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悪役令嬢VS黒ヒロインVSインクイジター【第二部連載中!】  作者: まつり369
第十一章 断罪イベント

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5  ★


「では異端審問を始める前に、こちらの二人を紹介しよう。『星河の巫女』カレンと、『無限の巫女』セミュラミデだ。彼女らには、天上界と地上の橋渡しをしてもらう」


 二人の巫女がラビの後ろでお辞儀をする。貴族令嬢のそれとは異なる巫女の礼は、静謐さと神への忠誠を表す礼儀正しさに神秘さという輝きが上乗せされ、見る者を惹きつける。特に貴族しかいないこのような夜会の場では、物珍しさも加わり効果は抜群だ。


「巫女様……だって? 本物か?」

「そうだ。神殿を滅多に出ないと聞いたが」


「私はアシュトーリアの聖地に行ったことがある。あの鮮やかなアザレアの髪は間違いなく『星河の巫女』様だ!」


「じゃ、じゃあ本当に『星河の巫女』様と五大巫女様? 何て神々しさだ」

「それはつまり、あのインクイジターも本物ということ……」

「大変だ……!」


 周囲がいい感じにざわついてきた。大衆はこういう時に想定内の反応を見せてくれるため、ラビは非常にやりやすかった。


(ちょ……ちょっと、何よ。あの女と女児はッ! ヒロインの私より目立つなんて! ナントカの巫女? そんなモブ、知らないわよッ! 私がヒロインなのよ!?)


 ユレナの嫉妬丸出しの心の声も予想通りすぎて、ラビは清々しさすら感じた。


「自己紹介はこのくらいにして、始めるか」


 ラビは二人の巫女と目配せし、カレンとセミュラミデは頷いた。


「インクイジターの権限により、異端審問の開廷を申請する」


 ラビの言葉を受け、カレンとセミュラミデがその場にひざまずいた。両手を組み、祈りの姿勢で言葉と意識を天に向ける。


 彼女たちが動作をするたび、手首や足に付けられた鈴がリィン、と響き渡った。


「申請を星の海へ奏上。『此方より、彼方へ』」

「『此方より、彼方へ』」


 短い詞ではあるが、天界へ呼びかけるための祝詞でもある。印を組む動作で鳴る鈴の音と共に、音が空へと昇っていく。


 カレンたちの足元から徐々に光の粒が立ち上がる。やがて粒子は巫女たちの頭上に集まり、ポータルを開くエネルギーとなっていく。


 霊感や神霊力を感じる能力のない野次馬でも、何かを肌で感じて沈黙していく。


 しかし、盲目な第二王子たちが口を噤むことはなかった。


「異端審問……だと? ふざけるなッ! 清らかで美しいユレナ嬢に、一体何の罪があるというのだッ!?」


 クリスティン王子は瞋恚に燃えて怒鳴り散らした。パーティー客たちは、あまりのことに誰もが目を剥いている。


 ラビは懐から書類の束を出し、語り出す。


「では説明しよう。……ユレナ・リリーマイヤー。汝には『運命改変』の嫌疑がかけられている。余罪もいくつか。証拠は私の足で集めた汝の素行の報告書と、ここにいる()()()()()全員。それから、あちらにいる少年、ウォルター・ジンデル子爵令息だ」


「い、生ける証人?」


 第二王子たちは何のことだか分からない様子だ。


「ウォルター……ジンデル?」


 名前を呼ばれたウォルターが、カルマン神官から離れて一歩前へ出た。それを見たユレナ信奉者の一人、エリックが僅かに反応した。


(あ……あのガキ!)


 同時に、ユレナもウォルターを見て嫌な記憶を思い出す。学院で、エリックに会いにユレナのクラスまで来た中等部の生徒だ。その時、ユレナのことを「複数の男をたぶらかすビッチ」だと罵倒したのだ。ユレナにとっては許しがたい出来事だった。


 しかし、ユレナはあくまで平静を装って笑顔さえ見せる。


「う、運命改変って何よ。ま……まさか、あなたが私を告発したの? それは誤解です、神官様っ」

(ふざけんじゃないわよ! あのガキ、絶対タダじゃおかないわよ!)

「ひ……っ」


 ウォルターがユレナの視線を感じたのか、一瞬萎縮した。ラビと違って心の声が聞こえる訳でもないウォルターが、どのようにユレナの本性に気付いたというのだろう。実に面白いと、ラビは思った。


