4
「それで今までの逮捕者が全員その『ヒロイン』だというのは、何故分かるんですか?」
問いに対してアミは迷ったが、正直に話さなければいけない気がした。
「その人たちは地球からの転生者……、生まれ変わりだからです」
「チキュウ?」
「私とリクの元いた世界です。この世界の国や人々や状況にそっくりな物語が、地球にはたくさんあるんです。どうしてかは分からないんですけど、その登場人物そっくりな人に生まれ変わっている人たちがいます」
ウルツァイトは、アミを見つめて何度か目を瞬かせた。それから考え込むような仕草をして、目を伏せながら一度頷いた。
「……。まあ、分かりました。それが『ヒロイン』?」
普通は信じられないような話をしていることは、アミも分かっている。それでもウルツァイトが受容的に話を聞いてくれていることに、アミは感謝の念があふれた。
アミは軽く首を振って、話を続けた。
「だけじゃないんですけど……。でも問題を起こしたり悪いことをするのは、『ヒロイン』なんです。……インクイジターさんって、分かりますか?」
「今、話題の人ですよね。グランルクセリアに現れてから、東大陸中で裁判を起こしているとか」
「そのインクイジターさんは、『ヒロイン』が転生者だって分かってて逮捕してると思います。えっと……。その中でも、たぶん『ヒロイン』をピンポイントに狙っています」
「そう言うからには、根拠はあるんですかね?」
「私たちは、グランルクセリアで裁判を見ました。そこで、インクイジターさんは神様に異世界の知識を与えられているって言ってました。『ヒロイン』のことも……」
「なるほど」
ウルツァイトは数秒空けてから言った。
「嘘ではなさそうですね」
「はい……! 本当ですっ!」
「それは分かりますよ」
必死に訴えかけるアミに対して、ウルツァイトはやけに淡泊にそう答えた。
アミには彼が何を考えているか分からなかったが、信じてくれるようでひとまずは胸を撫で下ろした。
少し安心したら、眠気が出てきた。甘いものを急にたくさん食べたからかもしれない。アミは少し目を擦った。
そのまま俯いて額に手を当てながら、訥々と言葉を絞り出す。
「えっと……。侯爵様にお願い、があって……」
強烈な眠気と戦いながら、アミはこれだけは言わなければと気力を振り絞る。
「『ヒロイン』の人たち、に……。オペラハウスを貸すのを……、やめて、ほしくて。もし……インクイジターさんが、リク、を……。……たら……」
「……大丈夫ですか?」
アミの異変に気付いたウルツァイトが、訝しげに声を掛けた。アミは目をしばしばさせながら額を抑えるも、ついには目を閉じて船をこぎ出した。
「おねが……します……」
「――アミさん!?」
ウルツァイトは向かいの席を立ち、アミの座るソファの方へと駆け寄った。倒れ込む予兆が見えたため、ウルツァイトがアミを支えた。
「一体、どうし……」
言いかけて、ウルツァイトはアミの顔を見て息を呑む。
無垢な花を初めて見付けたかのように。
「……分かりました。あなたに免じて、『ヒロイン』にオペラハウスを開放するのは中止します。これでいいですか?」
ウルツァイトはそう言ったが、アミの変調は改善しなかった。
「よかった……。一時間経ったら……リクが……来ちゃう……」
「……一時間?」
ウルツァイトは、近くにある置き時計を見た。
曲についての話で盛り上がっていたため、どちらも時間が経つのを忘れていたようだ。
アミがオーナールームに来てから、すでに丸一時間は経過していた。
「……たしが……しっかりしないと……。……リクが……」
「……リク? お友達が、どうかしたんですか?」
「リクのこと……。ちゃんと……。私…は……」
「アミさん? ……アミさん?」
来てしまう、という表現にウルツァイトは一種の違和感を覚えた。しかし目を閉じたアミから、その詳細を聞くことは難しそうだった。
その時、轟音を響かせ、オーナールームの扉が吹き飛んだ。
「きゃあぁぁっ。な……、な、何っ!?」
ちょうど戻って来ていたオリヴィアが衝撃で吹き飛ばされ、手に持っていた歌劇の招待券がバラバラになって床に落ちた。
真っ二つにされた扉の向こうに警備の男が倒れており、剣を携えた娘とドレスを着た令嬢が二人、一緒にオーナールームへと乗り込んできた。
勇者スキルを持つリクと、魔術に心得のあるミラフェイナ、そして錬金術を学ぶシエラの三人だ。オペラハウス入り口にいた用心棒たちはレンブラントに任せ、突入したのだった。
オリヴィアは剣を持っているリクを見ると、慌ててウルツァイトたちのいる方へと駆けてきた。
「ちょ、ちょっとオーナー。ヤバいわよ。どうなってるの、あの子たち!」
青い顔でソファの後ろに隠れるオリヴィアに対し、ウルツァイトが確認した。
「ところでオリヴィアさん。お茶やお菓子に何かしてませんよね?」
「ええ? 何かって、何よ?」
頓狂な声を上げた後で、オリヴィアはぐったりとしているアミを見た。
「アミちゃん? どうしちゃったの?」
「分かりません」
アミが途中からウトウトしだしたことを聞くと、オリヴィアは質問の意図を察して心外という顔をした。
「私は何もしてないわよ!?」
「ですよね」
平たく答え、ウルツァイトはアミに視線を移す。
「と、すると……。元からですかね。確かに少し体調が良くなさそうに見えました」
ウルツァイトたちがそんなことを話しているうちに、リクたちが入口の通路を抜けてソファに近付いて来た。
ついにタイムリミットです。
ところで、これって建造物侵入罪ですかね(笑)
次回、新年一発目で新イラスト公開します!!!!!!
お楽しみに。
皆様、よいお年をお迎え下さい。
面白いと思ったら、いいね、リアクション等の応援よろしくお願いします。




