲気功(ネビュラ)』と『硬化』が発動する。


 相手が引き下がる気配がないと見るや、リクとセミュラミデは同時に床を蹴った。




「――もぉ、しょうがないのだ!」


 突っ走っていくセミュラミデの後方で、カレンが懐から符術の法札を取り出した。それに神霊力を篭めて飛ばす。

 すると法札は光の鳥に姿を変えて電光石火の如く飛び、回敵寸前のセミュラミデの背中に張り付いた。


「『三聖の祝福』を!」

「よっしゃぁ!」


 符術とカレンの神霊力を介して創世三神の祝福を得たセミュラミデは、莫大な輝虹(オーラ)と速度を伴ってリクの懐に掌底を叩き込んだ。


「…………ッ」


 輝虹とは、気功が昇華した上位の気功である。その鉄槌をまともに受けたリクは弾かれるように、反対側に吹き飛んだ。


 招待客たちの悲鳴が上がる。


「な、何だ!?」

「何が起こった!?」


 王宮の近衛隊も混乱して右往左往している。


 カレンが行ったのは符術を使った付与だ。


 付与を受けたセミュラミデの全ステータスが倍加したのを、リクは間近で感じ取っていた。

 スキル『見切り』を持ってしても防ぐことも避けることもできなかった。


「かはッ」


 リクはワインテーブルをひっくり返してさらに向こうの壁に激突する手前で、レンブラントに受け止められていた。


 王都の神殿からリクの護衛として来ている神殿騎士、レンブラント・ラッハだ。


「すまない、反応が遅れた。大丈夫か?」


 こちらを気遣うレンブラントの声は、リクには遠く聞こえた。


「あの力……」


 リクが霞む目で見たのは自分を吹き飛ばしたセミュラミデではなく、彼女に力を与えた存在――カレンだった。


 鮮やかな躑躅(つつじ)色の髪。赤毛なところがアミと共通しているように思わせる。


「……アミと同じレベルの付与が、ほかに、も」

「どうした? 何か言ったか? ……おい」


 レンブラントの腕の中で力を失ったリクは、自身に回復魔法を掛ける精神力もなかった。辛うじて意識を保つのに精一杯だった。


「だい、じょう……ぶ」

「もういい、喋るな」


 相手の技が完璧に入ったのを、レンブラントも見ていた。気絶していてもおかしくないダメージのはずだ。

 リクが何故これほどまでに強い意志を保てるのか、レンブラントは不思議で仕方がない。


「――これはどういうことですかっ!?」


 その時、護衛に止められながらもリクの姿を見て飛び出して来た男がいる。南のオルキア公国第三王子マティアス・ロックス・オルキアだ。


 さらに、騎士団を連れた大柄の男アウグスト・クレイシンハも合流した。


「リ、リク殿っ……! 一体、何があった!?」


 ダメージを負ったリクを見たアウグストは狼狽して辺りを見回す。


「敵襲か!? どこの勢力だ!?」

「いや……。あの巫女だ」

「あの赤い髪の!?」

「違う。子供の方だ」

「!?」


 アウグストは耳を疑い、ぎょっとした。


「聞き間違い、ではなさそうだな……」


 神殿騎士であるレンブラントは、アウグストよりも聖地の聖者や五大巫女について詳しかった。


「あの子供は五大巫女の一人、『無限の巫女』だ。無限の力を持つ戦神ギハット・ゼアーの祝福を持つ。おそらく、俺やお前でも一筋縄ではいかんだろう。……今の『聖女の器』には、無理だ」


 レンブラントは動けないリクを見ながら言う。


 リクは指一本動かせなかった。あの巫女少女の技を受けたせいだろう。


 スキル『超回復』はとうに発動し、その役目を終えた。『超回復』では外傷しか治せない。リクが動けないのは、肉体の内側から気の流れをめちゃくちゃにされたからだ。


「しかし、何故その巫女とリク殿が?」


 腑に落ちないといった様子で、アウグストは巫女たちを注視しながら呟いた。


「分からん。俺には『聖女の器』が、あの映像に近付こうとして攻撃されたように見えたが」

「どういうことだ?」


 それ以上は、とレンブラントは首を振る。


「隊長っ、どうしますか!?」


 連れて来た騎士団員たちがアウグストに指示を求める。


 アウグストは相手が巫女たちであることに多少動揺もしたが、リクを傷付けられては引き下がることなどできない。


 前へ出たアウグストは剣に手を掛けないまでも、セミュラミデとカレンを厳しい視線で威圧した。











こちらのイラストは、ここのシーンでした。いかがでしたか?


挿絵(By みてみん)









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