 インクイジターは磔にした被疑者に視線を戻す。


「身に覚えがないと?」

「はいっ。私は神に誓って悪いことなんてしてません!」


 ユレナはいつものヒロインの仮面を被りながら、自信たっぷりに答えた。


「そうか? しかし、私の提示した証拠は天に認められたようだぞ」


 ごうっと白い炎が燃え上がり、インクイジターの用意した冊子を呑み込んだ。


 炎は同時にいくつも発生し、第二王子と攻略対象、エリックやその他のユレナ信奉者たちにも燃え移る。


「うわぁっ!? 何だこれはっ!?」

「ああっ……え? あ、熱くない?」

「これは一体……?」


 第二王子たちは困惑している。


「あ……っ」


 同じく白い炎に包まれたウォルターは、燃え上がる自分の体を見つめて目を瞬かせた。

 そして少し離れた位置で衛兵に捕まっていた伯爵令嬢ディアドラも、突如白い炎に包まれた。


「ディアドラさん!?」

「ディアっ!?」


 そばにいたアミとミラフェイナが驚きを露わにする。それは衛兵も同じだった。


「――うおっ!?」

「離れて!」


 リクは隙を見て衛兵に体当たりし、ディアドラから引き離した。


「ディアドラさん、大丈夫!?」

「え、ええ。でも、これは……っ!? 私も……?」


 ディアドラは燃え上がる自身の白炎を見て、一体何が起こっているか分からない。


 炎に包まれているのは第二王子以下攻略対象らとユレナ信奉者たち。そしてディアドラと、インクイジターに紹介された少年ジンデル子爵令息。ほかにも人混みの中で立ち上っている白炎もちらほら見えた。


 不思議なことに書類も誰も灰になることはなく、ただ白い炎に焼かれていた。


「それは『真実の炎』。悪事の証拠が天に受理された記しである。言っておくが不十分な調査記録や証拠では、その炎は決して現れぬ」


「…………!!」


 白い炎に包まれている者全員が息を呑む。


「……さて、これで開廷できるか?」


 そう言ってインクイジターが振り向くと、巫女たちはすでにトランス状態で天界の返答を受け取っていた。


「――星海の承認を受諾」

「よし」


 インクイジターが片腕を広げると、彼の横に透明な半物質の羊皮紙が現れた。

 そこには、「異端審問の開廷を許可する」と書かれている。


 祈りを捧げていたカレンの目が開いた時、巫女の口を借りて神々の名が紡がれる。




 最初に目を開いたカレンの表情は、慈愛溢れる母のような顔だった。


「承認。大地母神アフラサーラク」


 大地の紋章が、判のように羊皮紙に刻まれた。大地母神は「偽物の愛を討て」という指令を下し、インクイジターを任命した神々のうちの一柱だ。




 次に目を閉じ、開いた時のカレンは公正な者の厳格さを兼ね備えていた。


「承認。真実の光アルヌール」


 羊皮紙に真実の紋章が光によって刻まれる。アルヌール神は、真実を司る光の神の一柱だ。




 カレンがまた目を閉じて開くと、今度は神秘的なオーラを纏った幽玄の美がそこにあった。


「承認。運命の女神エウリュメノア」


 羊皮紙に運命の紋章が刻まれた。織り込まれる複雑な印形は、まさに運命のように。




「ふはは。さすがは『星河の巫女』! 汝は、やはり本物だ」


 審問ごとに、どの神々が賛同してくれるかは分からない。承認印のこの並びは『運命改変』という罪状に、ますます真実味が増したようなものだ。これを引き寄せたのは、巫女の功徳の高さゆえだろう。


 ラビに絶賛されてもカレンは表情を変えない。まだトランス状態が続いているようだ。




 インクイジターが半透明の羊皮紙に手を伸ばそうとすると、黄金の稲妻が疾り、ラビの指先に痺れる衝撃を伝えた。


「……お?」


 すると、もう一人の巫女セミュラミデが立ち上がり、およそ十一歳の少女とは思えない猛々しい表情で羊皮紙を指差していた。


「承認。無限武神ギハット・ゼアー」


 羊皮紙に無限の紋章が、稲妻によって焼き印のように押された。無限武神もインクイジターを任命した一柱であるが、裁判への賛同はあまりないとラビは思っていたのだが。


「……これは、此度の法廷を守護して頂けるという思し召しかな?」


 ラビの問いに、セミュラミデはこくりと頷いた。


 無限武神はインクイジター任命時に「始末せよ」と指令を下した。『ヒロイン』やっちゃってよし、ということだ。インクイジターになる前の人形ラビが、ちょっと怖いとビビったやつである。




「では――」


 インクイジターはもう一度手を伸ばし、羊皮紙を掴むとそれは半物質から物質へと確定した。

 インクイジターは物質化した羊皮紙を広げ、ユレナたちの方へと掲げた。


「異端審問は、三柱以上の神々の承認を得て開廷する。……ここに、四柱の承認を得た。これより、ヒロイン裁判を開廷する!!」








更新


インクイジターサイドまとめ

★インクイジター:ラビ


お手伝い出張

・星河の巫女:カレン 17才

・無限の巫女:セミュラミデ 11才 五大巫女 ←New!


お留守番組 ※インクイジター第0話に出てます

・責任者:大神官ツクミト

・混沌の巫女:ヒルデナーダ 12才

・大地の巫女:ナディア 8才

・神門の巫女:キスカ 10才

・心泉の巫女:シプリス 9才




引き続き応援よろしくお願いします!

挿絵(By みてみん)










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