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悪役令嬢VS黒ヒロインVSインクイジター【第二部連載中!】  作者: まつり369
第十三章 ヒロイン裁判の裏

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 時は少し遡る。


 インクイジターが開廷を宣言した直後、子爵令嬢を捕縛していた魔法は消え、インクイジターも姿を消した。


 あれだけの騒ぎを起こした中心人物たちが消えたことで、夜会会場はたちまち客たちの喧噪に包まれた。


「ディアドラ……さん?」


 白い炎に焼かれたディアドラが、炎の揺らぎのままに消えていくのをリク・イチジョウは目の前で見た。


 リクの呟きを聞いて振り返った公爵令嬢ミラフェイナ・ローゼンベルグが、親友の姿を探す。


「ディア……? どこへ……?」

「分からない。急に……」


 リクたちが驚いていると、招待客の誰かが叫んだ。


「王子たちもいないぞ!」

「一体、どうなってるんだ?」


 数分前までメロドラマを展開していた一団が忽然と消失したのだから、混乱するのは無理もない。リクも何が起こったのか分からなかった。


 王子の護衛騎士たちが慌ただしく走り回る。


「――みなさん、落ち着いて下さい」


 人々のざわめきの中へ挺身したのは、アザレアの髪色をした星河の巫女カレン・スィードだった。玉のような美貌に純白の巫女装束を翻し、四肢に付けた儀式用の鈴をしゃらりしゃらりと鳴らしながら、第二王子たちがいたはずの騒ぎの中心へと進み出る。


 鈴の音の効果もあってか、騒いでいた人々や護衛騎士までもが動きを止めてカレンを見た。


「彼らはインクイジターと共に、裁判が行われる空間……『法廷』へと移送されました。身の危険はありませんので、ご安心下さい」


 正体が分かれば、人々はあっさりと納得するものだ。カレンが説明すると、招待客や護衛たちはひとまず落ち着いたようだ。


「あ、あのっ。ディアは……っ、大丈夫ですの? わたくしの友人も消えてしまって……」


 ミラフェイナは巫女と面識もなかったが、親友の安否を気にして身を乗り出すように尋ねた。


「裁判が終われば、ここへ戻って来ますよ」

「それならよかったですわ」


 カレンの言葉に、ミラフェイナはひとまず胸を撫で下ろす。


「……本当に戻って来るのか?」

「はい。証人となった方たちの安全は、神殿が保証します」


 見ると、煌びやかな祝賀会場に不釣り合いな黒衣の男が同じく巫女に話しかけていた。黒毛皮の外套に、細やかな装飾のスーツ。ひと目で上等だと分かる装いだ。


「……知り合い?」


 ミラフェイナが黒衣の男を凝視しているので、小声でリクが尋ねた。


「い、いえ。知らない方ですわ。『花ロマ』キャラの関係者かしら?」

「そう」


 ミラフェイナが知らないなら、リクに分かるはずもない。


 公爵令嬢として国の有力貴族の顔や名前を頭に叩き込んでいたミラフェイナでも、男がどこの家門の人間かは分からなかった。


 思案するミラフェイナの肩へ、リクがぽんと手を置く。


「無事なら、それでいい」

「そ……そうですわね。でも裁判だなんて……気になりますわ」


 ディアドラは第二王子に婚約破棄され、断罪寸前だった。


 リクは見た事実だけを述べた。


「縛られていたのは、ユレナって人の方だった気がするけれど……」


「それなんですの! もう訳が分かりませんわ。婚約破棄まではゲーム通り……あ、いえ。時期が違いますわね。本当の婚約破棄は、卒業パーティーのはずでしたわ。『花ロマ』のシナリオも変わってしまったのかしら? えーん、分かりませんわ!」


 考えても分からないミラフェイナが、半泣きでうろたえだす。


 乙女ゲームのことをよく知らないリクに聞かれても困りものだが、断罪イベント自体はユレナという人物が自ら事を()いたのだと王女のお茶会で言っていたとリクは記憶していた。


