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その日は朝から騒がしかった。
朝食後、例によって侍女たちに身支度をさせられたリクとアミは、数日後に控えた初めての魔物討伐任務の作戦会議のために騎士団の宿舎へ向かう予定だった。
そこへ神殿騎士のレンブラント・ラッハが再び訪れたのだ。
翳りのある銀色の美貌は、正面からリクを見つめて言った。
「あなたの予定を確認した。これより守護する私の側を離れぬよう頼む」
「予定を確認」
リクは三秒ほど首を傾げてから、「ストーカー……?」と呟いた。
「ストーカーとは何だ?」
「……」
気が付くと、姿が見えないと思っていたアミが更衣室の扉の向こうから覗いていた。
「アミ? 何故そんなところに」
「だって邪魔かなって」
そのひと攻略対象でしょ、と言ってアミはサッと頭を引っ込めた。
「攻略対象? 何の話だ」
リクはレンブラントを無視して更衣室に近付き、扉の陰からアミを引っ張り出した。
「えっ、リクってば!?」
「……私をひとりにしないで」
アミの手を引きながら、リクは顔を見せずにそう言った。
狭間の世界で、ふたりは何があっても一緒にいようと誓ったのだ。
「リク……ごめん」
「よかった」
リクはようやく振り返って笑った。
「準備はできたか?」
「その前に聞きたいことが」
騎士団の宿舎へ向かう直前、護衛をするというレンブラントを止めてリクが尋ねた。
「聖女認定式を見たのでしょう? 私は聖女と認められなかった。あなたが護衛する必要はないのでは?」
レンブラントは始め、聖女を護衛する命を受けて来たと言った。リクは『聖女の器』と認められただけで、今のところ聖女ではない。
「なんだそんなことか」
抑揚のない声調でレンブラントは言った。
「『聖女の器』なら、ほぼ聖女だろう」
「……。いや違うと思う」
事もなげに言うレンブラントに、リクは絶句しかけた。
「とにかく騎士団の拠点に向かうぞ。討伐中もあなたの護衛は私だ。作戦内容を確認しておきたい」
有無を言わせぬ様子で、リクとプラス一名は部屋から連れ出された。
騎士団宿舎へ向かう途中、前を行くレンブラントの後ろでリクとアミが小声会議を繰り広げていた。
「ねぇリク。あの人のこと苦手なの?」
「……感情が読みづらい」
正確には、読めないことはないが非常に注意深い観察が必要なことと時間が掛かることが予想される。その労力を考えると骨も惜しみたくなる。
「そうかなぁ? ただ自分の任務に一生懸命なだけに見えるけど……」
「あなたにはそう見えるの」
「うん」
「すごいな」
「えっ、何が?」
疑問符を浮かべるアミを見て、リクは微笑んだ。彼女の前ではうまく笑えるようになってきた。
「何の話をしている?」
レンブラントが肩越しに振り向いた。数秒前までのリクの微笑みが消失した。
「何でもないわ」
いやいや、とあまりにも勿体ないと感じたアミが代わりに言う。
「ラッハさんのことを話してたんですよ」
「私の?」
レンブラントは眉を顰めた。
「誰だって護衛になる人のこと知りたいですよね。リクも気になってるみたいですよ。どんな人だろうって」
「……本当か?」
と、レンブラントはリク本人に確認した。慎重な性格なのかもしれない。
「ええ……まあ」
リクが肯定すると、レンブラントは前方に向き直って表情を読ませないようにした。
「私を知る意味はない。私は弟が騎士学校を卒業するまでの代理にすぎないからな」
「……代理?」
「そうだ。聖女の護衛は本来、聖騎士が務める。私は聖剣に選ばれなかったからな。その好奇心は将来、弟に向けてやれ」
レンブラントはそれ以降、何も話さなかった。




