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悪役令嬢VS黒ヒロインVSインクイジター【第二部連載中!】  作者: まつり369
第十章 黒い計画と、それぞれの思惑と

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「うふふっ。私ってば、今日も可愛い♡」


 ユレナ・リリーマイヤーは、鏡に映るピンク色の髪の美少女に溜息をもらした。ファンシーなレースとリボンの編み込まれたドレスは、第二王子からの贈り物だ。


 前世より格段の美少女に転生して、ユレナは非常に満足していた。


 そう、ユレナ・リリーマイヤーはヒロインだ。

 乙女ゲーム『花と光の国のロマンシア』で、五人の美形貴族たちを夢中にさせる美少女なのだ。




 王宮にある控え室のひとつで、ユレナは攻略対象たちを待っていた。彼らが、手土産を持って帰ってくるのを。


 ドアがノックされ、侍従によって扉が開かれる。入って来たのは案の定、第二王子クリスティンを始めとした攻略対象たちだった。


 ユレナはパッと表情を明るくさせ、クリスティン王子に抱きついた。


「クリスティン様っ!」

「待たせてしまって済まない、ユレナ嬢」

「ううん。みんなのこと、信じてたから」


 王子の胸から顔を離した後、ユレナは後に続く男たちを見た。


「ダニエルもセイルもロランも、協力してくれてありがとう。……本当は卒業まで頑張らなきゃって思ってたけど、やっぱり辛くって……」


 ユレナは何かを思い出しながら、泣きそうになるフリをした。


「礼には及ばない」

「そうそう。この程度、君のためなら朝飯前だよ」

「な……泣くなよ! お前にそんな顔させないために、走り回ってたんだからよ」


 オズモンド侯爵令息セイルと、ハーファート侯爵令息ダニエル、そしてジファード伯爵家次男のロランが続けて言った。


「そ、それじゃあ……」


 ユレナは神妙な顔を作り、第二王子の方へと視線を戻す。クリスティン王子は力強い笑顔で頷いた。


「ああ。ようやく準備が整った。もう君に悲しい思いはさせないと誓おう」


 クリスティン王子が合図すると、セイルが束ねられた書類のいくつかを提示して見せた。


「君を襲った暴漢の自白した調書だ」

「……あの犯人が捕まったの!?」


 ユレナは一瞬、動揺した。しかし目の曇った男たちは、その驚きが「怖い思いをしたことを思い出して怯えた」ようにしか映らなかったようだ。


 さらに、ダニエルとロランも続く。


「いい報せはまだあるぞ。君が学院で階段から突き落とされた時の目撃者が見付かった。皆、君のために証言してくれるそうだ」


「……ったく。あいつらときたら、折れるまで時間取らせやがって。ユレナのために、さっさと協力しろってんだ」


「ロラン。それは言わない約束だ」

「あー、すまねえ。そうだった。悪い」


 ダニエルに言われて頭を掻くロランを見て、ユレナは全てが順調だと受け取ってほくそ笑んだ。


「みんな……! 私のために、ほかの人を説得してくれたのね。みんな、フラウカスティア伯爵家を怖がって助けてくれなかったのに……!」


 ふん、とセイルやダニエルが鼻を鳴らす。二人とも、フラウカスティアより格上の侯爵家だ。


「たかが伯爵家など、どうとでもできる」

「周囲が恐れているのは、クリスティン殿下の威光でしかない。そうだろう? 君は何も悪くない」

「で、でも……」


 ユレナはあくまで清純派ヒロインの顔で、悲しげに言った。


「ディアドラ様は、クリスティン様の婚約者で……、私なんかが逆らえる人じゃないって分かっているけど……」


 怯えるユレナの肩に、クリスティン王子が手を置いて励ます。


「そのことは心配するな。あの女は必ず私が何とかしよう。信じてくれ」

「クリスティン様……」


 ユレナはウソ泣きの涙を拭いながら、心の中でガッツポーズをとった。


(やった……! ついにこの時が来たわ! あのシナリオ無視女を始末できる日が!)


 しかし、ユレナにも若干の心配事はあった。


 相手の悪役令嬢がシナリオ通りに悪事を働かないため、こちらもかなり強引な手段をとっている。本来なら卒業パーティーで行われる断罪イベントを、半年も前倒しで実行しようとしているのだ。


 そのために五人の攻略対象たちのイベントを、季節を無視して急ピッチで進めてきた。結果的に攻略対象たちは全員コンプリートできた訳だが。


「……うん。クリスティン様のこと、信じてる」

「よかった。あとは任せてくれ」


 第二王子は嬉しそうに顔を綻ばせた。


 話が一段落したところで、ユレナは攻略対象が一人足りないことに気が付いた。『花ロマ』の攻略対象は、第二王子を含めて五人だ。


 ナイヴィット子爵令息リチャードの姿が見えない。


「そういえばリチャードは、どうしているの?」


「ああ、奴ならすでに会場入りしている。ディアドラに気付かれないよう、エリックや他の協力者と一緒に見張っている手筈だ。逃がさないためにもな」


「そ……そう。よかった」


 第二王子は思った以上に用意周到だ。頼もしいところだが、ユレナは心配事をそれとなく零してみた。


「でも、今夜は聖女様のお祝いの日なのに……大丈夫かしら?」


 今夜はパーティーはパーティーでも、『花ロマ』シナリオの卒業パーティーではない。

 姉妹作のヒロインである聖女が魔物討伐を成功した祝賀パーティーらしい。


「大丈夫さ」


 第二王子は、何でもないことのように言った。


「聖女殿なら、ユレナ嬢のことを分かってくれるだろう。むしろ我々は聖女殿の胸を借りるつもりで、あの悪女を懲らしめねばならない」


 第二王子の言葉に、ほかの攻略対象たち――セイル、ダニエル、ロランも賛同する。


「殿下の言う通りだ」

「へッ、違いねぇ」

「君が不安になることはないよ。全て殿下と俺たちに任せていればいい」

「みんな……。ありがとう……」


 ユレナは少し元気付けられたように笑った。


(……ま、同じヒロインだし? 後でテキトーに挨拶しとけばいっか。何か、変わり者みたいだし)


 そのあちら側――『ななダン』のヒロインの噂は、ユレナも聞き及んでいた。


 召喚された聖女が、『ななダン』のメインヒーローである第一王子コルネリウスの求婚を断ったという話だ。


(あっちのヒロインは、王子推しじゃないってことよね? 王子をフッたんだから、ハーレムルートもないし……。ってことは、私のクリスティン様が王太子になる可能性もまだあるってことよ! そうなったら、この私が王太子妃よ!? ゆくゆくは、王妃に!? サイッコー! あっちのヒロインさまさまね!)


 グランルクセリア王国には数人の王子がいるが、現国王はまだ誰も立太子させていない。第一王子が聖女と結婚できなければ、第二王子クリスティンにも王位を継ぐ可能性が出てくる。


 そうなれば、ユレナも笑いが止まらないという訳だ。


(そのためにも、必要ない悪役令嬢には退場してもらわないと……ね)


 ユレナの黒い笑みに気が付かないクリスティン王子たちが、ユレナにエスコートの手を差し伸べる。


「さあ、行こうユレナ嬢。聖女殿に倣って、我々も魔女退治だ」

「はーい♪ クリスティン様♡」


 勝利を確信し、ユレナは男たちに囲まれてパーティー会場へと向かった。








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