「とにかく、何かあったら私たちでディアドラさんを守ろう」

「え、ええ。わたくしたちがしっかりしなくては」


 ミラフェイナは落ち着きを取り戻し、リクがいてくれてよかったと思った。




「……」


 彼女たちの話を横目で聞きながら、黒衣の男もその場で待つことにした。






 その時、王の席がある雛壇の方もにわかに騒がしくなっていた。


 この国――グランルクセリア国王アルベール・ルーセディオ・グランルクセリアが、狼狽を隠せない様子で頭を抱えていた。


「ちちう……陛下。冷静に……っ」


 側にいた年若い第一王女エクリュア・ヴァイス・グランルクセリアが宥めるも、国王は興奮を抑えることができない。


 国を異端審問所裁判官(インクイジター)が訪れたというだけでも懸念される材料になるというのに、王族が処断されたとなれば国内外に対して大きな汚点となるのは間違いない。


「まさか……第二王子が異端審問にかけられただと!? こんなことが他国に知れたら、我が国は……ッ」

「い、いえ……! それは違います、国王陛下」


 同国王都の神官であるカルマンが慌てて壇に近付き、許可を得て国王に耳打ちした。


「実は私がラビ審問官から聞いた限りでは、今回審問にかけられたのは……」

「…………何!?」


 国王は被告人の名を聞いて訝しげな顔をした。


「たかが子爵令嬢が、何故?」


 言わずにおいた続きの言葉は、何故そのような大罪をということだ。


「ラビ審問官が仰るには、世界を滅ぼす可能性のある者が各地に出現していると……。それはほとんどが女性で、共通するキーワードは『ヒロイン』? ということでした。私もよく分かりませんが……」


「『ヒロイン』!? 何だそれは? くだんの子爵令嬢が、その世界を滅ぼす者だというのか?」


「確証はありませんが、審問官が仰っていることですし……。それに、聖地のツクミト大神官様からの指図書もあり……、私ども神殿としては従うよりほかはないという意向です。それで……」


 神官と国王が話している。


 広間のホールを反響し、国王が強い口調でくり返して訊いたその言葉だけはっきりと聞き取れた。


「…………っ」


「陛下方は何をお話しになられているのでしょう? ……今、『ヒロイン』と聞こえた気がしましたけれど……」


 ミラフェイナがリクの隣で頬に手を当て、首を傾げている。


「……ミラにも聞こえたの?」

「ええ。まさか、陛下が転生者なんてこと……。ある訳ありませんわよねっ」


 わたくしったら変なことをと言って、ミラフェイナは「おほほ」と笑った。

 彼女が聞こえたのならとリクは顔を上げて特定の人物を探したが、見当たらなかった。


「…………アミ?」


 リクはすぐに周囲を見渡し、その人物が好きな甘味のケーキテーブルの方も確認したが、やはり姿がない。


「待って。……アミがいない」

「えっ!? またですの!?」

「……また?」


 他人には気付かれないレベルで、リクはその単語に反応した。


 ミラフェイナはリクがアウグストと連れ立って広間を抜け出した時、アミもいなくなっていたことを話した。


「あれから、リク様とアウグスト様のことが気になってわたくしも後を追ったら、庭園で合流したのですわ」


 人差し指を頬に当て、思い出すようにミラフェイナは語った。

 庭園でリクが彼女たちと再会した時、アミはお菓子の袋をたくさん持っていた。


「またどこかでお菓子でももらっているのかしら? 新鮮なフルーツをふんだんにあしらった、ここの豪華なケーキでも満足できないなんて……どんな食いしん坊さんですの? もう……」


「そういうことか……」


 はあ、とリクは盛大な溜息を吐いて首を振った。


「とにかく探そう。あの子をひとりにはしておけない」

「あら♡ リク様は心配性ですのね」

「……あの子よ?」

「ふふ、気持ちは分かりますわ」


 にこにこ笑いながら、ミラフェイナが言った。










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