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庭園の中心部にあるスペースに、ティーテーブルが用意されていた。
そこにいたのは三人の人物だった。
向かって左側に、黒髪の美女。歳はミラフェイナと同じくらいだろう。
その隣には、金髪より色素の薄いレモン色の髪の少女がいた。少し年下に見える。
そして奥の上座には、プラチナブロンドに新緑の瞳の美少女が座っている。こちらもあどけなく見えるが、その視線は三人の中で一番強い。
外観だけ見れば、全くもって目の保養になるような光景だ。
そんな中、リクとアミはティーテーブルとは別に用意された椅子に座らされていた。
ティーテーブルの目の前に二つ並べられた椅子は、まるで被尋問席のようだった。
ふふふ、と笑いながら、プラチナブロンドの美少女がおもむろに立ち上がると、バンッとテーブルを打って不敵に笑った。
「ようこそ、秘密のサロン『フリーダム』へ。私がこのサロンのオーナー、エクリュア・ヴァイス・グランルクセリア。『ななダン』『花ロマ』ではモブと侮るなかれ! 私こそが、この国の第一王女よ。覚えておくことね、ヒロインさんたち?」
まだあどけなさの残る美姫から飛び出したセリフが、かつてない勢いで展開された。
リクとアミは思わず顔を見合わせ、反応に困った。
「秘密サロン……?」
表情が宇宙を背景にした猫と完全に一致しているリクの隣で、アミがおそるおそる挙手をして言った。
「えっと……。リクはともかく、私はヒロインじゃない……デスヨ?」
「出たわね、すっとぼけ!」
エクリュア王女が、ビシッとアミを指差した。
「すっと……え?」
戸惑うアミを置き去りにして、エクリュア王女は「まあいいわ」と呟きながら、座り直した。
「さて。あなたたちを連れて来させたのは、ほかでもないわ。ちょっとご挨拶しとこうと思ってね。……で、どっちが聖女だったかしら?」
試すような口調で、エクリュア王女が言った。
「なぁんてね。言わなくても分かってるわ。そっちのショートの方が聖女リク・イチジョウで、サイドアップの方が異界魔術師アミ・オオトリでしょ? 悪いけど、ミラを通してあなたたちのことは全て把握させてもらっているわ」
リクたちの視線が、一時ミラフェイナの方へと向かう。
「えっ……。どういうこと?」
「……」
アミは首を傾げているが、リクは少し状況が読めてきて、ぽんと手を打った。
「……お姫様も、転生者なのか」
「さすがに鋭いわね。今までのヒロインとは、ひと味違うっていうのは本当みたいね」
エクリュア王女は、感心したようにリクを見つめ返した。
「じゃあまず、自己紹介からね。ミラのことは知ってるだろうから、こっちの二人を紹介するわ。フラウカスティア伯爵令嬢と、クローバーリーフ伯爵令嬢よ」
王女の紹介を受け、ミラフェイナの向かい側にいた二人がリクたちの方を向く。
まず黒髪の美女が口を開いた。
「……姫様のご紹介にあずかりました、ディアドラ・フラウカスティアです。『ななダン』をご存知なら、知っているかしら? 私は『花ロマ』……『花と光の国のロマンシア』の悪役令嬢ですわ」
ディアドラは一度立ち上がり、優雅にお辞儀をした。
続いて、その横にいるレモン色の髪の少女も挨拶をした。
「私はシエラ・クローバーリーフといいます。皆様と違ってマイナーなネット小説のモブなので、ご存知ないかもしれませんけれど」
シエラがニコッと笑うと、場のひりついた空気が少し和む。
「つまり」
と、リクが総括した。
「ここは転生者の集い……?」
「いいえ」
艶やかな美貌のディアドラが、厳しい視線で否定した。にわかに戸惑うリクを見て、ディアドラは告げる。
「ここには、『ヒロイン』がいませんわ」
「……それはミラが話していた、乙女ゲームの話……?」
話を受けて答えたのはエクリュア王女だ。
「そ。あなたは、『ななダン』……『光の乙女と七人の伴侶』っていう乙女ゲームのヒロインとして召喚されたわけでしょう? その悪役令嬢がミラ。で、ディア……ディアドラのことね。彼女は『ななダン』の姉妹作にあたる『花と光の国のロマンシア』、通称『花ロマ』の悪役令嬢なのだけれど。そこのヒロインが、まぁいい性格してるわけ。……というか、私の調べでは『花ロマ』だけじゃない。ほとんどのヒロインが、ひっじょーに自分勝手でいい性格してたわ」
いい性格、というのは言葉通りの意味ではもちろんないだろう。
「ほとんどのヒロイン……?」
「そう。どうもこの世界は、無数のゲームや小説の舞台が入り乱れているみたいでね。ほかの国々にも色々な転生者が来ているのよ」
「そんなことって……」
リクとアミは顔を見合わせ、この時点で彼女たちの目的を薄々感じ取った。
王女は話を続けた。
「悪役令嬢って役柄でも分かる通り、ヒロインにとっては当て馬なわけ。シナリオ通りにヒロインが幸せになるための踏み台。ヒロイン転生した子たちは、それを当然と思っているのね。……で、悪役令嬢はシナリオによってはギロチンにかけられたり、国外追放になったりと悲惨なケースしかないのね。……でも彼女たちにとっては、そんなの知ったことじゃないみたい」
リクは、しばらく思案して尋ねた。
「……お姫様も、悪役令嬢?」
「いいえ? 私は『ななダン』『花ロマ』両方に登場するモブ王女よ。人呼んで、プロモブ!」
「はぁ……」
リクが生返事をすると、エクリュア王女は肩透かしを食ったように頭を掻く。
「ええ……。本当にゲームのこと知らなさそうね」
