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悪役令嬢VS黒ヒロインVSインクイジター【第二部連載中!】  作者: まつり369
第十二章 ヒロイン裁判・Ⅰ 前編

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5  ★


 ユレナが動揺している間に、インクイジターは次の手に移った。


 いつの間にか移動していたインクイジターが、傍聴席の前でわざとらしい声を上げるのを全員が聞くことになる。


「おやおや。これはどうしたことか?」

「……ッ!?」


 被告席の後ろにある傍聴席の前列には、『花ロマ』攻略対象以外のユレナ信奉者たちが固まって座っていた。


 同じくそこにいたある色男に接近したインクイジターは、驚いた演技をしながら振り向いてウォルターに尋ねた。


「ジンデル子爵令息。彼を知っているか?」

「はい。姉の元婚約者――エリック・バードランです」


 名前を言われたエリックは硬直し、法廷に招かれていた全員が彼を見た。


 そこで、誰もが信じられない光景を目にする。


「……汝、何故泣いている?」


 エリックは目を見開き、自分の頬に手を触れた。

 濡れている。涙だ。紛れもなく両目から零れ伝い落ちたものだ。


「泣いて……いる? 俺が……」


 エリック自身にも分からないようだったので、インクイジターは客観的に指摘した。


「分からぬなら、教えてやろうか? 汝がそうなったのは、ジンデル子爵令息の話に出てきたナタリアの言葉を聞いてからだ。……少年。もう一度言ってやってはくれないか?」


「……分かりました」


 ウォルターは悔しそうに顔を顰めたが、インクイジターの指示通りにした。


「姉は、ナタリアは。あの人をよろしくって言いに行ったんですよ。エリックさん、あなたのために。……くっそ。もう言いたくない……」




 ――あの人をよろしく――




 再び紡がれた慈愛の言葉に、エリックの目からは更なる涙が零れ落ちた。


「何だ……これは。俺はもう……何の未練も……。ない、はず……」


 途惑うエリックの横で、インクイジターは不敵に妖艶な笑みを見せた。


「本人の意志と関係のない症状のようだ。これは精神汚染の可能性がある。故に、裁判官権限により新たな証拠の採用を要求する」


「――何かな?」


 すると今までにこにこ座っていただけの裁判長リネン聖者が、子供の顔で首を傾げた。


「鑑定士を要求したい。私自身も鑑定スキルは持っているが、私が鑑定したのでは公平性に欠けるであろう。よって、この国の鑑定士を借りたい」


「ああ、それくらいならいいよ~」


 リネン聖者がヒラヒラと手を振り、許可を出す。

 インクイジターは頷き、外の世界に繋がる小画面を呼び寄せた。


「国王よ、頼めるか?」


 突然話を振られて返答がやや遅れたが、しばらくしてグランルクセリア国王が画面越しに答えた。


『わ……分かった。鑑定士程度、お安いご用だ。どうすればよい?』

「指定の鑑定士を、『四隅の目』へ近付けて下さい」


 しばらくすると、『法廷』内に白い炎がひとつ出現し、一人の男を吐き出して消えた。

 国王が寄越した鑑定士だ。彼はこの国の鑑定士として要職に就いている貴族だった。


 転送されたと分かった彼は『法廷』内部を見回して二の足を踏んでいたが、数秒後に我に返ってインクイジターの元へと駆け寄った。


「も、申し遅れましてすみません。私は王宮鑑定士のヒューベルト・シュタインクロスと申します。王命により、参じました」


 敬礼する鑑定士に、インクイジターは喜色満面で出迎えた。何故そのように楽しげなのか、ヒューベルトにはさっぱり分からなかった。


「ご苦労」

「私は被告人の鑑定を行えばよろしいのですか?」

「いいや?」

「では誰を……」


 インクイジターはピタリと止まって振り返る。


「被告人……の、まわりにいる男たちだな」

「はぁ」

「――…!!」


 事情を知らないヒューベルトは生返事をしただけだったが、全てを知る()()は顔面蒼白になっていることだろう。


 それをよく理解しているインクイジターは、少しずつ相手を追い詰めにかかる。


「まず手始めに、そこの学院生……エリック・バードランを頼む。精神汚染の兆候が見られるのだ」

「承知しました」


 鑑定に入ろうとするヒューベルトの肩を叩き、インクイジターは敢えて念を押す。


「状態異常がないか、念入りにな。それと鑑定後、その場で証明書を書いてくれるか?」

「かしこまりました」


 ヒューベルトは持参した白紙の書類とペンを用意し、指定された人物――エリック・バードランの前まで行き鑑定スキルを発動させた。


「『鑑定』」


 エリックは傍聴席に座ったまま、抵抗もせず鑑定を受けた。


 その間も涙は流れ続け、エリックは未だに全てが信じられないような顔で状況を見守っていた。


「俺は……。何故……、こんな……?」


 ラビは彼を幾分か哀れに思った。ひとつ綻びが生まれれば、それは全てが崩れ去る予兆となる。

 霧が晴れた時、果たして彼は堪えられるだろうか。


 だが、インクイジターは天の法を執行するのみ。




 鑑定していたヒューベルトの呼吸が、ある時変わった。


 気付いたか、とインクイジターは悟った。


 ラビの読み通り、ヒューベルトは白紙の証明書にペンを走らせた。しばらく紙面を走る摩擦音を響かせた後、ヒューベルトは自身の署名をして鑑定を終えた。


「何か分かったか?」


 意味深な笑みを浮かべるインクイジターに証明書を渡しながら、ヒューベルトは答えた。


「……はい。仰る通り、彼は何者かに精神干渉を受けています。『魅了』の魔法に掛かっていることを、証明致します」


「ほほう。『魅了』とな」


 証明書を受け取り、インクイジターは我が意を得たりと微笑んだ。


 『花ロマ』の攻略対象であるダニエルたちも、これには不思議に思ったようだ。


「どういうことだ? エリックはどうしたというのだ?」

「さぁ……」

「『魅了』……だって?」


 『花ロマ』攻略対象のなかで、セイルだけが何かを察したかのような顔で固まっている。

 これで終わりではないことを、彼らにも説明しなければならないだろう。


 インクイジターは、鑑定士ヒューベルトに呼びかけて言う。


「実は他にも被害者がいる可能性があってな。彼ら全員の鑑定と証明を頼めるか? 人数がある故、骨が折れるかもしれんが……」


 インクイジターが指し示したのは被告人の弁護を請け負うダニエルや第二王子たち五人と、エリックの周囲に座っているその他のユレナ信奉者たち全員だ。ざっと二十人以上はいるだろう。


「いえ……。要請とあらば」


 驚きつつもヒューベルトが頷いたが、指されたダニエルたちは困惑した。


「一体、何を言っている? 我々にも鑑定を受けろというのか!?」


「可能性の話だ。エリックと同じ対象に心を奪われている者で、同じく『魅了』を受けていたのなら被害者とならないか? もちろん汝らは、そうでないことを祈っているが」


 思ってもいないことを、インクイジターは語る。


「同じ対象……って」


 さしもの熱血漢ロランも勘付いたようだ。


 インクイジターは、妖艶な笑みでその対象を指す。


「そう。被告人ユレナ・リリーマイヤーである」










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