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相手が無表情で黙っているのに気付き、アミは咄嗟に謝罪した。
ウルツァイトは、眼鏡を上げる仕草をしてから言った。
「わざわざ曲の感想を言うために、今日来たんですか?」
「えっと……」
アミが言い淀む。
先ほど暴れていたリクたちや、グランルクセリア王国出身を名乗る貴族令嬢たちとアミが仲間であることは既に知られている。
互いに警戒するべき対面であるということを、アミは忘れてしまっていた。
「あの曲を書いた人が、どんな人か気になって……」
「……はあ。何が言いたいんですか?」
ウルツァイトが鬱屈した態度を見せるが、純粋なアミには牽制にならなかった。
「だって、あのすごい曲を作った人ですよ!? あの曲を作った人の中身が知りたいと思ったんです!」
「中身……ですか?」
「はい。いつもどんなことを考えて、何を見ているのかとか……。何が好きで、何を求めて、この曲ができたのかとか……。色々……」
「……あの曲で、そんなことまで?」
ウルツァイトが、ぴくりと眉を動かした。
アミが言ったことはつまり、相手の人となりが知りたくなったということだ。
普通なら「そんなこと、他人が知れる訳がない」と一蹴されてもおかしくない。それでもアミの前で、ウルツァイトからその言葉は出なかった。
「……それで」
「はい?」
「…………」
「えっと……」
相手が意図的に口を噤んだため、アミは途惑ってしまった。
ウルツァイトは少し横を向きながら、片方の手で眼鏡を上げながら言った。
「……どうでしたか? 中身を見た感想は?」
するとアミは純粋な瞳をさらに輝かせて、すぐに返事をした。
「はいっ! 想像以上の、素敵な人でした!」
相好を崩して満面の笑みを見せるアミを見て、ウルツァイトは毒気を抜かれたような顔をした。
数秒置いてアミはようやく少し冷静になれてきたのか、自分の言ったことを自覚して赤面した。
「うわ……。急に失礼ですよね、こんなの……。すみません、でも本当に最高の曲だったから……」
「まあ……。そういうことなら、別に……。構いませんよ」
ウルツァイトの方は嫌な気はしないのか、眼鏡をくいと上げただけで何ら抗議をすることはなかった。
「ありがとうございます! お話聞いてもらえて、すごく嬉しいです」
「…………」
本当に嬉しそうに、アミは微笑んだ。ウルツァイトは少し驚いた顔で、アミの方を見つめ返した。
眼鏡を上げる仕草をしながら、ウルツァイトの方も何かを考えているようだった。
二人がしばらく向かい合っているところへ、盆に載せたティーセットを運びながらオリヴィアがオーナールームへ入ってきた。
「お二人さん♡ お話は弾んでるかしら~~?」
オリヴィアは、何故かニコニコしている。ティーセットを二人の間のローテーブルに置くと、カップやティースプーンを並べ、ポットのハーブティーを注ぎ始めた。大きめの皿の上には、焼き菓子が乗っていた。
「クッキーとタルトを持ってきたのよ。食べるかしら?」
「いいんですか!?」
バターがたっぷり練り込まれた分厚いクッキーと、果実ジャムのタルトを見てアミはまたもや目を輝かせた。
アミの思わぬ反応を見て、オリヴィアはくすりと笑った。
「よっぽど、お腹が空いていたみたいね。どうぞ」
「はわぁ~……」
アミは煌めく瞳でタルトを見つめてひとつ取ると、とても貴重なもののようにタルトを口に運んだ。
「いただきまふ! ……ん~、めちゃくちゃおいひいれふ~」
アミが目に涙を滲ませながらタルトを頬張る姿を見て、そんなにかとウルツァイトも苦笑した。
「ええと……。オートリ、さん?」
ウルツァイトが話し掛けると、アミがパッと顔を上げた。
「あっ、アミです。鳳はファミリーネームで……」
「そうですか。……では、アミさん。さっき言っていたこと……、教えてあげてもいいですよ」
「はひ?」
もぐもぐしているアミを見て、ウルツァイトは顔が緩みそうになるのを抑えながら言った。
「あの曲が、どうやってできたか」
「――!!」
すると目の色を変えたアミは紅茶でタルトを急いで流し込むと、ぶんぶんと首を縦に振った。
「興味ありそうですね」
「あります!!!!」
「そうですね……。どこから話しましょうか……」
いつになく饒舌なオーナーと、目をキラキラさせて話を聞く少女。二人を眺めながら、オリヴィアは微笑ましそうに佇んでいた。