「知らないフリ、かと思っていましたが……」
ディアドラも少し意外そうに肩を竦めた。リクは首を振る。
「ゲーム自体、子供の頃以来だ。……そういえば子供の頃に買ってもらったクラシックゲームの中に、女の子用ゲームも入っていたかもしれない……」
「クラシックゲーム?」
王女とディアドラが眉を顰める。
すると、ミラフェイナが慌てて口を開く。
「わたくしったら、言い忘れておりましたわっ。皆様、リク様たちはわたくしたちが転生した時より未来の地球からいらっしゃったみたいですの」
「未来?」
「ええと……、いつだったかしら?」
ミラフェイナが困った表情でリクたちを振り向く。
「2052年から」
「うそでしょ!?」
エクリュア王女が目を剥いた。ディアドラとシエラも静かに驚いている。
「あ、あなたも?」
エクリュア王女が、アミにも訊ねる。
「あー、私はちょっと古くて、2048年だよ~」
「それ古いっていうの!?」
「えー、だって端末のモデルが旧式で……うぅっ」
アミは最新式と思っていた端末が、リクの時代では旧式ということをまだ引きずっているようだ。
話が脱線したところで、エクリュア王女はゴホン、と喉を鳴らした。
「……まぁいいわ。とにかく、このサロンはシナリオに縛られず、自由に生きることを決めた者たちの集いよ。モブだって主役になれるし、悪役にだって生きる権利があるわ」
「あっ、だから『フリーダム』なんだね」
「よ、よく覚えてたわね。そうよ」
アミの方も呑気な感じで、エクリュア王女たちは気勢がそがれてしまったようだ。
「あなたたち、本当にヒロインなの?」
「そう言われても……」
よく分からない、とリクは首を傾げるばかりだ。
仮に子供の頃に遊んでいたゲームの中に該当の乙女ゲームがあったとしても、プレイした記憶がないのだからしょうがない。
「いやいや、私はヒロインじゃないですよ~。乙女ゲームやったことないし……」
「ゲームとは限りませんよ? 私みたいに、ネット小説ということも」
シエラが自分を指しながら、笑顔で言う。
「うーん……。そういうの好きな友達はいたかもだけど……私は詳しくなくて」
アミも、この調子である。
「ちょっと、ユレナの時と違いすぎるじゃない」
若干悔しそうな顔で、エクリュア王女がミラフェイナの方を振り向く。リクがイヤな子だったら、第一王女の権力を利用してやり込めてやろうと考えていたのだ。
王女につつかれて、ミラフェイナは決心したように言う。
「姫様。リク様はわたくしのことを、友人と呼んで下さいましたわ。陛下に直談判して下さったり、我が公爵家のために嫌な顔ひとつせず戦いへ赴いてくれましたわ。……あのユレナ・リリーマイヤーや、ほかのヒロインたちと同じであるはずがありませんわ」
「むう……。そうよね。リク・イチジョウ。あなたが勇者代行を名乗って、討伐任務へ行ったことは聞いているわ。……まぁ、初日にお兄様をフッたと聞いた時から、違和感はあったのだけれど。……で、本当にお兄様に興味ないわけ? 妹の私が言うのもなんだけど、顔だけはイケメンじゃない」
「顔だけは」
と、その部分を笑顔のミラフェイナが復唱した。
「あの王子様のこと? この世界へ来てすぐにプロポーズされたけど、ミラの婚約者と聞いて引いた記憶しかないな」
「うっ……、ド正論」
どちらかというと、エクリュア王女の方がやり込められたような顔になっていた。
「……どうやら、本当にユレナ様とは違うようですね」
リクの顔をまじまじと見つめながら、ディアドラが言った。
「ユレナ……?」
「こちらの、『花ロマ』のヒロインに転生した方の名前ですわ。ユレナ・リリーマイヤー子爵令嬢。今、貴族学院では私の婚約者である第二王子クリスティン様を含めた『花ロマ』の攻略対象は全員コンプリ済み、恥ずかしげもなく逆ハールートを邁進中かと」
「ぎゃくはー? とは……?」
リクがこてん、と首を捻ると、エクリュア王女が説明した。
「逆ハーレムのことよ。乙女ゲームやなんかで、相手方の男性キャラ全員と両思いになることよ。全員に好かれて、ハッピー♡ っていうルートね」
「それはハッピー……なの? 貞操観念ぶっ壊れていないだろうか……?」
「そう! そうなのよ! あなた、本当にマトモなのね。逆ハーなんて、二次元のフィクションだからできることよ。一国の王様でもない限り、複数人と同時に関係を持つなんて、現実ではあり得ないことだわ。それを実際にやっちゃうんだから、ヒロイン転生者たちは頭のネジが飛んでいるとしか思えないの」
「……それで、私も同じ穴のムジナかと疑われていたと」
ようやく話が繋がったと、リクは合点がいった。
「まぁ、言っちゃえばそうなるわね。……でも、今日話してみて分かったわ。認めるわよ。あなたたちは、ほかのヒロインとは違うみたい」
「疑いが晴れたならよかった」
「よかったね、リク!」
「ちょっと。まだ完全に信用したと言った訳じゃないわよ!?」
エクリュア王女とリクたちのやり取りを横で眺めながら、二人の悪役令嬢たち――ミラフェイナとディアドラが言葉を交わしていた。
「どうでした? ディアの目から見て、こちらのヒロイン……リク様は」
「そうですね……。コルネリウス殿下をフッたというのも事実ですし、ひとまず嘘はついていないようですね。ミラ、少なくともあなたを攻撃するような人でなくて安心しましたわ」
「はいっ」
一番安心しているのは、ミラフェイナ自身だろう。ディアドラは少し羨ましい気持ちで、ミラフェイナの笑顔を見つめていた。




